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帝王教育~翻弄1
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未来は、外務省の仕事のふりをして国土交通省を訪ねていき、首都近郊の空港に着陸する小型飛行機を調べた。どうか、地方の空港ではありませんように、と願いながら。地方だったらもうアウトだ。見つけられない。イギリスを発ったのが正確に何時なのかは分からない。まして、飛行機の大きさも分からない。自分たちがこっそり出国したのがイタリア籍の民間の飛行機だったので、そのようなものではないか、と当たりをつけて探した。そして、二つの飛行機を特定した。
誘拐ではあるが、尊人のクローンの存在はこの国に知られては困る。だから警察や政府に知らせるわけには行かない。何とか自分が見つけ出し、取り返して尊人の元へ返す。今はただ、そう心に誓って動くのみだ。
本職を少し早めに切り上げ、空港に出かけた。イギリスからは飛行機で約12時間かかる。どんなに早くても夕方の5時頃本国に到着するはずだ。空港では、外務省の権限で、夕方到着する飛行機を探し出した。まず、少し早いがこれかなと当たりをつけた一機は、外国の金持ちの自家用機だった。到着したその場で中を改めたが、外れだった。本国の人間はいないし、荷物もいたってシンプルだった。
次の飛行機は、本国の財閥の持ち物。金持ちはいるものだな、と未来は思った。これは、表立って点検して良いものか。外国籍の飛行機なら、外務省が点検してもよさそうだが、本国の、しかも財閥のものとなると、一職員が何かしようものなら、たちどころに上司の知るところとなり、警備員に引きずり出されるに違いない。未来は、今度の飛行機は慎重に、そう、外務省職員ではなく、忍者になって調べる事にした。懐かしい。もう何年も忍術なんて使っていない。体は多少鍛えているけれど。
陰に隠れ、飛行機から降りてくる面々を見ていたが、その中に遥貴はいなかった。という事は、荷物の中に閉じ込められているのかもしれない。荷物を追いかけ、空港の中を移動し、荷物がトラックに積み込まれた際、未来も一緒に乗り込んだ。
車は割とすぐにどこかに到着した。荷物が取り出される際、未来は荷物に身を隠しながら一緒にトラックの荷台を降り、車体の陰に隠れた。そして、辺りを素早く見渡す。閑静な住宅街の中の、豪勢な邸宅だった。その門の中に入っている。黒いぴったりとした服を着た未来は、そろそろ薄暗くなりかけた庭を素早く移動し、中が見える窓を探した。
窓から見ると、一番大きい荷物の荷ほどきが行われていた。そして、やはり、そこから眠っている遥貴が出てきた。なんとひどいことを。未来は奥歯を噛んだ。
遥貴はその場で目を覚ました。
「あれ?ここは?」
遥貴は声を出した。よかった、とりあえず無事なようだ、と未来は胸を撫で下ろした。
「本国へようこそ、陛下。」
回りにいた男たちはひざまずいて頭を下げた。遥貴はキョトンとしている。
「あの、どうして僕はここにいるんですか?」
遥貴が前の男に聞くと、男は立ち上がって、
「我が国には、国王が必要です。それは、あなただ。あなたが最もふさわしい。これからここでしばらく帝王教育をお受けになってください。悪いようにはしません。どうか、今日はゆっくりおやすみください。お部屋は2階です。」
男が合図し、一人の男が遥貴にどうぞ、とジェスチャーで誘導した。遥貴は良く分からないようだったが、その男に従い、らせん階段を上がった。未来は、外の柱や壁を伝って、2階へよじ登った。廊下の窓が開いていたので、そこから入り込み、観葉植物の陰に隠れた。ちょうど、遥貴を送って行った男が部屋から出てくるところだった。部屋が分かったので、後はそこへ入るのみ。未来は、遥貴の部屋へ入った。もちろん鍵がかかっていたが、そこは持っていた針金で簡単に開けた。これも忍術である。
「遥貴!」
小さな声で呼ぶと、ベッドに突っ伏していた遥貴が顔を上げた。
