人間になりたい~Even if I am King~

夏目碧央

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誘拐~宣言5

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 健斗と未来は、廃屋の入口の陰に身を隠していた。
「ここだな。見張りは一人か。どうする?俺たちは丸腰だぜ。」
健斗がひそひそ声で言う。
「応援を呼んでから突入だな。だがその前に、尊人がいる場所を突き止めたい。なるべく見つからないように動こう。」
未来はそう言い、先に敷地内へと入って行った。暗闇の中だが、建物のあちこちからは灯りが漏れている。覗けるところがあれば、覗いて回った。
 ある鉄格子のはまっている小さな窓を見つけ、健斗に肩車をしてもらい、未来はその窓から中を覗いた。しかし、中は暗く、廊下に続くドアの存在しか分からない。
「どうだ?尊人はいたか?」
一度肩車を解除して、健斗は聞いた。
「いや、暗くて分からなかった。だが、あの感じからして、独房だ。一か八か、声をかけるか・・・。」
二人が思案していると、
「誰かいるのか?」
暗闇の中、入り口とは反対側から人が現れた。ターバンを巻き、猟銃を持っている男だ。見つかった。健斗と未来は同時に両サイドへ飛び、相手を挟んだ。敵は銃をどっちに向けるか一瞬迷って、未来の方へ向けた。その瞬間、相手の頭に健斗のかかと落としが決まった。相手はその場に倒れた。

 尊人が壁に寄りかかってうとうとしていると、パタっという小さな音がした。尊人は立ち上がり、窓から外を眺めた。耳を澄ますが何も聞こえない。
「誰か外にいるのか?」
尊人は声をかけた。廊下に聞こえるとまずいので、ごく小さい声で言った。
「あ、尊人の声だ!」
未来が小さい声で言った。手で合図をし、健斗にまた肩車をさせる。窓の鉄格子に手をかけ、中を覗くと、暗い中に、こちらを見て立っている人物の姿が見て取れた。
「尊人か?」
「未来!よくここが分かったな!」
「尊人、大丈夫か?怪我してないか?」
「大丈夫だ。」
「よく聞け。これから応援を呼んでくる。それまで、そこで辛抱していてくれ。必ず助けるから。」
「ああ、分かった。未来も、そして下にいるのであろう健斗も、十分気を付けて。」
少し、涙が出てきたので、尊人はそこで言葉を切った。未来の姿はすっと消え、音もなく二人は去った。
 健斗と未来は一旦敷地の外に出た。そこで、藤堂に電話をかけた。
「尊人を見つけました。応援をお願いします。場所を送ります。」
電話を切り、現在地が表示された地図をスクリーンショットして、それを送った。
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