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ライブ
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俺たちのバンドは「スライムキッズ」という名である。一応大学のサークルである。サークルとして登録すると何がいいって、大学内の練習室を使える事だ。スタジオを借りれば金がかかる。その点、学内の練習室は無料でありがたい。時々学内に入れない時もあって、スタジオを借りる事もあるのだが。入試のシーズンとか。
俺たちスライムキッズには、ファンがいる。まあ、10人くらいだけど。それでも、毎回ライブに来てくれて、ライブ後には取り囲まれたりする。他のメンバーには、
「涼介、もっと愛想良くしろ。」
と言われる。だが、よく知らない女が、
「リョウスケー!」
などと言って来るのは、多少抵抗がある。まあバンド内での俺はRyosukeという事になっているから、そうなるのも仕方ないのだが。ただ、俺たちは単独ライブなどはほとんど行わず、ライブハウスのイベントに参加させてもらう事が多いので、アウェイ感を感じる場所もあるわけだが、そんな時にファンの人達が来てくれると、とても安心する。だから、ありがたいとは思っている。
そして春休みのライブ当日である。会場は、渋谷の外れにある地下の小さいライブハウスだ。駅前で待ち合わせたバンドメンバー4人は、揃ってこのライブハウスにやってきた。
「ここ、初めてだね。」
俺が言うと、
「そうだな。」
メンバーの一人、ドラムのシオンが言った。ベースのシュリは、
「狭いのかと思ってたけど、けっこう広いじゃん。」
と言った。シオンもシュリも俺と同じ2年生だ。
楽屋はあるが、出演者全員は入り切らないので、荷物を置いたら客席にいる。リハーサルを順番にさせてもらい、それが終わると客が入ってくる。
「あっ、いた!リョウスケ~来たわよ~。」
数人の女性が入って来て、俺たちの方へ寄ってきた。ありがたいファンの方々だ。
「うちのバンド、ビジュアル系バンドじゃないのに、よくファンが集まるよな。」
「ほんとだよな。」
シオンとシュリが小声で話してクスクスと笑っているのがすぐ後ろで聞こえる。だが、ファンの方々は俺にプレゼントを渡すのに夢中らしく、二人の会話は聞こえていないようだ。
「ありがとうございます。」
どういうテンションでもらえばいいのか、俺はアイドルでもスター選手でもないので、よく分からない。どうも、ギクシャクする。
「やあ、いつも来てくれてありがとね。」
そんな俺に代わって、神田さんが彼女たちの相手をしてくれる。結局話術では神田さんの方が彼女たちを夢中にさせているのだ。また、神田さんに「お前は顔だけ」と言われそうだが。
俺たちの出番が回ってきた。前のバンドが引き上げてから、自分達の楽器の用意をする。俺はマイクの準備。あと、一応サイドギターを弾くので、その準備もする。ギターを持って歌うのだが、実は半分も弾けていない。だって、歌いながら弾くとか、無理なんだけど。だからまあ、飾りのようなもんだ。歌の無い所ではちょこちょこっと弾いているけれど。
客席の明りが消え、ステージのみが明るい状態になった。そして、曲が始まる。こうなると客の顔は全然見えない。途中、ミラーボールが付いて、うっすらと見えるようになった。そこですかさずファンサービス。俺はなぜか、面と向かってのリップサービスは出来ないのだが、ステージと客席に分かれていると、割と大胆なファンサービスが出来るのだ。一人一人を指さして、ウインクしたりとか。
客席からキャーキャーという悲鳴が上がり、満足する。そして、神田さんのMCが入って、2曲目になった。今度は割と客席が明るくなった。すると・・・。
自分の目を疑った。目の前に雪哉がいたから。客席には椅子があり、後ろにはバーがある。そのバーのカウンターのところに立っている客もいる。もちろん、この中には出演者も混ざっているわけだが。雪哉はカウンターと客席との間に立っていた。ほぼセンターに立っていた。荷物を持たず、上着のポケットに手を突っ込んで、こちらを見ていた。
自分達の歌を3曲やって、俺たちはステージを下りた。ギターを片付け、楽屋に荷物を取りに行く。その時に、俺は雪哉を目で探した。さっきはセンターに立っていたのに、あっという間にどこかへ消えたのだ。
探していたら、出入り口近くに立っている雪哉を見つけた。俺は思わず走り寄る。
「雪哉、来てくれたの?」
「うん。」
雪哉はやっぱりニッコリしてくれる。会いたかった、ずっと会いたかった。俺は今ものすごく感動している。でも・・・俺、ライブの事知らせたっけ。ああ、神田さんがスキー部のグループLINEに宣伝流していたか。
「今日も、良かったよ。」
ちょっと、歯切れが悪い。社交辞令ならもっとさらっと言いそうなものなのに。
「ありがと。あのさ、これから。」