「え?未来?未来!」
「しーっ!」
未来が人差し指を唇に当てると、遥貴は黙ったけれど、代わりに涙を流し、未来に駆け寄って飛びついた。
「抱き着いてくれた。久しぶりだな。」
未来が言うと、遥貴はぎゅーっと力を入れて抱き着いた。
しばらくして、遥貴が落ち着いたのを見計らい、ベッドに並んで腰かけた。
「一体、僕はどうしたんだろう。ここはどこなの?」
遥貴は涙をぬぐってそう言った。
「ここは、お前のお父さん達の母国だよ。俺が住んでいる国だ。」
未来が優しく言う。
「そういう事だよね。うすうす分かっていたよ。そう言えば、自転車で家に帰っていたら、男の人に呼び止められて、自転車を降りたら何人もの人にいきなり捕まえられて、車に押し込められたんだ。それから後の事は記憶にない。」
遥貴は頭に両手を当てて言った。
「可愛そうに。」
未来は、遥貴の肩を抱いて、ポンポンと肩を叩いた。
「どうして僕は誘拐されたんだろう?さっきの人、国王がどうとかって言ってたけど・・・もしかして、頭のおかしい人にさらわれちゃったのかな?」
「遥貴、もしかして、尊人がこの国の国王だったって話、聞いたことないのか?」
未来がそう言うと、遥貴は目が点になった。
「は?何?」
未来は苦笑して、もう一度言った。
「尊人は、この国の国王だったんだよ。最後の国王だ。」
遥貴の驚く顔を見て、未来は微笑んだ。そうだな、知らなかったら驚くな。
「うっそでしょ。それで?僕が息子だから、国王にって?そもそも、何で国王だったパパが、今はあそこでああやって暮らしてるの?」
「まあ、落ち着け。今から長いいきさつを話してやるから。」
未来は、尊人が国王になり、それを辞めたがっていた事、多少端折ったが、国王を辞めるに至った経緯を話した。
「そうだったんだ。知らなかった。それで、僕はどうしたらいいの?」
遥貴がそう言ったので、
「遥貴はどうしたい?やっぱり家に帰りたいよな。お父さんたちに会いたいよな。」
未来がそう言うと、意外にも遥貴は首を横に振った。
「帰りたくない。僕は、僕は・・・未来とずっと一緒にいたいんだ。未来と離れたくない。だって、僕は、未来の事が好きなんだ!」
未来はそれこそ、腰が抜けてしまったかのように、自分の体が動かなくなってしまった。それくらい、驚いた。そして、何も考えられなかった。何も考えず、ただ、遥貴を抱きしめていた。
これは、尊人ではない。それは分かっている。だが俺は、遥貴の中に尊人の面影を追ってしまっているのではないか。未来はずっと自問し続けていた。なぜ自問していたのか、それが今分かった。それは、遥貴に心を奪われそうになるから。相手は子供だ、尊人ではないんだ、そう頭では分かっていても、心が魅かれるのはどうしようもない。
「俺は、お前を尊人の元に返してやらなければ、ならない。」
未来はそれでも、そんな言葉を絞り出した。
「僕、国王になるよ。未来が傍にいてくれるなら。僕がここから逃げたところで、何も解決しないでしょ。僕が作られた理由は、この国の国王になるためなんじゃないの?」
未来はハッとした。その通りかもしれないと思ってしまった。いや、そうではない。尊人と健斗の愛の結晶なのだ。けれど、脈々と続いてきたこの国の王族の血が、途絶えることなく続いた。尊人は、途絶えてしまってもいいと言うけれど、本当にそれでいいのか。一個人の考えで、簡単に切ってしまって良いものなのか。未来は逡巡した。
そこへ、ドアをノックする音がした。未来はさっとベッドの下に身を隠した。ドアを開け、女性が入って来た。お辞儀をする。
「陛下、食事のご用意ができました。食堂へどうぞ。」
「分かりました。」
遥貴がそう言うと、
「その前に、お着替えをしてください。ここにお部屋着がございます。お風呂は食事の後にご案内します。」
女性はクローゼットを開けて中を見せ、お辞儀をして出て行った。未来はさっと身をひるがえして出てきた。
「とにかく、一旦練り直す。俺は行くが、一人で大丈夫か?」
