2 / 55
帰国~始動2
しおりを挟む
4年前。尊人が国を出てイギリスへ留学した時、未来と健斗も同時にイギリスへ留学した。初めて対面した時、もちろん未来と健斗は尊人の事をテレビで見て知っていたが、それでも間近で見て、驚いた。
「山縣君と渋谷君ですか。よろしく頼みます。」
見た目は今どきの若者となんら変わらない尊人だが、言葉を発した途端、違和感、いや、オーラをまとってしまう。幸いイギリスではそれほど彼を知っている人もいないし、いや、知っていても、そもそも外国人というのは見分けがつかないものだから、彼を見て尊人だと気づく人はそういない。しかもしゃべるのは英語だし、言葉遣いで気づかれる事もない。が、守れ、と言われた二人には、こんな目立つ人を警護するなんて、と青くなったのだった。
「尊人・・・様、言葉遣いを、その、我々と同じように・・・。」
健斗がしどろもどろになっていると、未来が笑いだした。
「尊人様、これからは尊人、と呼び捨てにしてもよろしいですか?それと、ため口もお許しください。そうしないと目立ちますので。」
高校を卒業したばかりの、一般の男子としては精一杯の尊敬語を使ってそう告げた。尊人はそれを聞いて、目を見開いてしばし動きを止め、
「ため口、とは何ですか?」
と聞いたのだった。
だが、それからすぐに尊人は「普通の言葉遣い」になった。4人の友人にゆるく守られながらも、母国にいる時とは違って自由があるイギリスで、彼は大きく羽ばたいたのだ。英語も堪能になり、イギリス人の友達もたくさん作った。
空港を出て、尊人は御所に向かった。久しぶりの我が家。年に2度くらいは帰郷していたので、ざっと半年ぶりである。リムジンを降り、SP3人に守られながら家の中に入った。やれやれだ。外国ではこんなに厳重な警備などなく、普通に外を歩いていたのに。
「尊人さん、お帰りなさい。」
母が出迎えてくれた。上品で穏やかな母、君子(きみこ)は、普通の母だと思っていたけれど、そうではないらしい、と今は尊人にも分かっている。君子の実家は宮家ではないが、当時でも珍しい、テレビの無い家庭だった。父と結婚した当時も珍しがられたが、未だにテレビの無い家だ。なかなか祖父母の家に遊びに行く事はできないけれど、何度か訪れたことはある。
尊人には姉が二人いる。年の離れた姉だ。長女の調子は32歳、次女の結子は30歳。二人とも結婚して、王族ではなくなっている。
「明日はゆっくりできるのかしら?調子さんと結子さんが、明日いらっしゃるそうよ。」
君子はそう言った。一般家庭では、身内の、しかも自分の子に対して尊敬語は使わない。今は尊人には分かっている。しかし、王族では、お互いをさん付けで呼ぶし、尊敬語も使う。
「明日は家にいますよ。そうだ、聞いていると思いますが、明日からこの家に友人が住むことになりますよ。明日は彼らを紹介しますね。」
尊人はそう言って、そして、母にハグをした。
「ただいま帰りました。母上さま。」
「まあ、大きくなっても子供みたいですね。」
「違いますよ。これは留学先での一般的な挨拶なんです。」
尊人は君子からぱっと離れてそう言った。そうだった、この国ではハグはあまりしないのだった、と尊人は決まり悪い思いをした。最近では友人同士でもいつもハグし合っているので忘れていた。この国では、学校でも決して友人と体を付け合うことはなかった。特に尊人は特別扱いされていて、仲よくしている友人でも、むやみに尊人に触れては来なかった。いつもどこかでSPが見張っていて、必要以上に近寄ると、SPが近寄ってくるのを子供ながらに感じていたのだろう。それは、子供だった尊人にも分かっていた。仕方がない、と何度も何度も思って育ってきたのだった。だから、留学中は本当に楽しかった。自由だった。視野が開けたのはもちろん、体も心も解放されたのだった。
「山縣君と渋谷君ですか。よろしく頼みます。」
見た目は今どきの若者となんら変わらない尊人だが、言葉を発した途端、違和感、いや、オーラをまとってしまう。幸いイギリスではそれほど彼を知っている人もいないし、いや、知っていても、そもそも外国人というのは見分けがつかないものだから、彼を見て尊人だと気づく人はそういない。しかもしゃべるのは英語だし、言葉遣いで気づかれる事もない。が、守れ、と言われた二人には、こんな目立つ人を警護するなんて、と青くなったのだった。
