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政変~契り2
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それから数日ほど経って、首相がお見合い写真をいくつか持って来た。だが、遥貴はそれを開いてもみなかった。
「未来、やっぱり僕、王妃を迎えるのは嫌だ。嘘でも他の人と結婚したくない。」
夜になって、遥貴はそう言った。ここの所考え込んでいる事の多かった遥貴だった。今、未来の腕枕に頭を乗せ、天井を見つめながら力強くそう言った。
「それで?国王を辞めるのか?それとも国王のままで、俺と結婚する道を探すか?」
未来も天井を見ながら言った。
「僕は、未来と一緒にいられるなら、どっちでもいい。ただ、僕が国王でなくなった時、僕に何の価値があるのか、それが分からない。」
そうだ、これだけ帝王学を叩きこまれたのだ。今更普通の人生に戻れと言われても困るだろう。
「それじゃあさ、国王を辞めて、大統領になるというのはどうだ?」
未来が言ったので、
「は?」
遥貴は驚いて体を反転させた。
「僕が大統領に?それはどうかな。大統領っていうのは選挙で選ばれるんだろ?それに、年齢制限だってあるんじゃないのか?」
「いやいや、何せこの国にはまだない制度だからな。これから作るんだから、被選挙権は18歳以上に与えられる事にすればいいんだ。選挙なら、勝てるだろう。お前なら。」
未来がそう言った。そこは考えていなかった遥貴は、何と言って返せばいいのか分からなかった。
「未来はいろんな事を考えるね。頭の中どうなってんの?」
遥貴が言って未来の頭を軽く小突くと、
「お前のダディにもよく言われたよ。」
と未来が言って笑った。
未来は、大統領制を推進する、国民主権党と接触した。もし遥貴を大統領候補にしてもらえるならば、王制復権党を潰す手伝いをする、と持ち掛けた。国民主権党からしても、国王の人気が高いがゆえに、現政権を倒す事が現実的とは思えずにいたのである。国王の方から大統領制を推してもらえれば、国民の意向も変わるだろうと思えた。
その、未来が留守にしている時に、首相が遥貴の元を訪れた。突然の訪問であった。勉強の最中だった遥貴だが、首相の面会に応じた。
「陛下、王妃候補は選んでいただけましたでしょうか?」
首相は表面上はにこやかに言った。
「いえ、まだ選んでいません。しかし、私は健康でまだ若いのです。そう急がなくてもいいでしょう。」
遥貴がそう言うと、首相は困った顔をした。そして、何かを思いついたように、背もたれによりかかっていた体を起こし、前のめりになった。
「陛下、もし、心に決めていらっしゃる方がおいでなら、そのお方を王妃にしていただいても構いませんよ。今は、それほどお家柄などにこだわりませんから。」
遥貴は大きくため息をついた。すると、今度は首相は声を潜めて、更に顔を近づけて言った。
「もし、意中の方が男性なら、その方をお傍に置いて構いません。王妃は形だけでいいのです。小耳に挟んだ話ですが、王族のお血筋は同性愛者が多いと聞きます。昔の事は分かりませんが、最近ではほとんど皆さん人工授精でお子様を授かったとか。」
首相は、遥貴が尊人のクローンだという事も知っている。何しろ、尊人と健斗にクローンベイビーの事を吹き込んだのはこの首相なのである。
「いかがですか?もし形だけの王妃なら、私の方で適当な者を選んでおきますが。」
こんな時に未来がいないとは、と遥貴は不安を隠せなかった。ここで返事をしてもいいのか、どうなのか。ああ、自分は未来に頼りすぎている、と痛感した遥貴だった。
そこへ、勝手にドアを開けて入って来た人物がいた。未来だった。用事を済ませて帰ってきたら、首相が来ていると聞き、急いで入って来たのだ。
「失礼します。陛下、遅くなりまして申し訳ありません。」
未来はそう言って、遥貴に頭を下げた。普段未来が遥貴に頭を下げる事はほとんどない。これは、首相に対するアピールだ。突然入って来た事が首相に対して失礼に当たる事はない、あくまで王の傍にいるべき自分が遅れて来たのだ、というポーズを取ったのだ。遥貴は一瞬面食らったが、
「良い。ここへ。」
遥貴は、視線で自分の隣の椅子を指し示した。未来は一礼して遥貴の隣の椅子に座った。遥貴は、
「首相が、王妃を適当に選んでしまっていいかと問うている。」
と、未来に説明した。
「陛下は、どのようにお考えで?」
未来が遥貴に聞いた。ここで僕に聞くのか?と一瞬困惑した遥貴だが、
「私は、まだ早いと思っている。」
とにかくそう言った。すると未来は、
「そうですか。首相、陛下はまだお若い。一生の伴侶を決めるのですから、時間がかかっても仕方がない。もう少しお待ちいただけませんか。」
と言った。首相はそれで、渋々収穫なしで帰っていった。
「これで良かったの?」
遥貴が未来に聞くと、未来は親指を立てた。
「それでいい。時間を稼げばいいんだ。これから政局が動く。王妃を選んでしまっては、選ばれた女性に迷惑がかかるからな。」
「うん。ああ、良かった。何て言えばいいのか悩んだよ。」
