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四十一話

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階段を下ると泉が目の前にあり、三階よりも狭い空間が広がっていた。空間というよりはクランハウスのリビング程度の大きさだろうか?中央に泉があるのと、他に目を引くものとして泉の先に禍々しい模様の描かれた大きな扉があった。

「ボス部屋かー」

「全四階層って考えるとそんなに大きくないね。やっぱり三階が稼ぎ場になりそうかな?」

先輩二人が特に動じることもなく、泉に触れてしゃがみこむのでダンジョン特有のものなのだろうな。
聞いてみたところ、ダンジョンにもよるのだがボス前に扉が設置しており、その場合手前の部屋にHPMPを回復する泉が置いてあるらしい。ちなみにこの泉が置いてある場合はダンジョンがキツイ場合か、ボスが強い場合のどちらかだったらしい。

【素兎《しろうさぎ》】で少量の回復効果があったとはいえ今回MPが少し厳しかったので回復は助かる。ただダンジョン全体がきつかったイメージはないので……ボスが強いパターンだろうか。

「ダンジョンのボスって普通のボスと違うんですか?」

「いやー、場所によるけど普通のボスとか、クエストのボスとかと同じだよー?」

「いやいやー、今回のパターンはギミック使うタイプのボスと推理しましたですよー」

「いやいやいやー、ギミックダンジョンだったからこそボスは無難に強いのが置かれてるパターンだと推理するね」

仲いいね、でもどっちなんですかこれ。おっと、そういえばダンジョン中に上がったレベル分のステータスをAGIに入れるのを忘れていた。いっそ自動で割り振ってくれないだろうかこれ。

「ちなみにこれずっとこの部屋の中入れるんですか?」

「確か結構入れたはずだよ。一回使ったら泉も効果ないし、特にこの部屋でできることがあるわけでもないけどね」

「βで一時間くらいいた人がいましったっけー?でも確かダンジョン事態に制限時間があるのですよねー」

なるほど、何かしら悪用できそうな気もするけど全く思いつかない。パッと思いついたのは扉を貫通して攻撃するとか?でもそんな風に悪用するくらいに手数がある人なら別に普通にクリアするか。扉貫通攻撃ってなんだ。【血兎】伸ばしてもたぶん無理だぞ。

扉の前にたち考えてみる。ただ特に意味のない動作が二人には挑もうとする気概に見えたらしく、二人とも武器を構え……片方は枕を構えて僕の隣りへ来た。

「よし、じゃあ開けるよ!」

「どうぞー」

「おねしゃーす」

「二人ともノリが軽いね……緊張してきてたのが損した気がするよ」

まぁ緊張して生じる損なんてあんまりないんで気にしないでください。



「そういえば二人はボスモンスターがどんな奴だと思う?」

「ボスですかー?まぁ無難に植物モンスターじゃないですかー?」

「まぁそれはそうなんだけど。蔦とか、花とか、人型とか動物型とか。このダンジョンにも何種類かいたじゃない?」

ボスモンスターか。植物でボスのタイプって難しいよね。他のゲームで言うとでっかい木だったりするイメージはあるけど、巨大な木の中のダンジョンでボスも巨大な木っていうのは。うーん、でも木だと思うんだよなぁ、それでいてボスっぽい木……ああ。

「桜の樹とか」

「桜?」

「桜の樹の下には~ってやつですかー?まぁ樹タイプのボスってのはわかりますけどー」

桜の樹の下には死体が埋まっているに違いないという昔のお話。それをオマージュしてゲームの敵に転用した話は案外あると思う。何作かやった気はする。僕がやったゲームで印象深いのだと特殊攻撃で樹の下に引きずられると即死だったからあんまりMMOには向かないと思うけど。

「あれ?誰か音鳴らした?」

「鳴らしてないですよー、死体の話したからって急にホラー展開やめてくださいよー」

「だってほら……カラカラって……ひっ」

確かに僕の耳にもカラカラ……と乾いた音が響いたように聞こえた。音の正体を探るように暗いボス部屋の中を見渡すと奥の方から人型の何かが歩いてくる。あれは、人骨?

