LOSTTIME~妖眼を持つ少年

夏目碧央

文字の大きさ
上 下
1 / 9

背中

しおりを挟む
 校舎のベランダから見える景色は、いつも夕焼け空。
 それは、いつも放課後だから。
 サッカーボールを片手に、校庭に駆け出していく彼を、いつも見ていた。

 私立の中高一貫校であるLT高校は、サッカー部やバスケットボール部の強い男子校である。高等部2年3組の教室では、今日もサッカー部の柿沼英慈を中心に、話が盛り上がっていた。英慈はサッカー部のレギュラーで背番号11。明るくて、クラスをいつも盛り上げる。授業中でも休み時間でも。
 その英慈が、普段ならそんな教室の端の席になど目もくれないのだが、たまたま投げ合っていた消しゴムが転がってしまい、拾った際にそれに目を留めた。
「あれ、お前絵が上手いな。」
それは、誰かの後ろ姿の絵だった。鉛筆でノートの1ページの半分くらいを使って描いた落書きだったけれど、影をつけて遠近感もちゃんと出ている絵だった。
 話しかけられたその絵の描き主、三笠潤也は、サラサラした前髪を鼻の頭まで伸ばしており、傍から見て全くと言っていいほど目が見えなかった。潤也は英慈に声をかけられ、顔を上げて英慈を見上げると、体をビクッとさせ、口をぽかんと開けた。
「なんだよ、その驚きようは。」
英慈は苦笑した。潤也は開いた口を閉じ、唾をごくんと飲み込んだ。
「英慈、何やってんだよ。」
英慈と消しゴムを投げ合っていた田辺裕介が、じれて声をかけた。
「ああ、わりい。いや、こいつ絵が上手いからさ。」
英慈が潤也を指さして言うと、
「サッカー部のエースが気にする相手じゃねえよ。」
と裕介が言った。すると英慈は、
「俺はエースじゃねえ、ストライカーだ。」
と言って手にあった消しゴムを宙にポンと投げ、それを足で横蹴りした。消しゴムは見事裕介の胸に命中した。裕介が手でキャッチできなかったのだ。教室の真ん中辺りから笑い声がいくつも起こる。
 そう、英慈はシュート力を誇るストライカーだ。潤也はこっそりと英慈を見ていた。目を隠しているから誰にも分からないけれど。ノートに描いた背中の絵も、英慈の背中だった。いつも授業中に見ている背中。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメンにフラれた憂さ晴らしにおっさん上司とヤっちゃったOLの話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...