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六十八話
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ドリさんと話していると少し風が入ってくる。しかしゲーム世界、しかも窓も空いていない部屋に風が吹くだろうか、と思うと部屋の入口にミヅキ先輩が立っていた。え、こわ。本当に音もなく鈴も鳴らさずに家の中に入って来れるようになってる。
「ミヅキ先輩はどこ目指してるんですか」
「PKされたことにすら気づかない、暗殺」
「スキルログとか出るんですよこのゲーム」
「パッシブだけで実現してみせる」
「眠りが浅い時に助かりそうですよー」
眠りが浅いというか永遠の眠りにつきそうなんですけど。
まぁドリさんよく寝る割には案外すぐ起きますからね。よく考えたらゲーム内で寝まくるからそうなるのではないだろうか。そもそも眠りってデバフじゃん、ドリさんの相手を眠らせるやつ自分に使えたりしないのかな。
「そういえばミヅキさんにしては帰ってくるタイミングが普通ですね。というかどこ行ってたんですか、シバさんたちとは一緒に行ってないですよね?」
「ボタンに連れて行かれそうになったから逃げてた」
「ああ……なるほど」
これから同じクランなんだから仲良くしないとだめだと思いますよ。たぶんシバさんの性格的に僕みたいにぞんざいに扱っても問題ないと思いますけど。急に殴り掛かってくるところとか似てるし。
「せっかくだしなんか三人でやります?」
声をかけるとドリさんが露骨にめんどくさそうな顔をする。いや、同じクラン内の人間かつ同じ部屋にいる人を誘ったのにそこまで嫌そうな顔をしないでも。
「寝たいんですけど……」
「私は別にいい。夢とコマイヌ後輩なら適当でも許されそうだし」
「そういえば後輩僕だけじゃなくなりましたけど」
スン、と元々乏しい表情が抜け落ちる。たぶんあの人コミュ力ない人にも優しいタイプの陽の者ですって。
「そういえばやりたいことがあった。これなら最悪夢が半分寝てても平気」
「話の変え方がすごい。まぁいいですけど、なんですか?」
そう言うとミヅキさんはインベントリを操作して何やら取り出す。それはミヅキ先輩の体躯からすると長く、ただし細くしなやかで扱いやすそうな、釣り竿だった。
「釣りしたい」
「すっごい唐突」
◇
話を聞いてみたところ、このクランボタンさんは栽培や調理、ハナミさんは調理に造酒、ドリさんは裁縫に木工、リーシュ君やリーシャさんは言わずもがなでだいたい何かしらのクラフター的スキルとかを持っているらしい。それで釣りとは……なんで釣り?
「細い糸での攻撃方法を調べてたらなんか釣りに興味持って」
物騒な理由だなぁ。
「最悪釣りしてる間夢は寝ててもいいから」
「それドリさんいります?」
「あー、コマイヌ君は知らないんですよねー。この世界の釣りってー」
というとミヅキ先輩がインベントリから魚を取り出す。あれ?もう釣ってきた?と思ったけれどこれは大きな魚を釣る用の餌らしい。にしては……なんというか、現実の魚に比べて随分巨大なような。
「この世界の釣りってー、何故か獲得するのにだいたい戦闘が必要になるんですよー」
「そう。群れで襲い掛かってくるタイプもいるから夢がいたほうが助かる」
「この世界の釣りこっわ」
生産職系かと思ったらめちゃくちゃ戦闘必要なジョブじゃないですか。初心者の人勘違いしたらどうするんですかそれ。
「初心者はこの餌用の魚を釣ったりと色々やれる、私はそんなことしないけど」
「変なところめんどくさがりですからねー。まぁ準備とか好きなミヅキには向いてるとは思いますけどー」
本当ですか、僕のイメージだとミヅキ先輩は投網投げて引っかかった魚をその場で捌きまくるイメージありますけど。
「とりあえず今出てる中で一番大きい奴のところ行きたい。Hey夢」
「アシスタントAIじゃないんですからー、えーっとー。結構近いですよ、第二の街と第三の街の間にある川ー?あそこを下った先に湖があってー、そこの中央にある洞窟ー。あそこに主みたいなのがいるらしいですよー」
この人何でも知ってるのか。しかも絶対使わそうな情報がすぐ出てくるの素直にすごいな。
「よし、行こう」
「えー、洞窟とかあんまり寝にくいんですよー。岩だからごつごつしてるしー、水が流れてるタイプだと苔とか生えてたりしますしー」
「この前の素材代貰ってない」
「よしー、行きましょうですー」
ミヅキ先輩が低い声で金銭を要求した途端に普段のドリさんからは想像もつかない速度で立ち上がる。ある意味めちゃくちゃちょろいこの人。
ああ、行くのなら僕もちょっと釣り竿とかほしいんですけど。スキルなくても行けますかね?
