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三十五話

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どうやら買い物と相談は終わっていたらしく、二人して辺りをきょろきょろと見回していた。待たせてしまっていたようだ、申し訳ないな。

「すいません、お待たせしました」

「ううん、ちょうど終わったところだよ……って、その後ろの人は」

「【暴風】さんですね」

「【シュヴァルツ=シュヴァルベ】だ。【暴風】とかシュヴァさんで呼ばれることが多いな」

フレンドになったから名前知ってたけど、名前が長いので暴風さんで呼んでる。長いけどドイツ語並べておけばカッコいいでしょ見たいなセンスも嫌いじゃないですよ。

何故かボーっとした後何か打ち込み始めるボタンさん。そういえば【暴風】さんにスキルのこと聞きたかったんだった。ボタンさんたちが作業している間に聞いておこう。

【クランチャット】
ボタン:コマ君の連れてくる人ってみんなこうなの!?
ハナミ:今度はどったん?
ワンダードリーム:『燕の暴風』の【暴風】、正式版で初めて見たですー。
ミヅキ:この前仲良くなってた
ハナミ:ワロ
ボタン:どういうコネなのかわからないよー!
ミヅキ:そんなに緊張するほどの人でもない。結局はMMOの一プレイヤー。
ボタン:ミヅちゃんとかハナちゃんは掲示板で有名な人だからいいかもしれないけど!私みたいな地味な子にはネットで有名ってだけでも怖いのー!うわーん!
ハナミ:この猪、よくクラン纏めれとんなぁ
ミヅキ:コマイヌも伸びると思うし、ボタンは大変



「なるほど、そんなスキルが……」

「対人極めてくかMOB狩りするか、ハイブリッドにするかでビルドも変わってくっからな。正直スキルの幅が広すぎてまだ正解が出てねぇってのが俺の意見だ」

確かに。最近取得できるスキルがどんどん解放されて育成で一覧を眺めてるだけで日が暮れそうだったから困っていたのだ。ミヅキ先輩は対人寄りのスキルに詳しく、【暴風】さんは取得者が多いシンプルに強力な……所謂メタ・環境・OPスキルに詳しかった。

「最後に使った≪ダッシュ≫、あんな感じのスキルを模索していくのもありですよね」

「あぁ、ありだな。AGI極振りとかAGI編重ってのはあんまり見ねぇからな。お前が開拓してけ」

【暴風】さんはこのゲーム特有のビルド幅がとても広いのも確かにいいと思うが、MMO特有の一部プレイヤーを真似たような状態も好きらしい。要するに色んな戦闘方が見たいということらしいが。

そんな会話をしているとチャットを打っていたボタンさんとワンダードリームさんが帰ってきた。クランチャットがまた光っていたのでクランチャットを打っていたのだろう。後で見よ。

「じゃあ俺は行くわ、コマイヌ。頑張れよ」

「【暴風】さんも頑張ってくださいね」

僕らに気遣ってくれたのか去っていく【暴風】さん。街中で話し合っていたので何やら周りのプレイヤーたちが噂していたけど、僕は【暴風】さんとかミヅキ先輩と違って普通のプレイヤーなので……

