上 下
46 / 55

反抗期~自嘲2

しおりを挟む
 遥貴が瑠璃子の元へ赴いたのは、翌々日の事だった。特別室ではあるが、監獄である。面会室で面会する際には、やはりガラス越しだった。
 瑠璃子は手錠などはされていなかった。部屋に入ってきて、遥貴を見た途端、驚いた顔をした。未来は、瑠璃子に対してお辞儀をした。顔を上げると、瑠璃子もお辞儀をした。
「瑠璃子様、こちらは尊人様のお子様で、現国王の遥貴様です。」
未来がかしこまって言うと、遥貴は頭を下げた。瑠璃子はじっと遥貴を見つめ、そして微笑んだ。
「尊人さんにそっくりですね。そうですか、国王になられたんですね。」
穏やかに言う瑠璃子は、あの時の危険な雰囲気はまるで感じさせない、王家の人間らしい物腰だった。
「瑠璃子さん、あなたは、父を殺そうとしたのですか?仲が良かったと聞きました。それなのに、なぜ?ご自分が国王になりたかったのですか?」
遥貴がいきなりそう言いだしたので、未来はぎょっとした。そして、遠慮がちに瑠璃子の顔を見た。怒るか、青くなるか、と思ったが、意外にも穏やかな表情は変わらなかった。
「尊人さんには、本当に申し訳なかったと思っています。あの時は、自分がどうなるのか不安で、何も見えていませんでした。後悔しています。今も、そして昔も、国王になどなりたくはなかったのです。ただ、どうしたら良いか分からなかった。本当に、申し訳ありませんでした。」
瑠璃子は深々と頭を下げた。未来は思わず頭を下げた。遥貴は頭を下げなかったが、未来を見て言った。
「恩赦だ。瑠璃子さんの罪を許そう。」
と言った。
「えっ。あ、陛下、それはここですぐには決められません。政府が決める事です。」
未来が言うと、
「そうか。それは失礼。瑠璃子さん、もし、無罪放免になったら、この先何がしたいですか?」
遥貴は堂々としていて、未来を驚かせた。
「何も。いえ、もし国民の皆さんのお役に立てる事があるなら、それをしたいと思います。」
瑠璃子が答えた。未来は、瑠璃子を改めて見た。瑠璃子もまた、しかるべき教育を受けて来た王室の人間だ。あの時だけ、乱れた。もしかしたら、反抗期が遅く来たか、などと変な事を考えた未来だった。
 宮殿に帰る道すがら、遥貴は言った。
「未来、録音しておいたか?」
「ああ、していたよ。」
「あれを聞かせれば、政府も恩赦を認めるだろう。」
未来は穴が開くほど遥貴の顔を見つめた。いつの間に、こんなに大人になったのか。そういえば、また少し背が伸びたな、などと考えながらしばらく見つめる未来だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...