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反抗期~自嘲5
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翌朝、尊人と出くわした未来は、何となく尊人の顔を直視できなかった。すると、すれ違いざま、尊人は未来の腕をぐっと掴んで立ち止まらせた。
「え?どうした?」
未来が驚いて聞くと、尊人は微笑んでいた。
「未来、早速俺の言った通りにしてくれたんだね、ありがとう。」
未来はぎくりとした。
「な、なんの事?遥貴が何か言ったのか?」
思わず狼狽して聞くと、
「言わなくたって、顔を見ればわかるよ。」
尊人はすまして言った。未来は見る見るうちに赤面した。
「お前、母親みたいだな。」
尊人はそれには答えず、微笑んだまま去った。
「あ、俺変な事言ったな。お前は親だもんな。」
未来のその言葉は、尊人に届いたかどうか、尊人はただ歩いて行った。
それから、遥貴はいい子になった。未来を困らせるようなわがままを言う事も無くなった。おねだりは、しない事もないが。未来は自分で自分を笑いたくなった。遥貴のわがままに手を焼いていた時、尊人を呼び寄せれば、きっと叱ってくれて、遥貴のわがままも直ると思っていたのだ。けれど、実際に尊人がやってきたら、尊人は遥貴にではなく未来に助言をした。遥貴の行いを正すのではなく、未来の態度を変えることで、遥貴のわがままは直ったのだ。君子が反抗期だと言ったが、つまりは思春期の欲求不満だったのか。それとも、自分がいつまでも煮え切らないでいたから、そういう事になっていたのか。いずれにしても、尊人のおかげで全てが上手く行った事は間違いない。偉大なる前王。未来は自分を笑うとともに、尊人に改めて忠誠を誓った。密かに。
遥貴は、国立大学付属中学校の部活に入り、ほぼ毎日テニスをした。未来が公用車で送り迎えをした。遥貴に、初めてこの国の友達が出来た。王族が通学する事も珍しくない学校なので、国王と言えど学校としてはそれほど神経質にはならなかった。生徒たちは興味津々で、少々おっかなびっくりではあるが、遥貴に話しかけてくる子も多く、徐々にお互いに打ち解けていった。1カ月も通えば、すっかり友達同士になった。
友達同士で仲良くする遥貴を見ていると、未来は嬉しいのと寂しいのと不安なのとがないまぜになった気持ちになった。この国で、自分しか心を許せる相手がいなかったから、遥貴は自分に執着していたのではないか、と考えてしまう。同世代の気の許せる仲間ができたら、親と同い年の未来の事なんて、飽きてしまうのではないか。
「それならそれで、仕方ないか。」
未来はそう、自分に言い聞かせた。求められている間だけでもいい。将来、遥貴に他の恋人ができたとしても、自分は国王を生涯守っていく。体の許す限り、遥貴を傍で支える。そう誓うと、なぜだか胸がひどく痛むのだった。
尊人は、宮殿の庭に畑を作り、耕した。健斗と一緒に。恩赦で無罪になったとはいえ、一度逮捕されているので、対外的に公務を行う事は憚られ、国内向けに名誉館長だとか名誉会員だとかになって、時々挨拶をするくらいだった。そんな仕事には必ず健斗がついて行った。そこは以前とあまり変わらない。
遥貴が公務に出かける時は、未来がいつも傍にいた。遥貴は、困った時にはいつも未来に相談し、助言を仰いだ。それも、以前の尊人とあまり変わらなかった。
そんなある日、ちょっとした事件が起こった。遥貴が国王として公務を行っていた時だ。新しい文化施設ができて、視察に訪れている最中、突然一人の男がわーっと言って襲ってきたのだ。建物の中だったので、そこの館長とマスコミ関係者数名と、未来と、近衛兵2名が付いていただけだった。男は刃物を持っていた。誰も拳銃などは持ち合わせておらず、しかも、油断していて未来も近衛兵も、遥貴よりだいぶ後ろにいて離れていた。
「わー!」
と言って、刃物を遥貴に向かって振りかざす男。
「陛下!」
未来や近衛兵が駆け付けようとしたが間に合いそうもなかった。すると、遥貴は刃物をよけてのけぞり、そのままバック転をした。刃物は空を切り、男がひるんだすきに遥貴は刃物を蹴り飛ばした。そこで近衛兵二人が男を取り押さえ、未来は遥貴を背にして立ちはだかった。
「遥貴、怪我はないか?」
未来が背中越しに振り返って聞いた。
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど。」
ふうっと未来は詰めていた息を吐いた。なんとこの子は。こんな国王、見た事がない。当然マスコミが今の顛末をカメラに収めたに違いない。遥貴は、元々健斗に仕込まれていたが、最近もまた健斗と一緒に武道の修行をしていた。忙しくなってしまって、イギリスにいた頃のように頻繁には出来ないまでも、週に1,2回は訓練をしていたのだ。そして、その時は未来も一緒に訓練をしていた。