「尊人・・・様、言葉遣いを、その、我々と同じように・・・。」
健斗がしどろもどろになっていると、未来が笑いだした。
「尊人様、これからは尊人、と呼び捨てにしてもよろしいですか?それと、ため口もお許しください。そうしないと目立ちますので。」
高校を卒業したばかりの、一般の男子としては精一杯の尊敬語を使ってそう告げた。尊人はそれを聞いて、目を見開いてしばし動きを止め、
「ため口、とは何ですか?」
と聞いたのだった。
だが、それからすぐに尊人は「普通の言葉遣い」になった。4人の友人にゆるく守られながらも、母国にいる時とは違って自由があるイギリスで、彼は大きく羽ばたいたのだ。英語も堪能になり、イギリス人の友達もたくさん作った。
空港を出て、尊人は御所に向かった。久しぶりの我が家。年に2度くらいは帰郷していたので、ざっと半年ぶりである。リムジンを降り、SP3人に守られながら家の中に入った。やれやれだ。外国ではこんなに厳重な警備などなく、普通に外を歩いていたのに。
「尊人さん、お帰りなさい。」
母が出迎えてくれた。上品で穏やかな母、君子(きみこ)は、普通の母だと思っていたけれど、そうではないらしい、と今は尊人にも分かっている。君子の実家は宮家ではないが、当時でも珍しい、テレビの無い家庭だった。父と結婚した当時も珍しがられたが、未だにテレビの無い家だ。なかなか祖父母の家に遊びに行く事はできないけれど、何度か訪れたことはある。
尊人には姉が二人いる。年の離れた姉だ。長女の調子は32歳、次女の結子は30歳。二人とも結婚して、王族ではなくなっている。
「明日はゆっくりできるのかしら?調子さんと結子さんが、明日いらっしゃるそうよ。」
君子はそう言った。一般家庭では、身内の、しかも自分の子に対して尊敬語は使わない。今は尊人には分かっている。しかし、王族では、お互いをさん付けで呼ぶし、尊敬語も使う。
「明日は家にいますよ。そうだ、聞いていると思いますが、明日からこの家に友人が住むことになりますよ。明日は彼らを紹介しますね。」
尊人はそう言って、そして、母にハグをした。
「ただいま帰りました。母上さま。」
「まあ、大きくなっても子供みたいですね。」
「違いますよ。これは留学先での一般的な挨拶なんです。」
尊人は君子からぱっと離れてそう言った。そうだった、この国ではハグはあまりしないのだった、と尊人は決まり悪い思いをした。最近では友人同士でもいつもハグし合っているので忘れていた。この国では、学校でも決して友人と体を付け合うことはなかった。特に尊人は特別扱いされていて、仲よくしている友人でも、むやみに尊人に触れては来なかった。いつもどこかでSPが見張っていて、必要以上に近寄ると、SPが近寄ってくるのを子供ながらに感じていたのだろう。それは、子供だった尊人にも分かっていた。仕方がない、と何度も何度も思って育ってきたのだった。だから、留学中は本当に楽しかった。自由だった。視野が開けたのはもちろん、体も心も解放されたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!
沈丁花
BL
__ 白い世界と鼻を掠める消毒液の匂い。礼人の記憶はそこから始まる。
小学5年生までの記憶を無くした礼人(あやと)は、あるトラウマを抱えながらも平凡な大学生活を送っていた。
しかし、ある日“氷王子”と呼ばれる学年の先輩、北瀬(きたせ)莉杜(りと)と出会ったことで、少しずつ礼人に不思議なことが起こり始めて…?
過去と今で揺れる2人の、すれ違い恋物語。
※エブリスタで“明日の君が笑顔なら”という題名で公開している作品を、内容がわかりやすいタイトルに改題してそのまま掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。
キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。
苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる