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二十五話

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まさかこのゲーム内で一番倒したいと思う相手がここに現れるとは。僕が出した殺気に反応したのかお付きのプレイヤーたちが全員剣を構えた。
なんでお前らも揃いも揃って同じ鎧に同じ剣なんだ!
そしてなんで揃いも揃ってちょいイケメンくらいのモブ顔なんだ!

人数はそこそこ多い、それこそ前回のエルフの賊と同じくらいだろうか。大丈夫、ここにいる奴らはいったん全員ゲーム内牢獄に入ってもらう予定だから。

「コマイヌ、いい殺気」

「まさか殺気なんてものを出せるとは僕も思っていませんでした」

姫男《ひめお》は絶対にヤるとして、取り巻きたちをどうするかだ。一対一はそこそこ自信があるけどこの人数相手はさすがに……と思っているとミヅキさんがこちらの袖を引っ張る。

「まず私がやる。そのあとコマイヌは全力で入り口まで退却。追いかけてきてもコマイヌなら逃げれる」

「まぁそりゃ逃げれるでしょうけど……何するんですか?」

「見てればわかる」

そういうとミヅキさんは自然体に前へ出た。しかし今回は部屋の隅から全員が注目している状態、前へ出るごとに警戒を強めていくのが僕にもわかる。果たして何をするのだろうか。

【 Action Skill  : 《鼠の……認識阻害》 】

スキルログが流れようとしたときに特殊なノイズのようなエフェクトが発生し、スキルログが認識阻害という文字でかき消された。なんだその演出、かっこいい。

するとノイズが視界にも及び、一瞬ミヅキさんから目線が外れたと思うと、ミヅキさんが相手の懐にいた。それも三人。

……ん?気のせいでなければミヅキさんが三人に増えているような気がする。相手のモブ顔たちはいつの間にか懐に潜り込んでいたミヅキさんに気がつくとすぐさま剣を振った。何かしらあるのかと見守っているとそのまま剣に貫かれる。あれ、助けたほうがよかったかな、と思った矢先、貫かれたあたりを起点にミヅキさんが爆発した。あれってもしかして最初に使ったダイナマイトでは。

しかも使ったダイナマイトは一ミヅキさんにつき一つではなかったようで一つが爆発すると連鎖的に爆発していく。やがて部屋中に爆発が広がろうとしたとき、僕は全速力で逃げ出した。

いや爆破するなんて聞いてないんですけど。これ上から岩崩れてきてるし僕いらなかったというか僕も死にそうでは。ていうかミヅキさんは死んじゃったのかあれ。三人いたミヅキさん全員貫かれていたように見えるけど。

ちらりと後ろを振り返ると土煙に紛れて何かが見えた。同時に天井が崩れている音と違い、規則正しい足音が耳に届く。
もしかしてこれって、と嫌な思いどころではなく、嫌な確信をしながら目を凝らすと、モブ顔たちが全員足音を揃えながら複数人で巨漢を抱えてこちらへ走ってきていた。

うわこっわ!

どうやら全員の歩幅を揃えることで姫巨漢を抱えながらでも逃げ切れているらしい。よく訓練されたメンバーですね。しかし岩や爆発から逃れられたとしても僕にはさすがに追いつけないだろう。と高を括っていると後ろから何か飛んでくる。弓に魔法に……岩?投げてる人いない?

弓は歩幅を揃えている後衛が、魔法は姫巨漢が、岩はもうわからんけど投げてきているムキムキのメンバーが。いた!よく見たら何よりも賊らしいやつ一人だけいた!というかあれもう賊っていうより新種のモンスターなんだけど、オーガみたいなのいるんですけど。

しかし投石や弓矢には慣れたものだ。前回の遺跡探索によりこちらに狙いをつけ飛んでくる飛び道具に対して目が慣れたのは大きい。的確に当たるものだけを弾いて、僕の走りより遅いものは置いていく。

今さらだけど姫あいつ巨漢な上にネナベであの見た目で魔法使いかよ!本当にことごとく期待を外してきている。むしろ狙っているまであるのではないだろうか。

そろそろ出口だと思うけど……おっと、そういっていたら視界に明るさが戻ってくる。光が狭い入り口から射しているのが見えた。
ありがとう洞窟、失礼しました。

狭い通路にぶつからないように外に出ると先ほどよりも酷い光景が広がっていた。なんというか、悲惨。洞窟から出てきた奴を殺そうという気概だけは感じられる光景だ。
隠す気のない爆弾に地雷のようなもの、時代劇や創作でしか見たことがなかったまきびしに、隠すように地面の一部がぬかるみとなっている。
まきびしを避けるように歩くとピンッと何かに引っ掛かり、栓が抜けるような音を響かせ、それほど多くはないが全方位から矢が飛んでくる。

ミヅキさんだよね、何したんですかこれ。

とりあえず飛んできた矢を弾いて立ち止まる。岩の上や木の上は設置物もないらしく、なるべくそれらを跳ぶように動く。早く動かないと後ろから来ちゃうし。

そうして木の上に避難するとミヅキさんが隣へやってくる。やっぱり生きてたのか。生きてなければここまでの罠地帯作れないだろうけど。

「生きてるとは思わなかった」

「本当に死ぬかと思ったんですけど。生き埋めになるかと思いましたよ」

「冗談、コマイヌなら生きてると思ってた」

本当かは疑わしいけれどそれを議論しているような時間はなかった。洞窟の入り口を吹き飛ばすようにモブ顔たちが現れたのだ。
一部は罠に引っ掛かり、体力を削っているが全体でうまく処理していく。一種の群生生物みたいだ。そして一定の広さを確保したかと思うと姫巨漢を中央におろし、椅子を置きそこに座らせる。見た目巨漢だけどいいのかお前ら本当にそれで。
ミヅキさんは罠が発動したが一部にしか効かなかったのを確認すると、こちらに耳打ちしてくる。やっぱりこの大量の罠もミヅキさんが置いた物なんですね。