当然、この時の映像は瞬く間に全世界に広がった。この国の若き国王は素晴らしい、クールだ、とそれはそれはフィーバーしたのだった。
「え?どうした?」
未来が驚いて聞くと、尊人は微笑んでいた。
「未来、早速俺の言った通りにしてくれたんだね、ありがとう。」
未来はぎくりとした。
「な、なんの事?遥貴が何か言ったのか?」
思わず狼狽して聞くと、
「言わなくたって、顔を見ればわかるよ。」
尊人はすまして言った。未来は見る見るうちに赤面した。
「お前、母親みたいだな。」
尊人はそれには答えず、微笑んだまま去った。
「あ、俺変な事言ったな。お前は親だもんな。」
未来のその言葉は、尊人に届いたかどうか、尊人はただ歩いて行った。
それから、遥貴はいい子になった。未来を困らせるようなわがままを言う事も無くなった。おねだりは、しない事もないが。未来は自分で自分を笑いたくなった。遥貴のわがままに手を焼いていた時、尊人を呼び寄せれば、きっと叱ってくれて、遥貴のわがままも直ると思っていたのだ。けれど、実際に尊人がやってきたら、尊人は遥貴にではなく未来に助言をした。遥貴の行いを正すのではなく、未来の態度を変えることで、遥貴のわがままは直ったのだ。君子が反抗期だと言ったが、つまりは思春期の欲求不満だったのか。それとも、自分がいつまでも煮え切らないでいたから、そういう事になっていたのか。いずれにしても、尊人のおかげで全てが上手く行った事は間違いない。偉大なる前王。未来は自分を笑うとともに、尊人に改めて忠誠を誓った。密かに。
遥貴は、国立大学付属中学校の部活に入り、ほぼ毎日テニスをした。未来が公用車で送り迎えをした。遥貴に、初めてこの国の友達が出来た。王族が通学する事も珍しくない学校なので、国王と言えど学校としてはそれほど神経質にはならなかった。生徒たちは興味津々で、少々おっかなびっくりではあるが、遥貴に話しかけてくる子も多く、徐々にお互いに打ち解けていった。1カ月も通えば、すっかり友達同士になった。
友達同士で仲良くする遥貴を見ていると、未来は嬉しいのと寂しいのと不安なのとがないまぜになった気持ちになった。この国で、自分しか心を許せる相手がいなかったから、遥貴は自分に執着していたのではないか、と考えてしまう。同世代の気の許せる仲間ができたら、親と同い年の未来の事なんて、飽きてしまうのではないか。
「それならそれで、仕方ないか。」
未来はそう、自分に言い聞かせた。求められている間だけでもいい。将来、遥貴に他の恋人ができたとしても、自分は国王を生涯守っていく。体の許す限り、遥貴を傍で支える。そう誓うと、なぜだか胸がひどく痛むのだった。
尊人は、宮殿の庭に畑を作り、耕した。健斗と一緒に。恩赦で無罪になったとはいえ、一度逮捕されているので、対外的に公務を行う事は憚られ、国内向けに名誉館長だとか名誉会員だとかになって、時々挨拶をするくらいだった。そんな仕事には必ず健斗がついて行った。そこは以前とあまり変わらない。
遥貴が公務に出かける時は、未来がいつも傍にいた。遥貴は、困った時にはいつも未来に相談し、助言を仰いだ。それも、以前の尊人とあまり変わらなかった。
そんなある日、ちょっとした事件が起こった。遥貴が国王として公務を行っていた時だ。新しい文化施設ができて、視察に訪れている最中、突然一人の男がわーっと言って襲ってきたのだ。建物の中だったので、そこの館長とマスコミ関係者数名と、未来と、近衛兵2名が付いていただけだった。男は刃物を持っていた。誰も拳銃などは持ち合わせておらず、しかも、油断していて未来も近衛兵も、遥貴よりだいぶ後ろにいて離れていた。
「わー!」
と言って、刃物を遥貴に向かって振りかざす男。
「陛下!」
未来や近衛兵が駆け付けようとしたが間に合いそうもなかった。すると、遥貴は刃物をよけてのけぞり、そのままバック転をした。刃物は空を切り、男がひるんだすきに遥貴は刃物を蹴り飛ばした。そこで近衛兵二人が男を取り押さえ、未来は遥貴を背にして立ちはだかった。
「遥貴、怪我はないか?」
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ふうっと未来は詰めていた息を吐いた。なんとこの子は。こんな国王、見た事がない。当然マスコミが今の顛末をカメラに収めたに違いない。遥貴は、元々健斗に仕込まれていたが、最近もまた健斗と一緒に武道の修行をしていた。忙しくなってしまって、イギリスにいた頃のように頻繁には出来ないまでも、週に1,2回は訓練をしていたのだ。そして、その時は未来も一緒に訓練をしていた。
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