「スキルがないと大物は釣れない」
「いや、ちょっと糸垂らしてみたいだけなんで大丈夫です」
そういうとミヅキ先輩が初心者用の釣り竿を貸してくれることになった。やったー。
そういえばミヅキ先輩の釣り竿は随分立派なやつですね。買ったんですか?
盗品……ああ……なるほど。
◇
第二の街まで歩いて出てきた。ミヅキ先輩の盗品について問い詰めながら歩いていると隣を歩くプレイヤーたちがぎょっとした顔でこちらを見ている。まぁこんな街中堂々とあるくPKいないですからね。ミヅキ先輩のスキルと装備はグレードアップしてるし、第二の街は僕らに甘いので捕まることもそうそうないけど。
「へー、海賊とかいたんですね。……海ありましたっけ」
「一応ある。まだプレイヤーが海に出る方法はわかってないから海賊名乗ってるだけのプレイヤーだったけど。NPC漁師とかにも被害出てたしちょうどいいから全滅させてきた」
丁度いいからってPKをPKKしてくるのそうそういないですよ。ミヅキ先輩のことだから事前に調べて海賊が出るところとかじゃなく、思い立って海に歩いていたPKをキルしてきましたよね。
「あれ?でもPKの持ち物なら盗品って……」
「ちょうどいいから、全滅させてきた」
絶対その場にいた人まで全滅させてるじゃないですか。災害かよこの人。
「海賊だけやろうとしたらチャチャ入れてきたから」
「ならしょうがないですねー」
なんだ巻き込み事故か。なら僕もアカリさん巻き込んだことあるししょうがないことだな。いつか謝れるといいですね。また隣を歩いている人が疑問符を頭に出しながら通り過ぎていったけどたぶん僕らのことじゃないだろう。この世界忙しいし。こっち見てた気がするけど。
「それにしてもPKって結構リスクあるし、PKKされてるイメージありますけどミヅキ先輩ってロストしたーとか聞かないですね」
「ミヅキは逃げ隠れも上手い上に格下相手には必勝レベルなのでー、ノーデス記録続いてるですよねー?」
「製品版は今のところノーデス」
ノーデスとかマジか。どうやったってワンミスで体力が吹き飛ぶ上にVRなのによく集中力続くなこの人。
「【鼠返し】ってのはミヅキがネズミ系のスキルとよく使うのと別にですねー、ネズミみたいな木っ端を寄せ付けもしないということからもあってですねー。βの頃にー……」
「恥ずかしいからその話はあんまりしないで」
そういえばこの人掲示板オタクだから二つ名スレも詳しいんだった。僕も掲示板覗こうかなって思ったんだけど、ああいう場所は慣れてないからあんまり見ないんだよね。ドリさんが言うには僕もそこそこ話題に上がってるらしい、なんなら最近結構人気があるって……照れるわ。
話をしながら門を出る。ミヅキ先輩にチェックが入ることもなくすんなりと街の外に出た。
「川辺まではみんな言ったことあるですよねー?」
「最近よく行きますね。この前引き返しましたけど」
「なんで引き返した?」
小首をかしげながら後ろを歩いていたミヅキ先輩が隣までくる。
「レオさんって人と知り合ったんですけど、めちゃくちゃ方向音痴のおじさんで。とりあえず途中まで案内してきたんですよ」
「まぁ案外マップの見方とか慣れないと難しいですからねー。第三の街付近まで行って慣れてないのは逆にすごいですねー」
まぁこのゲームがいくら変なところ不親切とはいえ別にマップは見れるからなぁ。あの人マップの見方教えても迷ってましたけど。
「レオ……方向音痴……」
ミヅキ先輩が何かを思い出すように腕を組みながら呟いていた。何か引っかかることあっただろうか。
「あー、やっぱりその人ですかねー?夢も思ったんですけどー」
「おじさんというとそうなる。フルネームはレーベリオ?」
「え、あのおじさんクランのリーダーっぽかったですけど有名な人だったんですか」
確かに戦闘力は並外れていたと思うけど、あの方向音痴で?
