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誘拐~宣言1

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 国同士の親善で、国王夫妻が中東の国を歴訪する事になった。石油を有する国々が多く、大事な貿易相手国だ。また、ここら辺は王国が多く、各国の国王や皇太子がよく我が国へ来訪し、国王に謁見している。多少治安が悪い国があっても、素通りするわけには行かないという事情があった。
 国王専用機に乗り込み、中東へ出発した。半日かかる。
「しかし、世継ぎがいない状態で、よく国外へ尊人を出したよな。」
機内の一室が、国王夫妻の部屋のようになっていて、健斗と未来も一緒にいた。この4人になれば、いつもの尊人の部屋と同じ状態である。酒は飲めないけれど、ある程度自由に飲食もできる。健斗はスパークリングウォーターをラッパ飲みしながら言った。
「お前まさか、人工授精のための提供、したのか?」
未来がはっとして尊人に尋ねる。
「まさか、しないよ。」
尊人は同じくスパークリングウォーターを、こちらはグラスに移して飲んでいた。
「実際、せがまれたけどな。」
と言って、麗良の方を見た。麗良はにこっとして肩をちょっとすくめた。麗良にも説得があったのだが、尊人の意向をくんで、拒否していた。
「万が一の事があったら、尊人のクローンでも作ればいいとか思ってんじゃないのか?」
健斗が言うと、
「DNAなら宮殿にいくらでも残っているだろうしな。案外そのつもりかもしれないぜ。」
未来もグラスを傾けながら、面白そうに言った。
「そうか、その手があったか。やはりこのままバックレるというわけには行かないようだな。」
尊人が真面目な顔で言った。
「バックレる、なんて言葉、よく知っているわね。」
麗良がくくっと笑った。
「大学生は良く使う言葉だろ?」
尊人が、これまた真面目に言った。
「ちょっと待て。さすがにクローンはないだろう。」
未来がさっきまでのふざけ顔とは打って変わって、驚き顔で言った。
「いやいや、ありうるぞ。王家の血筋が途絶えるより、その方がいいっていう意見が多数を占める可能性は高いと思うぜ。」
健斗は初めから真面目である。未来は顎に親指と人差し指を添えて、ちょっとうつむき加減になって考えている。それを見て、尊人も考え込んだ。
「二人とも、何考えこんじゃってんのよ。私たちは無事に帰国するんだから、クローンはないわよ。とりあえずは。」
麗良が言うと、
「まあ、そうだな。」
未来が顔を上げて言った。
「だが、世継ぎを残さずに俺が死ねば、王家は無くなるっていう筋書きが使えない可能性が出て来たな。やはり俺が王家をちゃんと終わらせなければならない。」
尊人が言った。

 飛行機は無事に着陸した。砂漠の国だ。麗良も健斗も未来も、砂漠は初めてだった。専用機のタラップの前には、報道陣が待ち構えていた。地元の記者よりも、本国から来たテレビ局や新聞記者が多い。健斗は尊人の前を歩き、タラップを降りる時には尊人の手を取った。尊人が転落しては大変なので、それはもちろん「仕事」である。そして、その後ろを未来が、麗良をエスコートして降りた。髪に砂が付かないよう、麗良はスカーフを頭に巻いて、更に口元も覆っている。
 地元テレビも中継していた。
「若きKingが現れました!おお、なんと端正なお顔立ちでしょう。今回、Kingとなって初めての来訪です。今、飛行機のタラップを、付き人にエスコートされながら降りてきます。今、我が国の首相と握手を交わしました。」
 尊人は笑顔で握手をした。
「遠いところ、ようこそおいでくださいました。さあ、こちらへどうぞ。」
と、現地の言葉で言われ、スーツを着たボディーガードたちと一緒にこの国の政府が用意した車に乗り込んだ。黒塗りのリムジンである。このまま王宮に連れていかれる事になっていた。
 だが、まだ王宮は見えないし、どちらかというと人通りの少ないところで車が止められた。
「どうしたのだ?」
首相がそう言うと、スーツを着たボディーガード達は黙って車のドアを開け、首相を外に出し、健斗と未来、麗良を外に出した。みな、何が起こるのか分からずに従っていたが、まだ尊人が車の真ん中に座っている状態で、スーツの男たちは一斉に車に乗り込み、ドアを勢いよく閉め、リムジンは急発進した。
「あ!しまった!」
未来と健斗は走ってリムジンを追いかけようとしたが、パンパン、とピストルの音がして、車の窓から顔を出している男の頭が見えた。健斗も未来もピストルは所持していない。それに、走って追いつくものでもない。
「何という事だ!一体これはどういう事なんです!」
未来が首相に詰め寄った。
「わ、私にも分からない。運転手もボティーガードも、一体どうしたというのだ!」
首相はそう言って、頭を抱えた。
「尊人、尊人、たかひとー!未来、どうしよう、これは誘拐だろ?ああ、俺が付いていながら、こんなあっさりと!」
健斗は取り乱した。
「健斗さん、落ち着いて。とにかく大使館に連絡よ!」
麗良が言った。
「ああ、そうだな。」
未来もパニックになっていたようで、固まって動けずにいたのだが、麗良に言われてすぐに大使館に電話をかけた。
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