と言いかけた時、ダーッとファンの方々が押し寄せてきた。
「あ、俺荷物取ってくる!」
俺は慌ててそう言うと、楽屋へ一目散に逃げ込んだ。神田さんがいないと、ファンの方々とは上手くつき合えないのだよ。
俺たちスライムキッズには、ファンがいる。まあ、10人くらいだけど。それでも、毎回ライブに来てくれて、ライブ後には取り囲まれたりする。他のメンバーには、
「涼介、もっと愛想良くしろ。」
と言われる。だが、よく知らない女が、
「リョウスケー!」
などと言って来るのは、多少抵抗がある。まあバンド内での俺はRyosukeという事になっているから、そうなるのも仕方ないのだが。ただ、俺たちは単独ライブなどはほとんど行わず、ライブハウスのイベントに参加させてもらう事が多いので、アウェイ感を感じる場所もあるわけだが、そんな時にファンの人達が来てくれると、とても安心する。だから、ありがたいとは思っている。
そして春休みのライブ当日である。会場は、渋谷の外れにある地下の小さいライブハウスだ。駅前で待ち合わせたバンドメンバー4人は、揃ってこのライブハウスにやってきた。
「ここ、初めてだね。」
俺が言うと、
「そうだな。」
メンバーの一人、ドラムのシオンが言った。ベースのシュリは、
「狭いのかと思ってたけど、けっこう広いじゃん。」
と言った。シオンもシュリも俺と同じ2年生だ。
楽屋はあるが、出演者全員は入り切らないので、荷物を置いたら客席にいる。リハーサルを順番にさせてもらい、それが終わると客が入ってくる。
「あっ、いた!リョウスケ~来たわよ~。」
数人の女性が入って来て、俺たちの方へ寄ってきた。ありがたいファンの方々だ。
「うちのバンド、ビジュアル系バンドじゃないのに、よくファンが集まるよな。」
「ほんとだよな。」
シオンとシュリが小声で話してクスクスと笑っているのがすぐ後ろで聞こえる。だが、ファンの方々は俺にプレゼントを渡すのに夢中らしく、二人の会話は聞こえていないようだ。
「ありがとうございます。」
どういうテンションでもらえばいいのか、俺はアイドルでもスター選手でもないので、よく分からない。どうも、ギクシャクする。
「やあ、いつも来てくれてありがとね。」
そんな俺に代わって、神田さんが彼女たちの相手をしてくれる。結局話術では神田さんの方が彼女たちを夢中にさせているのだ。また、神田さんに「お前は顔だけ」と言われそうだが。
俺たちの出番が回ってきた。前のバンドが引き上げてから、自分達の楽器の用意をする。俺はマイクの準備。あと、一応サイドギターを弾くので、その準備もする。ギターを持って歌うのだが、実は半分も弾けていない。だって、歌いながら弾くとか、無理なんだけど。だからまあ、飾りのようなもんだ。歌の無い所ではちょこちょこっと弾いているけれど。
客席の明りが消え、ステージのみが明るい状態になった。そして、曲が始まる。こうなると客の顔は全然見えない。途中、ミラーボールが付いて、うっすらと見えるようになった。そこですかさずファンサービス。俺はなぜか、面と向かってのリップサービスは出来ないのだが、ステージと客席に分かれていると、割と大胆なファンサービスが出来るのだ。一人一人を指さして、ウインクしたりとか。
客席からキャーキャーという悲鳴が上がり、満足する。そして、神田さんのMCが入って、2曲目になった。今度は割と客席が明るくなった。すると・・・。
自分の目を疑った。目の前に雪哉がいたから。客席には椅子があり、後ろにはバーがある。そのバーのカウンターのところに立っている客もいる。もちろん、この中には出演者も混ざっているわけだが。雪哉はカウンターと客席との間に立っていた。ほぼセンターに立っていた。荷物を持たず、上着のポケットに手を突っ込んで、こちらを見ていた。
自分達の歌を3曲やって、俺たちはステージを下りた。ギターを片付け、楽屋に荷物を取りに行く。その時に、俺は雪哉を目で探した。さっきはセンターに立っていたのに、あっという間にどこかへ消えたのだ。
探していたら、出入り口近くに立っている雪哉を見つけた。俺は思わず走り寄る。
「雪哉、来てくれたの?」
「うん。」
雪哉はやっぱりニッコリしてくれる。会いたかった、ずっと会いたかった。俺は今ものすごく感動している。でも・・・俺、ライブの事知らせたっけ。ああ、神田さんがスキー部のグループLINEに宣伝流していたか。
「今日も、良かったよ。」
ちょっと、歯切れが悪い。社交辞令ならもっとさらっと言いそうなものなのに。
「ありがと。あのさ、これから。」
と言いかけた時、ダーッとファンの方々が押し寄せてきた。
「あ、俺荷物取ってくる!」
俺は慌ててそう言うと、楽屋へ一目散に逃げ込んだ。神田さんがいないと、ファンの方々とは上手くつき合えないのだよ。
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