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六十三話
しおりを挟む神殺しの剣テュルファングと出会って以降、地味に呪い関連の事案が絡んでくる機会が増えた気がする。
ルーシーによれば「わたしの魔力の波長に反応しているのかも」とのこと。
ほら、幽霊とかって視える人のところに寄ってくるって話を聞いたことない?
自分のことが視えているのならば、きっと話も聞いてくれるだろうと、すがる想いにて、うらめしやー。
わたしを取り巻く状況は、どうやらそれに近いものらしい。
いくら健康スキルの恩恵にて、呪いなんてへっちゃらな体質の女とはいえ、なんて迷惑な! ノットガルドにはネクロマンサーがいるんだから、そっちへ行けよ! こっち来んな!
それでもって、今回はコレだよ。
井戸の底から聞こえてくるのは「ピチピチギャルとデートしてえ」とか「おっぱいの大きな未亡人に囲われてえ」とかいうふざけた台詞。
そんなもの、わたしだって囲われたいよ! そして膝マクラにて存分に甘やかしておくれ!
井戸の底にはロープを括りつけたルーシーさんに行ってもらった。
だってわたしだと、その辺にロープを括りつけて降りることになる。そして引き上げてもらえないので、自力でよじ登ることになる。しかも荷物をかついで。
作業効率を考えた結果が、この配役である。
ゆっくりとルーシーが吊るされたロープを下ろしていく。
ある程度いったところでロープが向こうからクイクイと反応。
すぐさま引き上げたところ、ルーシーの手には小さな石のコケシみたいなのが握られてあった。井戸の底が横に掘られており、一番奥の祭壇にて飾られてあったという。
五百ミリリットルのステンレスケトルぐらいの大きさ。重さもちょうどそれぐらい。
その石のコケシがお天道さまの下に出たとたんに「夏の太陽は嫌いだ。あとビーチのカップルども、うぜー。全員爆ぜろ。もしくはモゲろ」と言った。
「これがアルチャージルに災いをもたらす……、邪悪?」
わたしが首をかしげるとルーシーも「たぶん」と自信なさげに首をかしげた。
だが当の石のこけしはやたらと自信に満ち充ちていた。
「おうとも、オレさまがその気になれば、リゾートだのバカンスだのと浮かれているバカどもなんぞ、あっという間に不幸のどん底へと叩きおとしてやるわ」
ちょろちょろ漏れる呪染だけで、いろいろと災いを招いているところからも、実力はある。まんざら大言壮語というわけでもないのかもしれない。
だからとっとと叩き壊そうとしたら、ルーシーに止められた。
「いけません、リンネさま。この手のトラップは迂闊に手を出すと爆発すると相場が決まっているので」
「なら埋めるか? コンクリートでがっちりと固めて」
「おそらくですが、それとても一時しのぎでしょう。どうやら封印されている間に、身に染みついた呪いが薄まるどころか、ますます熟成されて濃くなっている様子。ヘタに埋めて放置していたら、次はとんでもないことになるかもしれません」
「えー、めんどくせー。でもそうしたらどうすればいいのよ」
「そうですね……。当人にきいてみるのが手っ取り早いかと」
「?」
「呪いというモノは強い想いの残滓。その想いを成就してやれば、呪いも自然と霧散するというもの」
「なるほど、そういうことか。よし、わかった。じゃあ、とりあえず石のコケシにたずねてみよう」
「コケシさん、コケシさん、どうすれば穏便に逝ってくれますか? 教えてください」
主従してめっちゃへりくだって教えを請うたら、「しょうがねえなぁ」とコケシ。「そうだな、オレさまデートがしたい」とか言い出した。
これにはさしものルーシーの青い目も点となる。あまりにもしょうもない願いだったからだ。
だがわたしには彼の気持ちがちょっぴりわかる。
いや、いささか見栄を張った。悲しいことに、むしろガッツリわかってしまう。
「カップル爆ぜろ」とか「リア充くたばれ」とか悪態をついてる人ほど、じつは内心でとっても彼らをうらやましがっている。
自分の殻に閉じこもり、斜にかまえることで、夏をやり過ごし聖なる夜に息を潜め、どうにか己のちっぽけな自尊心を守っているにすぎないのだ。
その殻とて、ほぼほぼ紙装甲。
だからやさしくしてちょうだい。すぐに破けちゃうから。
自分もイチャコラしたい。でも出来ない。相手がいない。ならば自分から動け。そんな真似が出来れば誰も苦労してねえよ! スズメ並みのチキンハートを舐めんな!
あー、自分から行く意気地なんてないし、誰か告白してくれないかなぁ。
いまならフリーよ。浮気もギャンブルも酒もタバコもしない。暴力なんてもってのほか。こう見えてマジメで一途な優良物件だよ。早い者がちだよ。ウエルカム、ラバー!
しかし、現実はどこまでもしょっぱい塩対応。
基本的に棚からボタ餅は降ってこない。大口を開けてバッチこーいと待っていても、口の中がカラカラに乾燥し、ノドがいがらっぽくなるだけ。
この石像を彫っていた古代の勇者も、はじめのうちは怨念を込めるかのようにして彫り進めていたのであろうけれども、歳月が経つうちに、そこに憧れやうらやましいという気持ちが上塗りされていったと。
誰かに愛されたい。
誰かに必要とされたい。
そして誰かを愛したい。
「デートがしたい」
石のコケシの、しようもない願いに込められた、切実なる心情。
これをくみ取ったわたしはひと肌ぬぐことにした。
「しようがないね。そういうことなら、このピッチピチのわたしが相手をしてやるよ」
報われない野郎の魂を鎮めるために、いま乙女が立ちあがる!
だというのに、石のコケシは「えー、オレは胸の大きな子が好みなんだけど」とかぬかしやがったから、すかさずスコーピオン断罪トゥーキック。
つい反射的に蹴飛ばしてしまい、森の奥へと飛んでいく石のコケシ。
おかげで探す手間が増えた。
だがこの一撃が功を奏す。
「へへっ、オレは気の強い女も嫌いじゃないぜ。ツンデレ、いいじゃないか」だってさ。
どうやらコイツを彫った男は、かなり守備範囲が広いらしい。
それから石のコケシが阿呆で助かった。
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