沼ハマの入り口

夏目碧央

文字の大きさ
上 下
11 / 19

父親の責任

しおりを挟む
 朝陽はかなり動揺した。
「知ってるって、どういう事?もしかして祐作さん、姉ちゃんの事を知ってるの?」
「いや、まだ確信はないが。お前の姉ちゃんは、菱形建設に勤めていたか?」
「……そう、菱形建設に勤めてた。」
「だよな。俺も、菱形建設に勤めてるんだ。さっき思い出したんだ。潮さんっていう女性がいた事を。」
「姉ちゃん?」
「写真、あるか?姉さんの。」
朝陽はスマホを操作して、過去の写真を出してくれた。
「これ、遺影に使ったやつ。」
それは、まさしく俺の知っている潮さんだった。
「間違いない。」
「それで、姉ちゃんが付き合っていた男を知ってるの?」
「ああ。知ってる。だが、それも確証はない。俺が確かめてもいい。」
「祐作さん……。もし当たりだったら、どうするの?」
「まずはお線香を上げに来てもらおうじゃないか。って言っても、ここに仏壇はないから、鳥取まで行ってもらうか。それから、里奈の養育費の事だ。拒まれる可能性もあるが、相手にも責任がある。」
「でも、もし里奈を引き取りたいと言って来たらどうするの?俺、嫌だよ。里奈を知らないやつに渡したくなんかないよ!」
朝陽は徐々に激高し始めた。
「分かった。朝陽、落ち着け。そうだな、よく考えような。」

 会社で柴田の顔を見る度に、モヤモヤした。早くスッキリさせたい。だが、朝陽が言うように、万が一里奈を引き取りたいなどと言われたら、そしてもし裁判沙汰にでもなったら、朝陽に勝ち目はなさそうだ。第一に経済力。そして育てるのが独りという事も。
 朝陽は、両親とも相談するという事で、柴田に確かめるのかどうかの結論はなかなか出なかった。そんなある日、朝陽から緊急の連絡が入った。
「祐作さん、ごめん、実は俺、今大事なミーティングがあって抜けられないんだ。だけどほら、保育所に迎えに行く時間だからさ、あのー……申し訳ないんだけど、頼めないかな。」
かなり言いにくそうだったが、つまり俺に里奈を迎えに行って欲しいというお願いだった。俺は1つため息をつき、
「分かったよ。里奈を迎えに行ってくればいいんだな?それで、お前んちに行けばいい?」
実は、既に合い鍵をもらっていた。
「ありがとう!恩に着るよ!それじゃ、ごめん切るね。」
忙しそうだ。きっとビッグチャンス到来なのだろう。ここを外したら、仕事がもらえないという危機。仕事をしていれば誰にだってそういう時はある。だが、子供の世話は一日とて休めない。誰かにサポートしてもらわなければ、成り立たない。
 それが、俺だという事実はどうなのだ。俺はいいのだ。朝陽がそれで喜んでくれるのだから。だが、本来なら里奈の父親がある程度責任を持つべきなのに、何もしていないのがモヤモヤする。そもそも、子供が生まれた事さえ知らない可能性がある。潮さんはひっそりと会社を辞め、恐らく会社の誰にも知らせずに子供を産んだ。そして、命を落とした事も、朝陽やご両親は辞めてしまった会社の関係者に知らせてはいないだろう。
 そうだ、朝陽の姉、潮美香と付き合っていたかどうかだけでも、聞いてみるか。まあ、とにかく今は里奈のお迎えだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

嘔吐依存

()
BL
⚠️ ・嘔吐表現あり ・リョナあり ・汚い ー何でもOKな方、ご覧ください。  小説初作成なのでクオリティが低いです。  おかしな点があるかもしれませんが温かい目で見逃してください。ー   

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

八雲先生の苦悩

夏目碧央
BL
高校教師の二ノ宮八雲に、教師生活5年目にして初めて「気になる生徒」ができてしまった!その生徒、池田颯太が2年生になった時、八雲は彼の担任になる。つい目が行ってしまう、話しかけたい、触れたい。けれどもこの気持ちは絶対に誰にも知られてはならない。日々、苦悩しながらも幸せを噛みしめる八雲の、心の声満載のラブコメディー。

処理中です...