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六十三話

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 リーシュ君が図案を描いている間に三人プラスシバさんが戻ってきたことにより僕の後ろに隠れたミヅキ先輩の四人でお茶を飲み始める。
 この人こんなに人見知りだったっけ?と思ったけど冷静に考えたら僕ら以外と話してる姿をあんまり見ていない気がする。

 まさか暴風さん相手にも雑な対応をしていたように見えてあれ話し合いを拒否していようとしてただけ……?いやよそう。二つ名がついているほどの有名なPKがそんなだなんて思いたくない。

「疲れたー、ボタンねぇ僕にもお茶頂戴~」

「はーい。リー君今回はどんなこと考えたのかな」

「ふっふっふ、今回は自信作だよ!まだ作ってないけど!でもコマにぃの装備を経てレベルも上がった今の僕ならできるに違いない装備!」

 そういってプロジェクターのようなものを使って画用紙を拡大させる。いつも通り人型に纏うような……ごつい盾と鎧。というかイメージ画像だと武器を持ってないでめちゃくちゃでかい盾を持ってるだけに見えるんですけど。しかも両肩にまで小さい盾がマウントしてらっしゃる。

 あー、こういう感じで……いやなにこれ。
 その感想はここにいた全員が同じ感想を抱いてるらしく。リーシュ君を知っている僕らはまたなんかやってるよ、という感想しか抱かないがシバさんは困惑し……

「うおおおお!かっけぇっすね!」

 あれ?結構好評な感じ。
 高い評価をいただいたことにより機嫌が増しているリーシュ君が鼻高々に装備の解説をし始める。いやいや。ツッコミどころ多いけど。

「とりあえず突っ込んでいい?」

「今回はコマにぃから来るのか。ふふふ、かかってこい!」

 勝負形式ではないと思うんですけど。まぁいいか。えーっと。

「まず、シバさんの体格でこんなでっかい鎧なんですか?」

「一応コマにぃみたいにこれは最終予想だから、もっとダウングレードしたのを渡す予定だけどね!」

 僕の最終形態あの感じになるんですか。

「シバねぇのすごいところは何といっても空間把握能力!あと耳がいいのかな?後ろにいる相手でも問題なく追えてるみたいだし、とにかく防御できる範囲を広げてみたよ」

 というと画用紙が次に動き、横からの図になる。図解では肩の盾のようなものが広い範囲を動き、ほぼ全身を防げるような姿になっている。なるほど?いやわからんけど。

「なんかおもちゃみたいっすね!」

「ボクもこんな感じのおもちゃで見た気がするからね!」

 リーシュ君って見た目だとおもちゃとか持っていても問題なさそうなんだけどね。というかそれおもちゃでいいんですね。

「とりあえずアーキタイプちゃちゃっと作ってみちゃうから今のシバねぇの装備貸してもらって~」

 そう言うと僕らの方を見る。なぜ僕らの方を見るんだ。正直もう僕の出番は終わりでは。

「なんか使えそうな素材、置いといて」

「いやだいたい共有のところにぶち込んであります」

「私もそうだね」

 ミヅキ先輩は意外とため込んでるみたいだけど半分くらい盗品なので扱うのは微妙そうだけど。

 とりあえずいっぱい集めたウサギの素材と電気ウサギの素材だけは置いていくことにした。たぶん電気ウサギの素材は役に立つだろうし。

 いやいやジャンプしてもなんもでないですって。これ以上はさすがにないですよ。いやそんなに疑われてもないですから!

 ◇

 ないなら狩りに行ってこない?という提案を受けてクランハウスから街中まで戻ってきた。正直兎系統のスキルを調整したかったのもあるけど、電気ウサギを倒したし自分の部屋を弄って遊ぼうと思っていたのに残念だ。仕事を終え家に帰っても働きに出ないといけないとは。これが父さんの気持ち……いや、父さんはそんなことないから違うか。

 PvPの大規模なイベントが起きるとあって第二の街は大盛況だ。いつもなら第一の街の方が多いように感じる露店や出店が多く感じる。
 その中には肉を焼くおじさんの姿も……

【 Action Skill : 《紫電一閃》 】

 視線を低くし、体を前かがみに倒す。頭の中でよーい、どんと唱えると一瞬で視界が切り替わる。先ほどまで見えていたのは雑踏、そして今見えるのは巨漢の背中、そして膝裏。スキルを乗せた全速力の一撃は無慈悲に、そして全力を持ってして膝裏に叩き込む。全速力でのひざカックン、受け取ってほしい。

