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夢物語(雄斗)
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しおりを挟む麻耶が生きていたら、きっと麻耶とふーくんは結ばれていた。
そんな俺は寂しさを抱えながら、たまにふーくんと遊んだりして、友達として対等な立場を築いていたかもしれない。
3人で入塾して、隼人と出会っていれば俺と隼人は仲間になっていたかもしれない。
……遥奈と茜に、辛い思いをさせないで済んだかもしれない。
『雄斗、何しているの?』
「……………え、?」
『そろそろ家出ないと遅刻しちゃうわよ。』
俺の目の前に麻耶がいる。
それも、俺と同じくらいの年頃だ。
(夢か………?)
これが走馬灯、なのか……?
『ほら、体起こしてよ……もー!ほんと、手が掛かる弟なんだから。』
麻耶は俺の腕を引っ張って体を起こさせる。
『ほら、風がもうすぐ来るから。早く出て行きなさいよ。』
「…………」
痛い。
Safe Word の痛みがまだ続いている。
(……夢じゃない。)
「……何で、お前が此処にいる………」
『…………』
「勝手に出てきた幽霊が俺を助けようとするな。」
『………』
少し大人っぽくなった麻耶は黙っているだけだ。
「何も、言わないなら放っといてくれ……母さんを助ければ?」
思ってもいないことを口に出してしまう。
本当は生きたくて仕方がない。
麻耶がこうして助けてくれたのも奇跡だ。
だけど、俺はこの状態を自分の妄想だと感じてしてしまう。
『……私が死んだせいで、雄斗が1番辛い思いしたわよね。』
「そんなことない。」
『嘘つかないで……本当に、ごめんなさい。』
「………麻耶は、何のために現れた。」
『風を助けてほしいの!……風を、死なせたくない。』
「だから俺を助けるのか?……俺は、生きていたらだめなんだよ。だから、隼人に風を託す。」
『”風”………?ふーくんって、どうして呼ばないの?』
「特別な感情が無いから。」
『……こんな時にまで嘘つかないで……あんた、本当に死ぬんだよ?!』
「……助けるなら、隼人を助けたほうが風は死なないだろ。」
『雄斗が死ぬでしょ?』
「いいよ……俺を、死なせてくれよ。」
煙が充満する室内。
いつも通りだった場所は煙と炎で燃えている。
息がしづらい、目も開けられない。
(麻耶がどんな顔をしているのか見れない。)
否、見なくてもいい。
決心が鈍る。
「……麻耶を置いて行かないよ。」
『っ…………』
「俺じゃ、嫌かもしれないけど……麻耶が寂しくならないように一緒にいてあげるから。」
『………馬鹿じゃないの。』
声が、震えてる。
(泣いてる……?)
嗚呼、
やっぱり、双子だな。
麻耶のことがすぐ分かる。
『……風と死のうとしたこと、後悔してる……一緒に死にたかった……』
「……麻耶は、寂しがりやだもんな……」
『……そうかもね。』
久しぶりに麻耶と話せた気がする。
(……当たり前か。)
麻耶には沢山の迷惑をかけた。
だから、麻耶は風に依存したんだ。
誰にも理解してくれない心を、風は理解した。
麻耶と、俺と、隼人………
「いや……きっと、それ以上……すごいな……」
(やっぱり……ふーくんは………)
『………雄斗!!!』
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