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夢物語(雄斗)
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しおりを挟む俺は、幸せになりたいだけだった。
どこで間違えたんだろう。
幸せだけじゃ物足りないよ。
「母さん。」
「……あら、逃げたんじゃないの?」
「逃げないよ。」
「そう……っ気をつけて!そこ、火傷するわよ!」
「……そりゃ、燃えてますからね。」
俺がそう言うと母さんは可笑しいように笑っている。
(何が面白い……)
俺はふーくんを逃してまで、愛する人と離れてまで母さんと死のうとしているんだ。
「……ママと一緒に、死んでくれるの?」
「母さん1人だとこの物語は終わらないからね。」
俺がそう言うと母さんは我に帰ったように、気色悪い笑みが消えた。
「そう……たくさんの人を犠牲にしたわね…梶原さんご夫妻、風さんの周りの人間、麻耶……雄斗、あなたもよ。」
(…………)
「麻耶を亡くしてからお母さんはおかしくなった。」
「雄斗、あなたも狂ったわよ。そうじゃなかったらこんなに犠牲は多くなかったもの。」
「……………」
(そうだ。俺のほうが狂っている。)
だけど……
「これは今だから言える。廣瀬家の全てがおかしかったんだよ。」
「………ママだって小さい頃耐えてたの。我慢できなかった雄斗と麻耶が悪いのよ?」
「………」
(だめだ。)
もう、狂っている人に普通の言葉なんて通じない。
でも、それでいい。
「あら、雄斗。そのナイフ、どうする気?」
「……母さんを殺すための道具だよ。」
「へー……」
(やっぱり気味が悪い。)
息子が今、実の母親を殺そうとしてるのに母さんは平然としている。
感情の読めない瞳のせいで俺が母さんを殺すことを躊躇してしまう。
「ママもいなくなったら雄斗の家族はいなくなっちゃうわよ?」
「………俺も、一緒に死ぬから大丈夫だよ。」
「そっかー……ふふ……でも、この殺しかた誰かさんとそっくりね。でも、ママを殺せる勇気があなたにあるの?」
「……麻耶の心を殺した人に言われたくないな。」
「あの子が弱かっただけよ。」
弱かった?
違う
あんなの差別だ。
「でも……私のおかげで雄斗は強い子になったわよね……それだけで、ママは嬉しいよ。」
(………………)
一丁前に母親らしい笑みを浮かべる汚物。
「……あなただって、十分汚物よ。」
「……ははっ……」
やっぱりこの人はすごい。
隼人も、母さんも……どうして人の心が分かるんだろう。
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