何故か出発前に疲れた顔をするボタンさんと、面白そうな顔をしたワンダードリームさんが印象深かった

そんな二人を引き連れてまた街の中央まで向かう。しかし今度は大樹を登っていくのではなく、大樹を下る階段を進む。おお、ダンジョンってこういう感じなんだ。

「そういえば、ダンジョンの中って何があるんですか?」

「さっき話してたけど、そういえばいなかったね」

すいません、乱暴な風に捕まっちゃってて。

「ダンジョンの中はある程度の横幅がある通路になっていて、何本か分かれ道があって、分かれ道のどこかに下り階段がある構造なことが多いかな」

ああ、昔のゲームで言う不思議のダンジョンタイプの。あんな感じなんだ。

「そうそう。罠があったりとか、外れの道があったりとか。最初のころの攻略は難しいけど情報が出回ってくると効率化されるタイプだね」

ああ、初心者で情報収集してないと怒られる奴。

「このゲーム外からデータ持ち込めないからー、地図士スキルとかが人気出るんですよー。ダンジョン内の地図を書いて市場で売るとかー」

「でもそれコピーされたり、仲間内で回されて終わりでは?」

「週に一回しか挑めないし、一回で構造が少し変わるタイプのダンジョンだから安定して人気出るよ」

そうなのか。そういう生産系スキルとか罠解除みたいなスキルを持って仲間をサポートするのも面白いよね。今回はAGI振り戦士で進もうって決めてるからやれないけれど。

「罠ってどういう感じですか?一回遺跡みたいなところでボタン踏んだり線引いたりはしましたけど」

「それも小規模のダンジョンみたいなものだと思うよ。それと同じで、ロープだったりくぼみだったり、見えづらーい感じに罠が設置されてることが多かったかな」

「ああ、今ワンダードリームさんが踏んだ感じの」

「そうそうあんな感じの……」

「こんな感じですねー」

「ってドリちゃーん!」

この二人はショートコントが似合うなぁ。
ワンダードリームさんが踏んだ罠は前回の遺跡と同じタイプの罠らしい。前方から矢が飛んできた。ボタンさんは飛んでくる風切り音を聞き急いで伏せ、ワンダードリームさんは僕の後ろに隠れた。

あの、なぜ後ろに。僕が避けれないのですが。

まぁ前回の遺跡と同様、この程度の速度で飛んでくる矢は払い落とせるので問題ないのだが。【血兎《アルミラージ》】で三本飛んできた矢を全て落とす。相変わらず便利だ。

「ドリちゃん!」

「今回盗賊役がいないのでー、罠を踏むのはしょうがないと思うですよー」

いや、そのあとの行動が問題だと思うんですけど。

「だからってコマ君盾にしちゃだめでしょ!」

「動画で弓なり銃なり切り落としていたのでー、今回も平気かなーってー」

盾にされたと思うと嫌だけど、信頼されてると思うと照れるなぁ。
実際切り落とせてしまったのでボタンさんも特にこれ以上は言えないらしい。まぁ、これ以降気を付けてくれれば。

そう思いながら進むと今度は僕がカチッと何かを踏む音が聞こえた。

【 Action Skill : 《ダッシュ》 】
【 Action Skill-chain  : 《スラッシュ》 】

矢が飛んでくる前にダッシュで発射口へ近づき、スラッシュで根本から切り払う。危ない危ない、バレるところだった。

「あのコマ君、今の音とスキルは」

「気のせいですね」

「夢が踏んだ時と同じようなー」

「気のせいですね」

この後も何故か僕とワンダードリームさんばかりが罠を踏み抜き、ワンダードリームさんは僕を盾にし、僕が踏んだ時は矢、石礫、全て飛んでくる前に発射口から潰すことで事なきを得た。

しかし適当に歩いていてもなかなか広いのか階段へ着かない。モンスターもなかなか出てこないし、まさか……迷っているのだろうか?

「ボタンさん、これ迷ってます?」

「いや、ちゃんと頭の中だけどマッピングしながら進んでるし、ぐるぐる回ってる感じもない……ただ、そこの植物」

そう言って分かれ道にある花を指す。あれがどうかしたのだろうか。

「ここの花は黄色、その前の分かれ道は赤色で、その前はまた黄色だったの」

「ああー、ギミックっぽいですねー」

「みたいだねー、とりあえず他のパターンを……ってコマ君、何してるの?」

先ほど刺された花、見たこともない植物だったので引き抜いてみた。うーん、特に何も……と思っていると何故か地響きが聞こえる。引き抜いた植物のあった地面から植物の蔦が伸びていき、絡まっていく。あれ、なんか変なんやった?

【カラミツタ】

「すいません、なんかモンスター出ました」

「見ればわかるよー!戦闘用意ー!」
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