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子孫~芽生え3
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月日が流れ、遥貴が12歳になった。未来は、ここ3年ほどご無沙汰していたが、久しぶりに尊人たちに会いに出かけた。夏の休暇である。
飛行機でロンドンに到着し、そこから電車とバスで北上し、途中からは追跡などを逃れるため、徒歩で向かった。しばらく歩くと一面の畑。見渡す限り誰もいない状態がずっと続く。これなら、後を付けられているという心配もなかった。ロンドンには明け方着いたのに、尊人たちの家に到着したのは夕暮れ時だった。
家の玄関が見えてくると、玄関のドアが開いた。そう、いつもこのパターンなのだ。未来が到着するのを首を長くして待っている遥貴が、窓から外を眺めていて、未来を見つけると家から飛び出して来て出迎えてくれるのだ。たまにしか会えないので、小さい頃は毎回初対面のように人見知りされたが、小学校に上がる頃からは未来を覚えていてくれて、いつも飛びついて歓迎してくれるようになった。滞在中は遊んでくれるので、遥貴は未来の事が大好きだった。今回は3年ぶり。いつも大きくなった遥貴に驚く未来だが、今回はどれほど大きくなったかとワクワクしていた。そして、玄関から飛び出してくると思った遥貴は、なかなか飛び出して来ない。未来はどんどん進んで、もうすぐ着いてしまうという所で、やっと遥貴が出てきた。
未来の足は、止まった。一瞬、尊人が出てきたのかと思った。だが、若く、表情があどけなく、これは、間違いなく遥貴だと思って、そして、この前会った時との変化に、驚いた。子供で、飛びついてきて抱っこしていた遥貴が、背が伸びてすっかり男になって、ちょっとはにかみながら、未来を見ている遥貴。
「いらっしゃい。」
そう、言った遥貴に、更にびっくり。声が低くなっている。甲高い声で「みらいー!」と叫びながら出てきた遥貴を思い出し、もうあの遥貴はいないのだと思って、そして、やはり尊人に声まで似ているのだと思って、もう、パニックだった。しばし声が出ない。
数秒間見つめ合ってから、やっと未来は口がきけるようになった。
「遥貴、ずいぶん大きくなったな。俺は・・・びっくりしちゃったよ。」
「そりゃそうだよ。ずっと来てくれなかったから。」
遥貴は夕陽に照らされて、顔が赤く目がキラキラしていた。未来は、その顔をずっと見ていたいと思った。
が、そうもいかなかった。玄関から、健斗が顔を出したのだ。
「未来!よく来たな。入れよ。」
「あ、ああ。」
未来は我に返り、健斗に笑いかけてから、もう一度自分を見ている遥貴を見た。
「もう、抱き着いて来てはくれないんだな。」
未来がそうつぶやくと、遥貴はぷいっと奥へ行ってしまった。そこへ、だん、と壁ドンされた。健斗に。
「お前、遥貴に手を出そうとしてんじゃないだろうな。」
「はあ?何言ってんだよ。子供じゃないか。」
未来はムキになって言った。
「尊人がダメだったからって、代わりに遥貴を。」
健斗がそう言うのを遮って、未来が、
「それ以上言うな。そんな事は考えてない。」
小声で、しかしすごむように言って、健斗を睨みつけた。
「・・・ごめん。そうだな、分かってるよ。お前はそんな奴じゃない。」
健斗はそう言って、軽く未来をハグした。
「まあ、ゆっくりしてくれよ。遥貴がさ、ああ見えてお前が来るのをすっごく楽しみにしてたんだぜ。後でいろいろ話を聞いてやってくれよ。」
そう言いながら、未来の肩に手をかけ、家の中へ招き入れた。ダイニングに入ると尊人がいて、何やら料理をしていた。宮殿にいた頃は、料理なんてした事なかったのにな、と未来はしみじみと思った。
「もう、俺らも35だな。未来、お前はまだ結婚しないのか?」
「健斗、相変わらずデリカシーのない発言だな。」
未来は健斗を睨みつけた。それを見て軽く笑った尊人は、
「未来、本国はどうだ?平和か?」
と、未来に尋ねた。尊人は、ああ、さすが元国王だなと思わせる。本国をいつも気にかけているに違いない。
「ああ、何とか平和だよ。だが、あまり景気が良くない。大統領制にするという議論もあまり進んでいないな。まだ国王制を復活させようという動きもあるし。」
未来が言うと、そういえば、と尊人は椅子に座り、
「何度か、遥貴が危ない目に遭ったんだ。誘拐されそうになったというか。」
と言った。
