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誠会に
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テツヤ兄さんがパリから帰国した。空港では、ファンの子に混ざってマスコミがたくさん詰めかけ、ナナさんとの噂についてあれこれとテツヤ兄さんを質問攻めにした。テツヤ兄さんは終始無言で、ファンの子たちにはにこやかに手を振っていた。それを、俺は車の中から眺めていた。黒いガラス窓越しに。
今、気づいた事がある。テツヤ兄さんがナナさんとの事をあまり否定しないのは、否定するとナナさんを傷つけるからなのかもしれない。ナナさんが自分の事を想っているのに気づいているから。テツヤ兄さんの優しさなのかもしれない。
車のドアが開かれ、テツヤ兄さんが乗り込んできた。ドアが閉まるまで、テツヤ兄さんはファンの子に手を振っていた。そして、ドアが完全に閉まると、
「ふーっ。」
前を向いて、大きなため息をついた。
「お帰り。」
俺が言うと、テツヤ兄さんはこちらに振り向き、目を見開いた。
「レイジ……。」
「迎えに来たよ。」
そう言うと、テツヤ兄さんがガバッと抱き着いていた。おっとビックリ。
「テツヤ兄さん、髪の色変えたんだね。」
俺がテツヤ兄さんの頭を撫でながら言うと、
「お前、インスタ見ろよ。」
俺の肩口で、くぐもった声を出したテツヤ兄さん。
「あー……俺、インスタのアカウント削除しちゃったんだよね。あはは。」
やっぱりテツヤ兄さんも知らなかったか。
「え?なんで?」
「それは……後で言う。」
それから家に着くまで、テツヤ兄さんは隣に座っている俺の肩に、ずっと頭を付けていた。どうして俺は、あんな態度を一瞬でも取ったのだろう。話の途中で電話を切ってしまうなんて。離れていると難しいな。近くにいれば、こんなに想いが溢れて、お互いが好きだっていうのが分かるのに。しゃべらなくても分かるのに。
「で、なんでインスタ削除したんだ?」
会社の車でテツヤ兄さんの家に送ってもらった。俺はテツヤ兄さんの荷物を持って、部屋まで一緒に来た。そして、早速質問された。
「見たくなかったから。その、テツヤ兄さんが他の人と……楽しそうにしている写真とか。」
歯切れが悪くなる。カッコ悪い。嫉妬深い、嫌な彼氏。
「他の人?」
心当たりがない、と言わんばかりの顔。テツヤ兄さんの顔には、まさにはてなマークが張り付いている。
「あ、ごめん。俺が悪いんだ。俺の心が狭いというか、懐が浅いというか。ただ、友達と仲良くしているのを見るだけでも、なんかこう、寂しいっていうか、なんていうか。」
伝われ~。いや、分からなくていいんだけど。うわー、どうしよう。テツヤ兄さんを完全に悩ませちゃってるよ。美しい顔が、苦渋によってシワシワになってるよ。
「分かった。うん、お前も誠会に入れ。」
しばらく悩んだテツヤ兄さんが、突然顔を元に戻し、そう言った。
「は?俺は入れないでしょ。俺、ドラマとか出た事ないし。役者の仲間入りなんて。」
俺がそう言うと、
「んー、じゃあ、誠会に入らなくてもいいから、一緒に遊ぼう。」
テツヤ兄さんが、よく分からない事を言った。
「俺、お前にいっぱいサイン送ってたのに、気づいてなかったんだな。」
テツヤ兄さんはソファに腰かけ、背もたれに片肘をついてその手に頭を乗せ、すぐ傍に立っている俺を見上げてそう言った。
「ごめん。でも、カズキ兄さんに見せてもらったよ。」
俺がそう言うと、テツヤ兄さんはふと、顔を下に向けた。
「俺、お前に嫌われたと思った。急に、電話が切れて……俺、何かひどい事言ったのか?お前、怒ったのか?」
うつむいたまま、テツヤ兄さんがそう言った。俺は、テツヤ兄さんの頭を両手で掴み、顔を上に上げさせた。すると、テツヤ兄さんの瞳が濡れていた。目がキラキラしていて、ちょっと切なげに眉を寄せている。その顔を見たら、胸がギュッと締め付けられた。
「あ……ごめん、ごめんなさい。テツヤ兄さんは何も悪くないよ。俺が……。」