「ぐあ”あ”あ”ああぁぁぁぁ」

 よし。満足した。今回に関しては割と全力でぶちこんでしまったことを詫びてウサギ肉を数個だけ置いて行こう。いっぱい取ったし。

 さて、狩りと言ってもどこまで行くか。第三の街を目指してもいいし第二の街の東や西を散策してみてもいい。森や山を途中で降りてしまって奥まで行ってないし。この世界大陸の端なんてあるのだろうか?マップの行ける範囲というのは気になる。そっちにしようか……

 いや、今回は素直に下に降りよう。つまり第三の街目掛けて進むルートだ。単純に敵のレベルが高くなっているのもあるし、森や山に住むモンスターはわりと戦い慣れた気がする。

 そうと決まればさっさと先へ行こう。ここへいると変な人たちに掴まる気がする。具体的に言うと炉の中に突っ込んだおじさんとかレベリングとかしようと別れたはずなのに酒を飲んでる長身の女性とか大量の黒服、もとい囲いを連れた細身の女性とか。

 この街、というか僕の知り合いろくな人いなくない?

 ◇

 森を超え、川を越え、岩肌が多くなってきた。川辺にはジャリよりは大きな石が転がっている、苔が生えている場所はつるつると滑るような戦いづらい地形の場所も多かったが、ここまでくると砂や土がむき出しになっており、地面を踏みしめても硬く返してくれる。

 地面を靴でトントンと小突く感触すら気持ちいい。現実ではこんなに身軽に動けないからね。さてさて、ここの岩場では何が出るのかな。確か事前情報では……ああ、いたいた。

【インヴァイトスネーク】

 岩と岩の間に隠れ住むように潜む蛇だ。蛇と言ってもモンスター、テレビで見る大蛇よりも巨大な、人くらいなら丸のみできそうな蛇である。
 蛇というのは攻撃方法を知らないと戦いづらい。普通に正面から近づこうとしてもピット器官、はAI的に積んであるのか知らないけれど簡単に接近を察されてしまう。

 正面からは素早い噛みつき、横からはうまく攻撃できなければ巻き付かれ、そのまま全身の筋肉を使って絞殺され、背後から忍び寄ろうにも尻尾ではたかれてしまえばそのまま追撃されるだろう。

 ならどうするか。

「てぇい」

 超上空からの落下攻撃だ。蛇を捉える猛禽類のように鋭いカギ爪に見立てた刃を足から生やし、一撃で首元へ差し込む。最初に頭から近いところを固定しない場合、蛇は振り向いて噛みつく。理想を言うと首、胴体、尻尾全てを固定することだ。僕の場合はそれが足に生やした刃と両腕の剣でできる。

「~♪」

 鼻歌交りに蛇を切り刻む。ウサギ関連のスキルは使用できていないが、今日は何となく自分でもわかるほどに機嫌がいい。動きのキレがいいからだろうか?蛇が何度か反撃を試みても全てを事前に潰し、地に縫い付けることができている。

 スキルを使い、トドメをさすと蛇は皮を残し消滅する。うん、スキルの精度も悪くなさそうだ。

 皮を拾い立ち上がると、エンジェルさんのところの囲いたちとは違う黒服、というかこちらは黒を基調としたファンタジー装備だろうか。

 加えて特徴的なのは腰に添えた刀だ。このゲームで刀を見たのは初めてかもしれない。

 いいよね、ファンタジー世界でも刀。日本人として刀を使うのに憧れがある気持ちもわかるし、剣道とか一切知らないけどスキルがあるからこそ使えそうな雰囲気もある。
 それにここまで来ているということは実力者なのだろう。カッコいい侍目指して、これからも刀で頑張ってほしい。

「失礼します、コマイヌ殿で宜しいですか?」

 僕に用事だった。いや、知らない人に話しかけられたらスルーしろってミヅキ先輩が。

「人違いです」

「いやあんな戦い方普通のプレイヤーにできるかい」

 おお、普通のツッコミだ。なんか久しぶりに聞いた気がする。

「えーっと、コマイヌだったとしたらどのような用事で」

「『黒鳥会』、人差し指の【譲宣】……挑ませていただきたく」

 刀をチャキっと抜いて僕に勝負を挑んでくる。決闘申請などない、PK……

 今日なんか変な人に絡まれる率高いなぁ。
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