「【要塞】レーベリオ……たぶん最高峰のタンク系ファイター」
「タンク系ファイターっていうのはヘイトも取るけどダメージも出すタンクですねー」
……いや、何回も言うけど、あのおっちょこちょいさで。
「ミヅキ先輩はどこ目指してるんですか」
「PKされたことにすら気づかない、暗殺」
「スキルログとか出るんですよこのゲーム」
「パッシブだけで実現してみせる」
「眠りが浅い時に助かりそうですよー」
眠りが浅いというか永遠の眠りにつきそうなんですけど。
まぁドリさんよく寝る割には案外すぐ起きますからね。よく考えたらゲーム内で寝まくるからそうなるのではないだろうか。そもそも眠りってデバフじゃん、ドリさんの相手を眠らせるやつ自分に使えたりしないのかな。
「そういえばミヅキさんにしては帰ってくるタイミングが普通ですね。というかどこ行ってたんですか、シバさんたちとは一緒に行ってないですよね?」
「ボタンに連れて行かれそうになったから逃げてた」
「ああ……なるほど」
これから同じクランなんだから仲良くしないとだめだと思いますよ。たぶんシバさんの性格的に僕みたいにぞんざいに扱っても問題ないと思いますけど。急に殴り掛かってくるところとか似てるし。
「せっかくだしなんか三人でやります?」
声をかけるとドリさんが露骨にめんどくさそうな顔をする。いや、同じクラン内の人間かつ同じ部屋にいる人を誘ったのにそこまで嫌そうな顔をしないでも。
「寝たいんですけど……」
「私は別にいい。夢とコマイヌ後輩なら適当でも許されそうだし」
「そういえば後輩僕だけじゃなくなりましたけど」
スン、と元々乏しい表情が抜け落ちる。たぶんあの人コミュ力ない人にも優しいタイプの陽の者ですって。
「そういえばやりたいことがあった。これなら最悪夢が半分寝てても平気」
「話の変え方がすごい。まぁいいですけど、なんですか?」
そう言うとミヅキさんはインベントリを操作して何やら取り出す。それはミヅキ先輩の体躯からすると長く、ただし細くしなやかで扱いやすそうな、釣り竿だった。
「釣りしたい」
「すっごい唐突」
◇
話を聞いてみたところ、このクランボタンさんは栽培や調理、ハナミさんは調理に造酒、ドリさんは裁縫に木工、リーシュ君やリーシャさんは言わずもがなでだいたい何かしらのクラフター的スキルとかを持っているらしい。それで釣りとは……なんで釣り?
「細い糸での攻撃方法を調べてたらなんか釣りに興味持って」
物騒な理由だなぁ。
「最悪釣りしてる間夢は寝ててもいいから」
「それドリさんいります?」
「あー、コマイヌ君は知らないんですよねー。この世界の釣りってー」
というとミヅキ先輩がインベントリから魚を取り出す。あれ?もう釣ってきた?と思ったけれどこれは大きな魚を釣る用の餌らしい。にしては……なんというか、現実の魚に比べて随分巨大なような。
「この世界の釣りってー、何故か獲得するのにだいたい戦闘が必要になるんですよー」
「そう。群れで襲い掛かってくるタイプもいるから夢がいたほうが助かる」
「この世界の釣りこっわ」
生産職系かと思ったらめちゃくちゃ戦闘必要なジョブじゃないですか。初心者の人勘違いしたらどうするんですかそれ。
「初心者はこの餌用の魚を釣ったりと色々やれる、私はそんなことしないけど」
「変なところめんどくさがりですからねー。まぁ準備とか好きなミヅキには向いてるとは思いますけどー」
本当ですか、僕のイメージだとミヅキ先輩は投網投げて引っかかった魚をその場で捌きまくるイメージありますけど。
「とりあえず今出てる中で一番大きい奴のところ行きたい。Hey夢」
「アシスタントAIじゃないんですからー、えーっとー。結構近いですよ、第二の街と第三の街の間にある川ー?あそこを下った先に湖があってー、そこの中央にある洞窟ー。あそこに主みたいなのがいるらしいですよー」
この人何でも知ってるのか。しかも絶対使わそうな情報がすぐ出てくるの素直にすごいな。
「よし、行こう」
「えー、洞窟とかあんまり寝にくいんですよー。岩だからごつごつしてるしー、水が流れてるタイプだと苔とか生えてたりしますしー」
「この前の素材代貰ってない」
「よしー、行きましょうですー」
ミヅキ先輩が低い声で金銭を要求した途端に普段のドリさんからは想像もつかない速度で立ち上がる。ある意味めちゃくちゃちょろいこの人。
ああ、行くのなら僕もちょっと釣り竿とかほしいんですけど。スキルなくても行けますかね?