「なに?どこで?」
未来が前のめりに聞くと、健斗と尊人は顔を見合わせた。
「学校だ。」
健斗が言う。
「詳しく聞かせろよ。」
未来が急かすと、まあ座れ、と健斗が未来に椅子を勧め、自分も座ってから話し出した。
「学校には俺が迎えに行ってるんだけど、俺が到着する前に、遥貴に声をかけてる人物がいたそうなんだ。遥貴によると、お父さんに頼まれて迎えに来たと言ったらしい。だが、俺は予め先生にお願いしてあったんだ。俺と尊人以外の人物には、決して遥貴を渡さないで欲しいと。」
「それ、どういうストーリーになってるんだ?」
つい興味を持って未来は聞いた。
「それはな、遥貴は、尊人と離婚した奥さんとの間の子供って事にしてあるんだ。奥さんの方が遥貴に虐待するので、別れて尊人が育てていると。だが、奥さんの実家は金持ちで、後継ぎが欲しいからと遥貴を狙っているが、また向こうで虐待されるかもしれない。だから、決して遥貴を他の誰かに渡さないでくれと、そう説明してある。」
未来は、何となく麗良の事を思い出していた。尊人が結婚していたというのはあながちでたらめではないが、麗良が虐待していたなんて事になっているとしたら、麗良が気の毒だなと思ってちょっと苦笑いした。
「それは良い設定だな。遥貴が尊人にそっくりな理由もそれで納得できるだろうし、ゲイカップルではないという設定だろ?お前たちはどういう関係って事になってるんだ?友達どうしか?」
未来が聞くと、健斗は心外だとばかりに鼻の穴を膨らませ、
「俺たちは、カップルだよ。そこは本当の事を言ってあるさ。」
と、胸を張って言った。それだと、尊人はバイセクシュアルという設定だな、などと思ったが、未来はそれ以上何も言わなかった。それについては。
「さっき、何度か危ない目に遭ってるって言ったよな?それは一度ではないということか?」
未来が言うと、尊人が、
「二度、来たらしい。」
と言った。未来は考え込んだ。既に学校がバレている。それなら自宅がバレていてもおかしくないが、ここまでは来ていないのか。
「その、怪しい奴が来たのはいつ頃だ?」
未来が聞くと、
「夏休みに入る2週間前くらいと、夏休みに入る前日だ。」
と尊人が言った。時間の問題かもしれない、と未来は思った。ここが見つかって、遥貴が独りで歩いている所を襲われる可能性がある。
「俺が来て良かった。しばらく遥貴を一人にしないようにしよう。」
未来は、遥貴を絶対に守る、と改めて心に誓った。
飛行機でロンドンに到着し、そこから電車とバスで北上し、途中からは追跡などを逃れるため、徒歩で向かった。しばらく歩くと一面の畑。見渡す限り誰もいない状態がずっと続く。これなら、後を付けられているという心配もなかった。ロンドンには明け方着いたのに、尊人たちの家に到着したのは夕暮れ時だった。
家の玄関が見えてくると、玄関のドアが開いた。そう、いつもこのパターンなのだ。未来が到着するのを首を長くして待っている遥貴が、窓から外を眺めていて、未来を見つけると家から飛び出して来て出迎えてくれるのだ。たまにしか会えないので、小さい頃は毎回初対面のように人見知りされたが、小学校に上がる頃からは未来を覚えていてくれて、いつも飛びついて歓迎してくれるようになった。滞在中は遊んでくれるので、遥貴は未来の事が大好きだった。今回は3年ぶり。いつも大きくなった遥貴に驚く未来だが、今回はどれほど大きくなったかとワクワクしていた。そして、玄関から飛び出してくると思った遥貴は、なかなか飛び出して来ない。未来はどんどん進んで、もうすぐ着いてしまうという所で、やっと遥貴が出てきた。
未来の足は、止まった。一瞬、尊人が出てきたのかと思った。だが、若く、表情があどけなく、これは、間違いなく遥貴だと思って、そして、この前会った時との変化に、驚いた。子供で、飛びついてきて抱っこしていた遥貴が、背が伸びてすっかり男になって、ちょっとはにかみながら、未来を見ている遥貴。
「いらっしゃい。」
そう、言った遥貴に、更にびっくり。声が低くなっている。甲高い声で「みらいー!」と叫びながら出てきた遥貴を思い出し、もうあの遥貴はいないのだと思って、そして、やはり尊人に声まで似ているのだと思って、もう、パニックだった。しばし声が出ない。
数秒間見つめ合ってから、やっと未来は口がきけるようになった。
「遥貴、ずいぶん大きくなったな。俺は・・・びっくりしちゃったよ。」
「そりゃそうだよ。ずっと来てくれなかったから。」
