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再会~成就1
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未来は、武術を教える教室を開く事にした。「忍術」と唄えば、イギリス人に受けるだろうと思った。そして、母国語も教える事にする。そうすれば、尊人にも手伝ってもらえる。元手も必要ないし、まだ蓄えもある。とにかく道場を開き、看板を掲げた。インターネットにもホームページを開設し、入会申込や見学予約をウェブ上でできるようにした。早速申し込みが入り、子供から大人まで、忍術を教える教室は始まった。基本を教えるだけでも、皆喜んで帰って行く。
だが、尊人は元気がなかった。生徒たちの前では明るく振舞っているけれど、一人になるとうつむいて何かを考えている事が多かった。未来は、その姿を見るのがつらかった。
夜、居間のソファで読書をしていた尊人が、本を閉じてから何やら一人で考えている時、未来は雑務を終えて部屋に入って来た。未来はそっと後ろから抱きしめた。
「どうした?何を考えてるの?」
未来が優しく問うと、尊人は未来の腕を両手でつかんだ。けれども何も言わない。未来は手を離した。そして、ソファを回って尊人の前に立った。うつむいていた尊人は、ゆっくり未来の顔を見上げた。しばらく、2人は動かなかった。しばらくして、尊人は立ち上がり、未来に抱きついた。未来は尊人の頭を撫でた。
「お休み。」
尊人はそう言って、寝室へ入って行った。未来は大きく息を吐いた。そして天井を仰いだ。
そうして3カ月あまりが経った。尊人と未来の関係は、変わらなかった。尊人がふさぎ込む事はほとんどなくなったが、未来が尊人を抱きしめると、その時は悲しそうな目をする尊人だった。
それでも、確かめたい、そうしないではいられない未来は、ある夜、決行した。
入浴を済ませた未来は、先に入浴を済ませてソファに座り、スマートフォンを見ていた尊人のところへゆっくりと歩いて行った。
「どうした?」
ただならぬ雰囲気を察してか、尊人はスマートフォンから目を離し、未来を見た。未来はギラギラした目をしていた。尊人がスマートフォンをテーブルに置くのと、未来が尊人の隣に腰かけるのとが同時だった。
「未来、何か話があるのか?」
尊人が問うと、
「尊人、俺の事好きか?」
未来は突然そう言った。
「え?そりゃあ、好きだよ。未来は?」
尊人が無邪気に聞くと、
「俺は、お前を愛している。」
未来はそう言った。尊人は黙った。なんと言ったらいいのか、分からなかったからだ。未来は尊人の顔に手を当てた。そして、自分の顔を近づける。尊人の全身に力が入った。こんな日が来るのではないかと、心の中では覚悟していた。健斗が、自分が邪魔だからと言って出て行ってから、こうなるのではないかと。それがきっと正しい道で、自然な事で、自分にとっても幸せな事なのだと思おうとしていた。だから、試そうと思った。
未来は、尊人にそっと口づけた。そして、もう一度。更に、深く口づけようとしたところで、尊人は顔をそむけた。
「・・・ごめん。」
未来が言うと、尊人は小さく首を横に振った。未来は立ち上がって、そのまま自分の寝室に入って行った。尊人は難しい顔をして、しばらく座り続けていた。
翌日、未来はいつもと変わらず明るく元気だった。尊人はホッとした。それからは、未来がキスを迫ったりすることはなかった。心なしか、スキンシップも少なめになった。二人で暮らしているけれど、友達同士がシェアハウスしているような感じだった。いや、友達というよりも兄弟の様であった。未来が兄で、尊人が弟のような。
だが、尊人は元気がなかった。生徒たちの前では明るく振舞っているけれど、一人になるとうつむいて何かを考えている事が多かった。未来は、その姿を見るのがつらかった。
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「お休み。」
尊人はそう言って、寝室へ入って行った。未来は大きく息を吐いた。そして天井を仰いだ。
そうして3カ月あまりが経った。尊人と未来の関係は、変わらなかった。尊人がふさぎ込む事はほとんどなくなったが、未来が尊人を抱きしめると、その時は悲しそうな目をする尊人だった。
それでも、確かめたい、そうしないではいられない未来は、ある夜、決行した。
入浴を済ませた未来は、先に入浴を済ませてソファに座り、スマートフォンを見ていた尊人のところへゆっくりと歩いて行った。
「どうした?」
ただならぬ雰囲気を察してか、尊人はスマートフォンから目を離し、未来を見た。未来はギラギラした目をしていた。尊人がスマートフォンをテーブルに置くのと、未来が尊人の隣に腰かけるのとが同時だった。
「未来、何か話があるのか?」
尊人が問うと、
「尊人、俺の事好きか?」
未来は突然そう言った。
「え?そりゃあ、好きだよ。未来は?」
尊人が無邪気に聞くと、
「俺は、お前を愛している。」
未来はそう言った。尊人は黙った。なんと言ったらいいのか、分からなかったからだ。未来は尊人の顔に手を当てた。そして、自分の顔を近づける。尊人の全身に力が入った。こんな日が来るのではないかと、心の中では覚悟していた。健斗が、自分が邪魔だからと言って出て行ってから、こうなるのではないかと。それがきっと正しい道で、自然な事で、自分にとっても幸せな事なのだと思おうとしていた。だから、試そうと思った。
未来は、尊人にそっと口づけた。そして、もう一度。更に、深く口づけようとしたところで、尊人は顔をそむけた。
「・・・ごめん。」
未来が言うと、尊人は小さく首を横に振った。未来は立ち上がって、そのまま自分の寝室に入って行った。尊人は難しい顔をして、しばらく座り続けていた。
翌日、未来はいつもと変わらず明るく元気だった。尊人はホッとした。それからは、未来がキスを迫ったりすることはなかった。心なしか、スキンシップも少なめになった。二人で暮らしているけれど、友達同士がシェアハウスしているような感じだった。いや、友達というよりも兄弟の様であった。未来が兄で、尊人が弟のような。
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