上 下
35 / 41

バスの時間変更

しおりを挟む
 寿司屋を出たのは12時半を少し過ぎたところだった。やっぱり食べ足りないので、デザートを食べようと思った。お土産屋さんの一角に、椅子とテーブルがあって自販機などもあったが、そこは満席だった。ファーストフードのお店があったが、そこには席がないようだ。何かを買って外で食べるという事か。今、この風ビュービューの中で食べるという選択肢はない。
 少し歩いて行って、あれこれ店を見てみた。そば屋などもあるが、予約オンリーだったりする。温泉旅館のようなところもあって風情があるが、案外食べられる所は少ない。少し行くとレトロな喫茶店を見つけた。ここでケーキでも食べられたらいいなと思ったが、外に出ているメニューを見ると、ケーキの類はないようだった。お食事はあるが、それはもう要らないし。飲み物はコーヒー、紅茶、メロンソーダ……ジュースは寒すぎる。カフェインもダメ。ああ、ここには入れない。
 ダメだ、どこにも入る所がない。この辺りでは時間を潰せない。そうだ、バスの時間を1時間早めよう。何も14時までここで待つ事はないではないか。13時のバスが空(あ)いていれば、13時にしよう。
 と言うわけで、また足立美術館のエントランスへ。例のバスの整理券の入っている箱を見に行った。すると、13時の整理券もたくさん入っている。私は14時の整理券を箱に戻し、13時のを取った。そして、バスの待合室へと向かった。
 ……っていうか、ここで1時間前倒しにしたという事は、今朝のタクシーの意味は……無念。
 待合室は椅子が10脚くらい並んでいるだけの空間だったが、風を防げるのが幸せだった。もっと早くからここに入れば良かったくらいだ。本当に風が強くて、しばらく外に立っていたらすぐに凍えてしまいそうだった。
 バスがやってきた。13時のバスだ。私は乗ったが、待合室にいる人達は皆さん14時の整理券を持っているようだった。
「あ、まだ乗れないのか。」
と言っているから、よっぽど、整理券を交換してくればいいと言おうかと思ったのだが、辞めた。すると、運転手さんに聞く人がいた。
「これに乗ってしまってもいいですか?」
と。すると運転手さんは、
「空(あ)いているので、いいですよ。」
と言っていた。それで、数人が乗り、数人が残った。どちらで時間を潰すかの違いだけだから、と。そうだね、この待合室でおしゃべりしているのが楽しくて楽ならば、それもいいかもね。でも、何事あるか分からないから、先へ先へと行っておいた方がいいと、私の危機管理意識が言っている。もし次のバスが遅れたりしたら、前のバスに乗っておけばよかったと後悔してしまうから。
 さて、再びシャトルバスに乗り、安来駅へ向かった。この辺りにも、新しい家が多い。それに、すごく広い敷地に大きな日本家屋が建っているのを2~3軒見た。あれは何だろう。ある意味大豪邸だ。写真に撮りそびれてしまったが。それにしても、最近建った東京の新しい家で、瓦屋根の家はない。だが、島根県で見る新しそうな家は、黒光りする瓦を乗せた日本家屋なのだ。何故だろう。不思議だ。
 13:20頃に安来駅に到着した。帰りの飛行機の時間は決まっている。それまで、この辺りで時間を潰すか、それとも空港へ行ってからか。先に述べた危機管理意識からすると、空港へ早く行った方がいいが、向こうで何もないとなれば困る。早速検索した。すると、米子空港には「すなば珈琲」があるという。すなば珈琲!昔、鳥取砂丘へ旅行に行った際に入ったカフェだ。モーニングが美味しかった。でも、カフェインレスコーヒーはなかったな。まあ、昔だから仕方ないけれど。そのすなば珈琲が米子空港にもあるのだ。鳥取空港にもあったのだが、営業していなかったのを覚えている。でも、米子の方はやっていそうだ。空港には他にも店があるようだし、やはり空港へ行ってしまおう。
 14:57の電車に乗る予定だったのを、13:53に変更する事にした。それでもまだ30分ほど時間がある。まず、先ほど後回しにした写真撮影をしよう。駅舎を外からパチリ。その辺りには石像などもある。安来といえば「安来節」だ。私の義理の妹が民謡踊りをやっているので、安来節もおなじみだ。安来節とはドジョウすくいの踊りなのである。石像は、かわいい猿がドジョウすくいをしているところを象っている。あ、人間のドジョウすくいもあった。その台座には「すくい愛」という文字が。深い。
 自転車置き場のつつじも撮った。それから、駅舎の中に入り、展示してあるドジョウすくいの人形たちの写真も。手ぬぐいで頬かむりをして、みんな陽気だ。
 もうお土産は買わないつもりだったが、土産屋の方に足を運んでみた。ああ、安来節の手ぬぐいがある。義理の妹のお土産には、既に出雲で手ぬぐいを買ったのだ。ウサギ模様の。これも買うべきか悩む。だが、安来節を踊る彼女が、特に安来節をモチーフにした手ぬぐいを欲しがるのかどうか、ふと疑問に感じた為、買うのは辞めた。
 イチゴのジャムやドライフルーツなどが並んでいる。安来はイチゴの産地なのだな。あっ!椎茸がある!たくさん入っていて278円とは安い。それに、先程の赤だしに入っていたのがこの椎茸としたら……欲しい。絶対に美味しいやつだ。これは買いでしょ。
 というわけで、椎茸を買うついでについ苺バターも。「島根県安来産紅ほっぺ使用」と書いてある。普段なら買えないお値段だが、お土産だと買ってしまう750円。でも、国産イチゴで作られているのだから、そりゃ高いわな。椎茸が安くても意味がないような気もするが、とにかく椎茸と苺バターを購入した。
 さて、そろそろ時間だ。トイレに行き、スーツケースを返却してもらい、買ったお土産をスーツケースにねじ込み、ホームへ。忘れずにスイカをピッとやって。これをしないと出る時に困るから。
 と思っていたのだが、それがそうでもなかった。でも、この時には知る由もない夏目碧央であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めての一人旅in金沢~富山