「スキルがないと大物は釣れない」
「いや、ちょっと糸垂らしてみたいだけなんで大丈夫です」
そういうとミヅキ先輩が初心者用の釣り竿を貸してくれることになった。やったー。
そういえばミヅキ先輩の釣り竿は随分立派なやつですね。買ったんですか?
盗品……ああ……なるほど。
◇
第二の街まで歩いて出てきた。ミヅキ先輩の盗品について問い詰めながら歩いていると隣を歩くプレイヤーたちがぎょっとした顔でこちらを見ている。まぁこんな街中堂々とあるくPKいないですからね。ミヅキ先輩のスキルと装備はグレードアップしてるし、第二の街は僕らに甘いので捕まることもそうそうないけど。
「へー、海賊とかいたんですね。……海ありましたっけ」
「一応ある。まだプレイヤーが海に出る方法はわかってないから海賊名乗ってるだけのプレイヤーだったけど。NPC漁師とかにも被害出てたしちょうどいいから全滅させてきた」
丁度いいからってPKをPKKしてくるのそうそういないですよ。ミヅキ先輩のことだから事前に調べて海賊が出るところとかじゃなく、思い立って海に歩いていたPKをキルしてきましたよね。
「あれ?でもPKの持ち物なら盗品って……」
「ちょうどいいから、全滅させてきた」
絶対その場にいた人まで全滅させてるじゃないですか。災害かよこの人。
「海賊だけやろうとしたらチャチャ入れてきたから」
「ならしょうがないですねー」
なんだ巻き込み事故か。なら僕もアカリさん巻き込んだことあるししょうがないことだな。いつか謝れるといいですね。また隣を歩いている人が疑問符を頭に出しながら通り過ぎていったけどたぶん僕らのことじゃないだろう。この世界忙しいし。こっち見てた気がするけど。
「それにしてもPKって結構リスクあるし、PKKされてるイメージありますけどミヅキ先輩ってロストしたーとか聞かないですね」
「ミヅキは逃げ隠れも上手い上に格下相手には必勝レベルなのでー、ノーデス記録続いてるですよねー?」
「製品版は今のところノーデス」
ノーデスとかマジか。どうやったってワンミスで体力が吹き飛ぶ上にVRなのによく集中力続くなこの人。
「【鼠返し】ってのはミヅキがネズミ系のスキルとよく使うのと別にですねー、ネズミみたいな木っ端を寄せ付けもしないということからもあってですねー。βの頃にー……」
「恥ずかしいからその話はあんまりしないで」
そういえばこの人掲示板オタクだから二つ名スレも詳しいんだった。僕も掲示板覗こうかなって思ったんだけど、ああいう場所は慣れてないからあんまり見ないんだよね。ドリさんが言うには僕もそこそこ話題に上がってるらしい、なんなら最近結構人気があるって……照れるわ。
話をしながら門を出る。ミヅキ先輩にチェックが入ることもなくすんなりと街の外に出た。
「川辺まではみんな言ったことあるですよねー?」
「最近よく行きますね。この前引き返しましたけど」
「なんで引き返した?」
小首をかしげながら後ろを歩いていたミヅキ先輩が隣までくる。
「レオさんって人と知り合ったんですけど、めちゃくちゃ方向音痴のおじさんで。とりあえず途中まで案内してきたんですよ」
「まぁ案外マップの見方とか慣れないと難しいですからねー。第三の街付近まで行って慣れてないのは逆にすごいですねー」
まぁこのゲームがいくら変なところ不親切とはいえ別にマップは見れるからなぁ。あの人マップの見方教えても迷ってましたけど。
「レオ……方向音痴……」
ミヅキ先輩が何かを思い出すように腕を組みながら呟いていた。何か引っかかることあっただろうか。
「あー、やっぱりその人ですかねー?夢も思ったんですけどー」
「おじさんというとそうなる。フルネームはレーベリオ?」
「え、あのおじさんクランのリーダーっぽかったですけど有名な人だったんですか」
確かに戦闘力は並外れていたと思うけど、あの方向音痴で?
「【要塞】レーベリオ……たぶん最高峰のタンク系ファイター」
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