「まさかのボスはアンデット系ですかー、予想が外れましたねー」

「ドリちゃん冷静だね……私このゲームでアンデットに会ったのは初めてだから……」

ワンダードリームさんは冷静に間合いを測り、ボタンさんは怯えてみんなから数歩後ろへ引いた。
僕は植物系の予想を裏切られて悲しいけど……まぁ、ファンタジーでいいね、ゲームならではのゾンビにスケルトン、いいよね!

すると後ろへ引いたはずのボタンさんがまたひっと短い悲鳴をあげると僕の背中へしがみついてくる。あの、何かありました?と後ろを振り返るとそちらからもカラカラと音が聞こえる。音の聞こえる足元を見ると、地面から骨が手を動かし出てくる瞬間だった。

『CAUTION!ボスエリアに侵入しました!』
『【麗しき枝垂桜の女王】が現れた!』

そしてシステムメッセージが流れたかと思うと薄暗かったボス部屋に少量の明かりがともされる。しかしそれよりも明るい光源が奥にあった。花をライトアップするかのように計算されつくした位置に光が置かれた、怪しいほど綺麗な枝垂桜が奥にあったのだ。

うおー!予想当たったァ!

一人ガッツポーズをしているとワンダードリームさんが枕を置いてふらふらと枝垂桜の方へ歩いて行こうとしてしまっている。どうしたのだろうか。

「コマ君!ドリちゃん止めて!」

オッケーです。ワンダードリームさんを後ろから羽交い締めにする。ワンダードリームさんは意識を朦朧とさせながらも、振りほどこうとする。しかしおそらくINT・MP振りのワンダードリームさんとSTRに一回だけ振った僕で割と拮抗している。
まぁ仮に振りほどかれてもワンダードリームさん程度のAGIなら1秒もかからず追いつくんですけど。

【 Action Skill : 《キュア》】

ボタンさんが素早く呪文を詠唱したかと思うとワンダードリームさんへ光が飛ぶ。するとワンダードリームさんの抵抗が弱まる。そしてよく見ると彼女の頭の上に数本の糸が見えた。
たぶんこれのせいだろうと拘束を解き、剣で糸を切り裂く。するとワンダードリームさんは頭をぶんぶんと振りながらもしっかりと立ち上がった。

「ドリちゃん!大丈夫!?」

「気を付けてくださいー、本体の桜から糸を繋げてきて、回避に失敗すると魅了されちゃうみたいですー!」

糸を切ったことにご立腹なのか、それともそんな感情は積まれていないのか知らないが、枝をわさわさと動かしたかと思うと持ち上がり、花びらが散り始める。
それと同時にこちらを囲んでいた骸骨たちが距離を詰めてくる。

「ボタンさん指示をー」

「ドリちゃんはなるべく近づいてくる骸骨の駆除!私はそれの援護と二人の回復に徹するから最初から飛ばさないで!様子見!魅了は最悪解除するけどなるべく回避!」

「僕はどうします?」

「れっつとつげきー」

「突撃というより遊撃!ただコマ君は魅了されないでね!最悪AGIそのままで魅了されちゃうと解除する前にどっか行っちゃいそうだから!」

ああ、確かに。スキルも使っていいと言われたら今すぐにでも桜の樹の下に行けるし。了解です。

まずはこちらへ近づいてくる中で一番突出した骸骨の前に走る。へい骸骨さん?集団では浮いてるやつから倒すのが常識らしいぜ。ミヅキ先輩が言っていたので間違いない。
まずは様子見のように≪バッシュ≫、アンデットに斬属性ってあんまり効かなそうだし打撃から……と思うと一発で骨が吹き飛ぶ。
あれ?首をかしげているとカラカラという音、また桜の樹の下から骨が這い出てくる姿が見えた。