遥貴は夕陽に照らされて、顔が赤く目がキラキラしていた。未来は、その顔をずっと見ていたいと思った。
が、そうもいかなかった。玄関から、健斗が顔を出したのだ。
「未来!よく来たな。入れよ。」
「あ、ああ。」
未来は我に返り、健斗に笑いかけてから、もう一度自分を見ている遥貴を見た。
「もう、抱き着いて来てはくれないんだな。」
未来がそうつぶやくと、遥貴はぷいっと奥へ行ってしまった。そこへ、だん、と壁ドンされた。健斗に。
「お前、遥貴に手を出そうとしてんじゃないだろうな。」
「はあ?何言ってんだよ。子供じゃないか。」
未来はムキになって言った。
「尊人がダメだったからって、代わりに遥貴を。」
健斗がそう言うのを遮って、未来が、
「それ以上言うな。そんな事は考えてない。」
小声で、しかしすごむように言って、健斗を睨みつけた。
「・・・ごめん。そうだな、分かってるよ。お前はそんな奴じゃない。」
健斗はそう言って、軽く未来をハグした。
「まあ、ゆっくりしてくれよ。遥貴がさ、ああ見えてお前が来るのをすっごく楽しみにしてたんだぜ。後でいろいろ話を聞いてやってくれよ。」
そう言いながら、未来の肩に手をかけ、家の中へ招き入れた。ダイニングに入ると尊人がいて、何やら料理をしていた。宮殿にいた頃は、料理なんてした事なかったのにな、と未来はしみじみと思った。
「もう、俺らも35だな。未来、お前はまだ結婚しないのか?」
「健斗、相変わらずデリカシーのない発言だな。」
未来は健斗を睨みつけた。それを見て軽く笑った尊人は、
「未来、本国はどうだ?平和か?」
と、未来に尋ねた。尊人は、ああ、さすが元国王だなと思わせる。本国をいつも気にかけているに違いない。
「ああ、何とか平和だよ。だが、あまり景気が良くない。大統領制にするという議論もあまり進んでいないな。まだ国王制を復活させようという動きもあるし。」
未来が言うと、そういえば、と尊人は椅子に座り、
「何度か、遥貴が危ない目に遭ったんだ。誘拐されそうになったというか。」
と言った。
「なに?どこで?」
未来が前のめりに聞くと、健斗と尊人は顔を見合わせた。
「学校だ。」
健斗が言う。
「詳しく聞かせろよ。」
未来が急かすと、まあ座れ、と健斗が未来に椅子を勧め、自分も座ってから話し出した。
「学校には俺が迎えに行ってるんだけど、俺が到着する前に、遥貴に声をかけてる人物がいたそうなんだ。遥貴によると、お父さんに頼まれて迎えに来たと言ったらしい。だが、俺は予め先生にお願いしてあったんだ。俺と尊人以外の人物には、決して遥貴を渡さないで欲しいと。」
「それ、どういうストーリーになってるんだ?」
つい興味を持って未来は聞いた。
「それはな、遥貴は、尊人と離婚した奥さんとの間の子供って事にしてあるんだ。奥さんの方が遥貴に虐待するので、別れて尊人が育てていると。だが、奥さんの実家は金持ちで、後継ぎが欲しいからと遥貴を狙っているが、また向こうで虐待されるかもしれない。だから、決して遥貴を他の誰かに渡さないでくれと、そう説明してある。」
未来は、何となく麗良の事を思い出していた。尊人が結婚していたというのはあながちでたらめではないが、麗良が虐待していたなんて事になっているとしたら、麗良が気の毒だなと思ってちょっと苦笑いした。
「それは良い設定だな。遥貴が尊人にそっくりな理由もそれで納得できるだろうし、ゲイカップルではないという設定だろ?お前たちはどういう関係って事になってるんだ?友達どうしか?」
未来が聞くと、健斗は心外だとばかりに鼻の穴を膨らませ、
「俺たちは、カップルだよ。そこは本当の事を言ってあるさ。」
と、胸を張って言った。それだと、尊人はバイセクシュアルという設定だな、などと思ったが、未来はそれ以上何も言わなかった。それについては。
「さっき、何度か危ない目に遭ってるって言ったよな?それは一度ではないということか?」
未来が言うと、尊人が、
「二度、来たらしい。」
と言った。未来は考え込んだ。既に学校がバレている。それなら自宅がバレていてもおかしくないが、ここまでは来ていないのか。
「その、怪しい奴が来たのはいつ頃だ?」
未来が聞くと、
「夏休みに入る2週間前くらいと、夏休みに入る前日だ。」
と尊人が言った。時間の問題かもしれない、と未来は思った。ここが見つかって、遥貴が独りで歩いている所を襲われる可能性がある。
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