ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第2章 未知の世界と初めての人間

無表情なサイスは優しい…

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それからサイスはゆっくりと教えてくれた。
私が引き上げられた状況。この船のこと。向かっている国はラナクリードであること。
そして彼は言った。

「他に何か聞きたいことはあるか?」

彼は教えてくれるのに私のことは無理に聞こうとしなかった。
不思議に思いながら、疑問を紙に書いた。

『ラナクリードとはどんな国なのですか?』

「ラナクリードは水の国だ。水源が多い山に囲まれ、海にも面している。水産業の盛んな国だな」

すいさんぎょう…とは何かわからないが、水が多くあることはわかった。
それと、もう一つ気になっていることがあった。

『あの、ここはサイスさんの部屋ですか?』

「ああ、そうだ」

確認の意味が強かったけど、改めて聞くとショックが大きい。
認められていなかったとはいえ、姫だった自分が、男性の部屋で寝ていたのだ。
気絶をしていたとしても受け入れがたい。

サイスはリシアの様子を見て口を開いた。

「一応言っておくが必要と思われること以外、何もしていないからな」

『他の部屋はなかったのですか?』

「…他の部屋だと人の出入りがかなりある」

『それでも構いません』

書かれた文字を読んだサイスは、わかりやすく顔をしかめた。
不機嫌になる理由がわからず、首を傾げてサイスを見ると盛大に溜め息を吐かれた。

「あえて何も言わなかったのだが…手の甲にある鱗は隠したいものではないのか?」

とっさに言われていることがわからなかった。
10秒くらい経ってお婆さんが手の甲に逆鱗を残しておくと言っていたのを思い出した。
認識するとみるみる顔が青ざめてくる。
隠しておかなければならないものだが、サイスにはバレてしまったらしい…。

『あなたは…私を…どうしますか?』

震える手で綴られた文字。脳裏には見世物になったり、痛めつけられたり、化け物だと罵られたりと悲しい想像が次々浮かんでくる。
しかし、サイスの答えは簡単なものだった。

「結論から言えばどうもしない。リシアは俺に害を与えるか?」

逆に思わぬ問いかけをされてブンブンと頭を振る。
実際、リシアにそんな力はない。
人魚の時も少し魚と会話ができたり、歌が上手だったりする程度で害を与えることは無い。

「それならば俺も構える必要が無いだろう」

『でも…気持ち悪く無いですか?』

リシアはお婆さんに  人間は自分たちと違うものを受け入れず排除する傾向にある 、と教わっていた。
だからこそ、サイスの反応は不思議だった。

「気持ち悪く思うなら自分の部屋に入れない。そもそも、世話だってほぼ俺がやったんだぞ…」

もっともなことを言われて納得してしまう…って、聞き捨てならないことを聞いた。

『世話はサイスさんがやったんですか…?』

「ああ。俺は平気だが、他の奴がどうかはわからない。下手すれば衰弱したまま海に投げ捨てられる可能性もあった」

そう言われてしまえば何も言えない。
仕方がなかったこととはいえ、私は真っ赤になって顔を俯かせるのだった。
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