未来が言うと、遥貴は頷いた。目には少し不安そうな色が浮かぶ。未来は、そんな遥貴を残していくのが忍びないと思ったが、遥貴が国王になると言っている以上、ここにいても危険はないだろうし、下手に連れ出してもその先の取るべき方法が分からない。未来はそっと遥貴の額にキスをした。
「大丈夫だ。またすぐに会いに来る。」
未来がそう言うと、遥貴は少し安心したように再び頷いた。
誘拐ではあるが、尊人のクローンの存在はこの国に知られては困る。だから警察や政府に知らせるわけには行かない。何とか自分が見つけ出し、取り返して尊人の元へ返す。今はただ、そう心に誓って動くのみだ。
本職を少し早めに切り上げ、空港に出かけた。イギリスからは飛行機で約12時間かかる。どんなに早くても夕方の5時頃本国に到着するはずだ。空港では、外務省の権限で、夕方到着する飛行機を探し出した。まず、少し早いがこれかなと当たりをつけた一機は、外国の金持ちの自家用機だった。到着したその場で中を改めたが、外れだった。本国の人間はいないし、荷物もいたってシンプルだった。
次の飛行機は、本国の財閥の持ち物。金持ちはいるものだな、と未来は思った。これは、表立って点検して良いものか。外国籍の飛行機なら、外務省が点検してもよさそうだが、本国の、しかも財閥のものとなると、一職員が何かしようものなら、たちどころに上司の知るところとなり、警備員に引きずり出されるに違いない。未来は、今度の飛行機は慎重に、そう、外務省職員ではなく、忍者になって調べる事にした。懐かしい。もう何年も忍術なんて使っていない。体は多少鍛えているけれど。
陰に隠れ、飛行機から降りてくる面々を見ていたが、その中に遥貴はいなかった。という事は、荷物の中に閉じ込められているのかもしれない。荷物を追いかけ、空港の中を移動し、荷物がトラックに積み込まれた際、未来も一緒に乗り込んだ。
車は割とすぐにどこかに到着した。荷物が取り出される際、未来は荷物に身を隠しながら一緒にトラックの荷台を降り、車体の陰に隠れた。そして、辺りを素早く見渡す。閑静な住宅街の中の、豪勢な邸宅だった。その門の中に入っている。黒いぴったりとした服を着た未来は、そろそろ薄暗くなりかけた庭を素早く移動し、中が見える窓を探した。
窓から見ると、一番大きい荷物の荷ほどきが行われていた。そして、やはり、そこから眠っている遥貴が出てきた。なんとひどいことを。未来は奥歯を噛んだ。
遥貴はその場で目を覚ました。
「あれ?ここは?」
遥貴は声を出した。よかった、とりあえず無事なようだ、と未来は胸を撫で下ろした。
「本国へようこそ、陛下。」
回りにいた男たちはひざまずいて頭を下げた。遥貴はキョトンとしている。
「あの、どうして僕はここにいるんですか?」
遥貴が前の男に聞くと、男は立ち上がって、
「我が国には、国王が必要です。それは、あなただ。あなたが最もふさわしい。これからここでしばらく帝王教育をお受けになってください。悪いようにはしません。どうか、今日はゆっくりおやすみください。お部屋は2階です。」
男が合図し、一人の男が遥貴にどうぞ、とジェスチャーで誘導した。遥貴は良く分からないようだったが、その男に従い、らせん階段を上がった。未来は、外の柱や壁を伝って、2階へよじ登った。廊下の窓が開いていたので、そこから入り込み、観葉植物の陰に隠れた。ちょうど、遥貴を送って行った男が部屋から出てくるところだった。部屋が分かったので、後はそこへ入るのみ。未来は、遥貴の部屋へ入った。もちろん鍵がかかっていたが、そこは持っていた針金で簡単に開けた。これも忍術である。
「遥貴!」
小さな声で呼ぶと、ベッドに突っ伏していた遥貴が顔を上げた。
「え?未来?未来!」
「しーっ!」
未来が人差し指を唇に当てると、遥貴は黙ったけれど、代わりに涙を流し、未来に駆け寄って飛びついた。
「抱き着いてくれた。久しぶりだな。」
未来が言うと、遥貴はぎゅーっと力を入れて抱き着いた。
しばらくして、遥貴が落ち着いたのを見計らい、ベッドに並んで腰かけた。
