上 下
22 / 33

路面電車

しおりを挟む
 富山駅の中を、路面電車の線路が2本通っている。その線路を渡るのに、遮断機のない踏切を渡る。駅構内は人の往来も激しいのに、遮断機がないのだ。慣れない身からすると、非常に無防備に見える。普段は青信号になっていて、電車が近づくと、赤信号になって音が鳴る。前もって警報音が鳴るのではなく、電車が目の前に来たらいきなり音が鳴って、赤いランプが点灯する感じだ。信号の色の灯りは、信号機だけでなく地面でも光る。光る線が線路と平行に走っているのだ。渡っている最中に、急に赤になったらビックリしてしまいそうだ。でも、線路と線路の間にいたとしても、そこで立ち止まって、電車が通り過ぎるのをやり過ごせばいいらしい。こんな無防備な場所でも、スマートフォンを見ながら歩いていて、線路の真ん中に取り残される若者もいる。慣れているようで平気の平左衛門だ。
 さて、3番線からと言われたので、表示を見て3番と書いてあるホームに行った。ホームとは言わないのかな。乗り場か。おじさんもそう言っていた。3番乗り場には数人が並んでいる。私もその後ろに並んで待っていると、電車が到着した。前の扉が開き、人が降りてきた。後ろの扉は閉まったままだ。その時、私の後ろに並んでいた、腰の曲がったお婆さんが、
「もうすぐ開きますからね。」
と教えてくれた。親切だ。だから安心していたのだが、電車の後ろの扉が開く事はなく、電車はそのまま発車して、行ってしまった。びっくり。なんで?
 お婆さんも驚いたようで、
「あら?行っちゃったね。どうしてだろ。」
と言っている。
「前の扉まで行かないといけなかったんでしょうかね。」
私が言う。この人、地元民かと思ったらそうじゃないのか?そんな事を思っていると、私の前に並んでいた若い女性が、
「あれは富山大学行きなので。」
と言う。
「そうなの?」
お婆さんが言う。私は、フリー切符を開いて中を見た。フリー切符は厚紙が二つ折りなっていて、開くと左側にカレンダーのようなものが、右側には路線図が書いてあるのだ。私はその路線図を見てみた。だが、富山大学は見つけられなかった。観光客には優しくないぞ、この路線は。すると若い女性は、
「あれには乗らなくていいんです。次の電車が来て、ちゃんと乗れるので大丈夫です。」
と教えてくれた。私にではなく、お婆さんに教えてあげているようだった。もしや、まさか、私が地元民ではなく、このお婆さんが地元民だから、よそ者には話しかけず、地元民にだけ話しかけたとか?富山の人はよそ者に警戒心がある?いやいや、お婆さんはわざわざ私に話しかけてくれたし、そんな事はないと思うが……。そうだよな、私が路線図を見ている間に、お姉さんとお婆さんの二人の会話になってしまっただけなんだよな。そもそも、私はよそ者に見えるだろうか?あれ?お婆さんが最初にああやって声をかけてくれたのも、つまりは私がよそ者だと最初から分かっていたからという事なのか?不思議だ。観光客に見えるような格好をしているだろうか。それか、どう見ても富山県民の顔ではないとか?まあどのみち、路面電車の事が分かっていないから、今はよそ者にしか見えないだろうな。このお婆さんは地元民のように見えるが、実際どうなのか?よく分かっていないみたいだが、単にお年寄りだから?
 それにしても、よそ様のバスや路面電車は、そのルールが難しい。しばらく観察していれば分かってくるのだが、先頭に並んでしまったらどうしようもない。前の人に習って、同じようにやるのが一番だ。
 そして、次の電車がやってきた。ちゃんと後ろの扉も開いて、列の前の人から順番に電車に乗り込んだ。
 富山の路面電車は、おおよそバスのルールと同じだった。ここでは後ろの扉(と言っても車体の真ん中辺りにある)から入り、運転席横の前の扉から降りる。降りる時に料金を払う。フリー切符の場合はそれを見せるのだが、二つ折りの中を開いてカレンダーのような物を見せる。カレンダーのような物は、月と日と、それぞれの数字が羅列していて、その数字はスクラッチになっている。そのスクラッチの、今日の日付の数字を削っておき、その部分を運転手に見せて降りるのだ。私が持っているフリー切符のスクラッチは、観光案内所のおじさんが削ってくれていた。きちんと削れていないけれど、まあいいのだろう。
 さて、無事に電車に乗れた。初めての電車にソワソワする。座っていいんだよな?とキョロキョロし、ソワソワしつつ座席に座った。今まで、広島と長崎で路面電車に乗ったことがある。東京にもあるのに、東京の路面電車には乗ったことがない。
 外を眺めていると、ほぼバスに乗っている感じだ。車体の低いバスのよう。でも、揺れ方が違う。乗り心地はやっぱり電車だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

長年の憧れ!さっぽろ雪まつり~ウポポイ(民族共生象徴空間)

夏目碧央
エッセイ・ノンフィクション
長年の憧れだったさっぽろ雪まつりに行く事に。しかし、寒さが心配。あれこれ準備するが……。予期せぬ前日の用事から始まり、あまりに幸先の悪い出来事。何とか到着したものの、お腹が……。最後まで目が離せない!……多分。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今度こそ疲れ過ぎないようにリベンジ!でも結局ハプニングだらけの2回目一人旅in松江・出雲

夏目碧央
エッセイ・ノンフィクション
完全実話。中年になってから一人旅を始めた筆者。2回目の一人旅は島根県へ。自分で自分にミッションを課し、自分で自分の首を絞める相変わらずな性格が災いし、出発早々歩く歩く……。こんな調子で無事に行って帰って来られるのか?

処理中です...