テツヤ兄さんの目から涙がこぼれた。そして、テツヤ兄さんが目を閉じた。同時に、両目から涙がツーっと流れる。俺はたまらず、唇を重ねた。テツヤ兄さんの唇が震えている。俺の唇も震えているかもしれない。息が乱れても、ずっと唇を離したくなくて、何度も何度も口づけた。
今、気づいた事がある。テツヤ兄さんがナナさんとの事をあまり否定しないのは、否定するとナナさんを傷つけるからなのかもしれない。ナナさんが自分の事を想っているのに気づいているから。テツヤ兄さんの優しさなのかもしれない。
車のドアが開かれ、テツヤ兄さんが乗り込んできた。ドアが閉まるまで、テツヤ兄さんはファンの子に手を振っていた。そして、ドアが完全に閉まると、
「ふーっ。」
前を向いて、大きなため息をついた。
「お帰り。」
俺が言うと、テツヤ兄さんはこちらに振り向き、目を見開いた。
「レイジ……。」
「迎えに来たよ。」
そう言うと、テツヤ兄さんがガバッと抱き着いていた。おっとビックリ。
「テツヤ兄さん、髪の色変えたんだね。」
俺がテツヤ兄さんの頭を撫でながら言うと、
「お前、インスタ見ろよ。」
俺の肩口で、くぐもった声を出したテツヤ兄さん。
「あー……俺、インスタのアカウント削除しちゃったんだよね。あはは。」
やっぱりテツヤ兄さんも知らなかったか。
「え?なんで?」
「それは……後で言う。」
それから家に着くまで、テツヤ兄さんは隣に座っている俺の肩に、ずっと頭を付けていた。どうして俺は、あんな態度を一瞬でも取ったのだろう。話の途中で電話を切ってしまうなんて。離れていると難しいな。近くにいれば、こんなに想いが溢れて、お互いが好きだっていうのが分かるのに。しゃべらなくても分かるのに。
「で、なんでインスタ削除したんだ?」
会社の車でテツヤ兄さんの家に送ってもらった。俺はテツヤ兄さんの荷物を持って、部屋まで一緒に来た。そして、早速質問された。
「見たくなかったから。その、テツヤ兄さんが他の人と……楽しそうにしている写真とか。」
歯切れが悪くなる。カッコ悪い。嫉妬深い、嫌な彼氏。
「他の人?」
心当たりがない、と言わんばかりの顔。テツヤ兄さんの顔には、まさにはてなマークが張り付いている。
「あ、ごめん。俺が悪いんだ。俺の心が狭いというか、懐が浅いというか。ただ、友達と仲良くしているのを見るだけでも、なんかこう、寂しいっていうか、なんていうか。」
伝われ~。いや、分からなくていいんだけど。うわー、どうしよう。テツヤ兄さんを完全に悩ませちゃってるよ。美しい顔が、苦渋によってシワシワになってるよ。
「分かった。うん、お前も誠会に入れ。」
しばらく悩んだテツヤ兄さんが、突然顔を元に戻し、そう言った。
「は?俺は入れないでしょ。俺、ドラマとか出た事ないし。役者の仲間入りなんて。」
俺がそう言うと、
「んー、じゃあ、誠会に入らなくてもいいから、一緒に遊ぼう。」
テツヤ兄さんが、よく分からない事を言った。
「俺、お前にいっぱいサイン送ってたのに、気づいてなかったんだな。」
テツヤ兄さんはソファに腰かけ、背もたれに片肘をついてその手に頭を乗せ、すぐ傍に立っている俺を見上げてそう言った。
「ごめん。でも、カズキ兄さんに見せてもらったよ。」
俺がそう言うと、テツヤ兄さんはふと、顔を下に向けた。
「俺、お前に嫌われたと思った。急に、電話が切れて……俺、何かひどい事言ったのか?お前、怒ったのか?」
うつむいたまま、テツヤ兄さんがそう言った。俺は、テツヤ兄さんの頭を両手で掴み、顔を上に上げさせた。すると、テツヤ兄さんの瞳が濡れていた。目がキラキラしていて、ちょっと切なげに眉を寄せている。その顔を見たら、胸がギュッと締め付けられた。
「あ……ごめん、ごめんなさい。テツヤ兄さんは何も悪くないよ。俺が……。」
テツヤ兄さんの目から涙がこぼれた。そして、テツヤ兄さんが目を閉じた。同時に、両目から涙がツーっと流れる。俺はたまらず、唇を重ねた。テツヤ兄さんの唇が震えている。俺の唇も震えているかもしれない。息が乱れても、ずっと唇を離したくなくて、何度も何度も口づけた。
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