「一体、僕はどうしたんだろう。ここはどこなの?」
遥貴は涙をぬぐってそう言った。
「ここは、お前のお父さん達の母国だよ。俺が住んでいる国だ。」
未来が優しく言う。
「そういう事だよね。うすうす分かっていたよ。そう言えば、自転車で家に帰っていたら、男の人に呼び止められて、自転車を降りたら何人もの人にいきなり捕まえられて、車に押し込められたんだ。それから後の事は記憶にない。」
遥貴は頭に両手を当てて言った。
「可愛そうに。」
未来は、遥貴の肩を抱いて、ポンポンと肩を叩いた。
「どうして僕は誘拐されたんだろう?さっきの人、国王がどうとかって言ってたけど・・・もしかして、頭のおかしい人にさらわれちゃったのかな?」
「遥貴、もしかして、尊人がこの国の国王だったって話、聞いたことないのか?」
未来がそう言うと、遥貴は目が点になった。
「は?何?」
未来は苦笑して、もう一度言った。
「尊人は、この国の国王だったんだよ。最後の国王だ。」
遥貴の驚く顔を見て、未来は微笑んだ。そうだな、知らなかったら驚くな。
「うっそでしょ。それで?僕が息子だから、国王にって?そもそも、何で国王だったパパが、今はあそこでああやって暮らしてるの?」
「まあ、落ち着け。今から長いいきさつを話してやるから。」
未来は、尊人が国王になり、それを辞めたがっていた事、多少端折ったが、国王を辞めるに至った経緯を話した。
「そうだったんだ。知らなかった。それで、僕はどうしたらいいの?」
遥貴がそう言ったので、
「遥貴はどうしたい?やっぱり家に帰りたいよな。お父さんたちに会いたいよな。」
未来がそう言うと、意外にも遥貴は首を横に振った。
「帰りたくない。僕は、僕は・・・未来とずっと一緒にいたいんだ。未来と離れたくない。だって、僕は、未来の事が好きなんだ!」
未来はそれこそ、腰が抜けてしまったかのように、自分の体が動かなくなってしまった。それくらい、驚いた。そして、何も考えられなかった。何も考えず、ただ、遥貴を抱きしめていた。
これは、尊人ではない。それは分かっている。だが俺は、遥貴の中に尊人の面影を追ってしまっているのではないか。未来はずっと自問し続けていた。なぜ自問していたのか、それが今分かった。それは、遥貴に心を奪われそうになるから。相手は子供だ、尊人ではないんだ、そう頭では分かっていても、心が魅かれるのはどうしようもない。
「俺は、お前を尊人の元に返してやらなければ、ならない。」
未来はそれでも、そんな言葉を絞り出した。
「僕、国王になるよ。未来が傍にいてくれるなら。僕がここから逃げたところで、何も解決しないでしょ。僕が作られた理由は、この国の国王になるためなんじゃないの?」
未来はハッとした。その通りかもしれないと思ってしまった。いや、そうではない。尊人と健斗の愛の結晶なのだ。けれど、脈々と続いてきたこの国の王族の血が、途絶えることなく続いた。尊人は、途絶えてしまってもいいと言うけれど、本当にそれでいいのか。一個人の考えで、簡単に切ってしまって良いものなのか。未来は逡巡した。
そこへ、ドアをノックする音がした。未来はさっとベッドの下に身を隠した。ドアを開け、女性が入って来た。お辞儀をする。
「陛下、食事のご用意ができました。食堂へどうぞ。」
「分かりました。」
遥貴がそう言うと、
「その前に、お着替えをしてください。ここにお部屋着がございます。お風呂は食事の後にご案内します。」
女性はクローゼットを開けて中を見せ、お辞儀をして出て行った。未来はさっと身をひるがえして出てきた。
「とにかく、一旦練り直す。俺は行くが、一人で大丈夫か?」
未来が言うと、遥貴は頷いた。目には少し不安そうな色が浮かぶ。未来は、そんな遥貴を残していくのが忍びないと思ったが、遥貴が国王になると言っている以上、ここにいても危険はないだろうし、下手に連れ出してもその先の取るべき方法が分からない。未来はそっと遥貴の額にキスをした。
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