夏目碧央
エッセイ・ノンフィクション
 小説はイメージが大事だ。だから作家はミステリアスな方がいい……と、ペンネームを夏目碧央にしてからは、年齢、性別、本職などを明かさずに来た。だが、作風に行き詰まりを感じ、エッセイでも書いてみうようかと思った。幸い一人旅をするチャンスが訪れ、なかなかにドラマチック、いや、珍道中になったので、旅行記を書いてみた。どうも碧央はエッセイが得意分野のようで、ぜひ多くの人に読んでもらいたい出来栄えになった。もうこれは、本性をさらけ出してでも、エッセイを公開するしかない。これを読めば作家のすべてが分かってしまうのだが。  2022年8月、碧央は初めての一人旅に出かけた。新幹線で金沢へ。普段の生活から離れ、自由を謳歌するも、碧央は方向音痴だった……。さて、この旅はどうなるのか。どうか最後まで見届けて欲しい。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

トイレ・の・事

桐原まどか
エッセイ・ノンフィクション
エッセイです。 トイレ。緊急事態の場合もあるでしょうが、落ち着いて欲しいです。

四五歳の抵抗

土屋寛文(Salvador.Doya)
エッセイ・ノンフィクション
 この作品は私の『エッセイ』に成ります。 私と妻の前をすれ違って消えて行ったあの時の素敵な「お客様?」達。 全てこの一冊に載せてみました。 よく味わってお読み頂ければ幸いです。  体臭の香る街であった。 そこにサインボードの割れた一軒の店が在る。 この店は日雇い労務者・路上生活者・ブルーテントの住人・生活保護受給者達がよく利用する。 彼等から見ると、そこは唯一の寛げる『健康的な店』だった。・・・が・・・。  では本編に進みましょう。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

だからこそ言えない。

門左衛門
エッセイ・ノンフィクション
そう言う事あるよね……と、少しでも笑えたり、共感出来たらいいなと思います。 そして、色んな感情があり言えない事とどう向き合えばいいのか、自分なりに考えてみました。

僕みたいにならないで!うつ病の恐ろしさ、教えます!

わっしー
エッセイ・ノンフィクション
これは現在もうつ病に苦しんでいる僕の体験談を書かせていただきました。 うつ病の基本的な情報と症状、それによって起こる様々な変化をお伝えしたいと思います。 もし、僕と同じような症状で苦しんでいる方に少しでも参考になればと思い書かせていただきました。 ※注意点 これは僕の体験談です。 うつ病の症状は様々なので多少異なることもあると思います。 対処法なども書かせていただきますがそれで必ずしも治るという保証はありませんので自分に合った治療法を医師やカウンセラーと相談しながら行ってください。 独学でやるのはダメ絶対!!

くだらない人生もありじゃない?

yassan
エッセイ・ノンフィクション
数分で読めるある会社員の業務中の雑談を書いてます。(実話です) 日常の雑談なのである程度色んなネタが入ってます。ご了承ください。

処理中です...