「この骨めっちゃ脆いですけど無限湧きかもです」

「わかった!最悪近づかれたらこっちで対処もできるからコマ君は桜フォーカスで!ただ何してくるかわからないから最初はドリちゃん攻撃飛ばしてみて!」

はーい、と気の抜けた返事とともに土塊が桜へ向かって飛んでいく。しかし桜の樹に到達する前に跳び出した骨たちが束となり盾を作り、土塊は骨に防がれ消えていった。

「うーん、骨が防御するけど骨がそっちに集中するなら桜に全力でいいかもね」

「ですねー、というわけでどーん」

というと、また土塊や岩を飛ばし始める。そのたびに骨が盾となり、また湧く。MPもったいなさそう。
暇なので桜の方へ向かう。たぶん防御に骨を使うということは本体に防御性能はあまりないだろう。

歩を進めると近づく僕に気づいた骨が腕を振り上げ迎撃を試みてくる。しかしあまりにも遅い。≪バッシュ≫一発で砕け散っていくし、脆すぎるし。

一体で止められなかったからか数体でこちらへかかってくる。しかし耐久力が変わってないので別にただ殴り倒すだけである。
次々と現れる骨たちを切り倒し、張り倒しながら前へ進む。途中囲むように右から左から。前から後ろから、奇襲のように下からくることもあったが全部反射で切り伏せる。
気分は無双ゲームだ。数十体と囲んできた時に【血兎《アルミラージ》】を全力で振り回したときに強く感じた。うおおおおお、楽しいいいいい。

「ドリちゃん、なんかコマ君が暴れてるよ」

「たまに自分に合ってる戦闘方法が弱点の相手見つけると楽しいですよねー、夢も状態異常に弱い敵見つけるとテンション上がるのでわかるのですよー」

「私はあんまりわからないなぁ」

骨たちの残弾が切れたのか桜の前までたどり着く。何もしないのかな、なら切るけど。腕を振り上げると桜がまた声をあげるようにざわざわと枝を揺らすと、花びらが空中へ一斉に飛ぶ。おお、花吹雪。外でお花見なんてほとんどした記憶がないのでなんだか新鮮な感じだ。

【 Action Skill : 《切花吹雪《せっかふぶき》》】

「防御ー!」

ボタンさんが何を感じ取ったのか知らないけれどワンダードリームさんとボタンさんがバリアのようなものを張る。たぶん防御魔法だろう。ただ僕は範囲外というか、突出しすぎたために攻撃にさらされる。

花びら一枚一枚がひらひら待ったかと思うと勢いよく風に乗ったようにこちらへ向かってくる。回避するために大きくジャンプすると、僕の後方に出現していた骨が花びらに触れ、その体を細切れにされる。うわ危ない。

「コマ君!こっち寄れる!?」

【 Action Skill : 《ダッシュ》】

まぁ走れば簡単だ。最近はダッシュの慣性や速度にも目が慣れてきた。ある程度距離も制御できるようになってきたので立ち回りにも入れていきたいね。

「うわはっや……と、どうする?今のところ全然攻撃できてないけど」

「三階と同じ感じでいいんじゃないですかー?夢とコマイヌ君が引き付けてー、ボタンさんがどーん、で」

「僕はお任せします」

自主性がない男です。僕の役割は鉄砲玉だと思っているので言われたところに飛び込もうかなと。
とりあえずその作戦に決定したのでボタンさんが≪猪突猛進≫を溜め始める。注目しているとスキルログすごいですねそれ。

「ただワンダードリームさん、あの花びらどうします?」

「半分くらいは夢の魔法でどうにかするのでー……あと半分頑張ってください」

そんな無茶な。と思うとまた花びらが舞い始める。しょうがないので言われた通り一番手数が多くできそうな両腕に事前に刃を出しておく。
花びらが飛ばされ、それをワンダードリームさんが必死に落とそうとしてくれている。しかし少しずつしか花びらを落とせていない。勢いの強い火に対して放水しているような気分だ。

そうして花びらが僕らの元に辿り着く。

「コマ君!?今花びらに呑まれなかった?」

「あ、なんか全部落とせました」

「うわぁ……さすがの夢もドン引きなのですよ……」

自分でも思うけど人外じみてきたな。
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