そんな無邪気な遥貴を見て、未来は少し不安になった。大統領にして、本当に大丈夫だろうかと。
「未来、やっぱり僕、王妃を迎えるのは嫌だ。嘘でも他の人と結婚したくない。」
夜になって、遥貴はそう言った。ここの所考え込んでいる事の多かった遥貴だった。今、未来の腕枕に頭を乗せ、天井を見つめながら力強くそう言った。
「それで?国王を辞めるのか?それとも国王のままで、俺と結婚する道を探すか?」
未来も天井を見ながら言った。
「僕は、未来と一緒にいられるなら、どっちでもいい。ただ、僕が国王でなくなった時、僕に何の価値があるのか、それが分からない。」
そうだ、これだけ帝王学を叩きこまれたのだ。今更普通の人生に戻れと言われても困るだろう。
「それじゃあさ、国王を辞めて、大統領になるというのはどうだ?」
未来が言ったので、
「は?」
遥貴は驚いて体を反転させた。
「僕が大統領に?それはどうかな。大統領っていうのは選挙で選ばれるんだろ?それに、年齢制限だってあるんじゃないのか?」
「いやいや、何せこの国にはまだない制度だからな。これから作るんだから、被選挙権は18歳以上に与えられる事にすればいいんだ。選挙なら、勝てるだろう。お前なら。」
未来がそう言った。そこは考えていなかった遥貴は、何と言って返せばいいのか分からなかった。
「未来はいろんな事を考えるね。頭の中どうなってんの?」
遥貴が言って未来の頭を軽く小突くと、
「お前のダディにもよく言われたよ。」
と未来が言って笑った。
未来は、大統領制を推進する、国民主権党と接触した。もし遥貴を大統領候補にしてもらえるならば、王制復権党を潰す手伝いをする、と持ち掛けた。国民主権党からしても、国王の人気が高いがゆえに、現政権を倒す事が現実的とは思えずにいたのである。国王の方から大統領制を推してもらえれば、国民の意向も変わるだろうと思えた。
その、未来が留守にしている時に、首相が遥貴の元を訪れた。突然の訪問であった。勉強の最中だった遥貴だが、首相の面会に応じた。
「陛下、王妃候補は選んでいただけましたでしょうか?」
首相は表面上はにこやかに言った。
「いえ、まだ選んでいません。しかし、私は健康でまだ若いのです。そう急がなくてもいいでしょう。」
遥貴がそう言うと、首相は困った顔をした。そして、何かを思いついたように、背もたれによりかかっていた体を起こし、前のめりになった。
「陛下、もし、心に決めていらっしゃる方がおいでなら、そのお方を王妃にしていただいても構いませんよ。今は、それほどお家柄などにこだわりませんから。」
遥貴は大きくため息をついた。すると、今度は首相は声を潜めて、更に顔を近づけて言った。
「もし、意中の方が男性なら、その方をお傍に置いて構いません。王妃は形だけでいいのです。小耳に挟んだ話ですが、王族のお血筋は同性愛者が多いと聞きます。昔の事は分かりませんが、最近ではほとんど皆さん人工授精でお子様を授かったとか。」
首相は、遥貴が尊人のクローンだという事も知っている。何しろ、尊人と健斗にクローンベイビーの事を吹き込んだのはこの首相なのである。
「いかがですか?もし形だけの王妃なら、私の方で適当な者を選んでおきますが。」
こんな時に未来がいないとは、と遥貴は不安を隠せなかった。ここで返事をしてもいいのか、どうなのか。ああ、自分は未来に頼りすぎている、と痛感した遥貴だった。
そこへ、勝手にドアを開けて入って来た人物がいた。未来だった。用事を済ませて帰ってきたら、首相が来ていると聞き、急いで入って来たのだ。
「失礼します。陛下、遅くなりまして申し訳ありません。」
未来はそう言って、遥貴に頭を下げた。普段未来が遥貴に頭を下げる事はほとんどない。これは、首相に対するアピールだ。突然入って来た事が首相に対して失礼に当たる事はない、あくまで王の傍にいるべき自分が遅れて来たのだ、というポーズを取ったのだ。遥貴は一瞬面食らったが、
「良い。ここへ。」
遥貴は、視線で自分の隣の椅子を指し示した。未来は一礼して遥貴の隣の椅子に座った。遥貴は、
「首相が、王妃を適当に選んでしまっていいかと問うている。」
と、未来に説明した。
「陛下は、どのようにお考えで?」
未来が遥貴に聞いた。ここで僕に聞くのか?と一瞬困惑した遥貴だが、
「私は、まだ早いと思っている。」
とにかくそう言った。すると未来は、
「そうですか。首相、陛下はまだお若い。一生の伴侶を決めるのですから、時間がかかっても仕方がない。もう少しお待ちいただけませんか。」
と言った。首相はそれで、渋々収穫なしで帰っていった。
「これで良かったの?」
遥貴が未来に聞くと、未来は親指を立てた。
「それでいい。時間を稼げばいいんだ。これから政局が動く。王妃を選んでしまっては、選ばれた女性に迷惑がかかるからな。」
「うん。ああ、良かった。何て言えばいいのか悩んだよ。」
そんな無邪気な遥貴を見て、未来は少し不安になった。大統領にして、本当に大丈夫だろうかと。
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