「私は体を出して、森の中にあいつらを追わせる」

「了解です、残ってるやつを対処でいいですか」

「たぶん全員ついてこないけど、私は全員やれる。だから救援要請まで木の上で待機」

あ、ここでお留守番なんですね。まぁ一人で何とかできるというのなら僕が何かする必要はないか。かえって邪魔になると嫌だしそれでいいのだけど。なんかもやもやするな。出番が少ない気がする。

ミヅキさんは話を終えるとひょいと木の上から降り、また相手の懐に入っていく。しかし今回は人数が増えることもなく、爆発することもなく姫巨漢へ針を投げつける。針投げを何人かが身を挺して庇い、残りの人員がミヅキさんへ迫る。

ミヅキさんは設置した罠をうまく活用し相手の前衛後衛まんべんなくじわじわ削っている。観察をしていると違いがわかってくる。一回の回復魔法やポーションでほとんど回復する人もいれば、一回で半分も回復しない人もいる。ならHPやVITの量に違いがあるのかと思ったがそんなこともなく、針一本からVITやHPを計算してみるがほとんど数字が同じように感じる。
実際同じなんだろうなぁ、初心者狩りのくせになんでここまで足並み揃えているんだ。もしかして足並みを揃えられていなかったから偵察の奴らは装備が違って偵察役……下っ端だったのだろうか。

何かに気づいたらしい一般モブ顔が仲間に叫び伝えている。声を拾う限りだと、ミヅキさんの針に毒が塗られており、それが当たると回復量が半減してしまうらしい。しかも何故か毒の詳細まで阻害されてるとか。なんかすごい戦い方だなあの人。

先ほどの宣言通りだんだんと相手を森側へ引き付けながら的確に削っていっている。そしておそらく今相手の攻撃をわざと受けたな。回復すると見せかけて森の中へと入っていく。これまでの罠や針攻めに相当ヘイトを高めているモブ顔たちは、最低限の人数を残してミヅキさん捜索に走っていった。

木の上からなのでここから俯瞰できるが地獄絵図だ。森の中では集団行動がとりづらそうで、少数規模の集団となり探していた。そこまではいいのだが、罠にかかると木の上から石が降る、針が飛んでくる、矢が飛んでくる。そして少しでも陣形が乱れると洞窟内部で見た爆弾を持ったミヅキさんが飛び込み爆発していくのだ。

さらにたちが悪いのは罠の中に何も起こらない不発の物、ただ陣形を乱すためだけの罠なども織り交ぜられている。さらに謎のスキルにより阻害が入ったり入らなかったりと揺さぶりをかけるらしい。
参考になるな、これが初見殺しに読み合いか。自分の強みを最大限押し付けるやり方を見せてもらっている気がする。

最初、僕と正面から戦闘していたけどミヅキさんの本領はこういうフィールドなのだろう。
思ってたけどあの人だけ忍者みたいなことしてるよね。

そのまま全滅させるかと期待しながら観察をしているとこちら側へ何か飛んでくる。反射的に撃ち落とすことには成功したが盛大に音を立ててしまった。姫巨漢とオーガ、そして数人の一般モブ顔がこちらを見ている。

お留守番していろと言われたけどミヅキさんがまだ頑張っているし、僕も少しくらい頑張ってみようかな。まずこちらの木の下までよってくる一般モブ顔が一人。最初の初見殺しを披露してみよう。

【血兎《アルミラージ》】を最大射程まで伸ばし、木の上から下に、モブ顔めがけて振り下ろす。どの一人称視点ゲームでも上からの攻撃は避けづらく、下からは反撃しづらいだろう。
相手もこの程度で倒れるほどやわではなく、HPもそれなりに残っている。だが予想通り弓程度でしか反撃をすることができなそうだった。

そして相手が一旦引こうと背を向けた瞬間、【血兎】を引っ込め両手両足、肘膝の全てに短く刃を展開する。これは第一エリアのボスの蜘蛛と、リーシュ君が書いてた全身刃人間から着想を得た攻撃。

相手の後ろから全身を使い組み付くようにしがみつく。そして全身の刃で順番にスキルを発動させていく。

【 Action Skill  : 《ピアス》 】

の、掛ける八!八本の足で貫いて獲物をしとめる蜘蛛さんスキルだ。これだけ見ると別スキルみたいだけど、全部≪ピアス≫です。

さすがに不意打ちかつ全身を防御貫通攻撃で貫かれた一般モブ顔がデスしていく。PvPは楽しいけれどお互いにもう少し耐久に振っていると楽しそうだ。今のところ同じレベル帯から少し上下するくらいだと大味な結果になることが多い。

さて、下まで降りてきてしまった。今僕の前にはもう一人の一般モブ顔、そして奥には巨漢と、姫巨漢。巨漢たちは動く気はなさそうで、姫巨漢は僕のことを興味深そうに見ている。

一般モブ顔は先ほどの同僚の死を見て慎重になっている。盾を構えながら牽制するように間合いを詰めて、離してを繰り返している。

こちらがダッと足音を鳴らし近づく素振りを見せると盾を体に引き寄せ、カウンターを狙おうとしてくる。なるほど、これが読み合いか。お互いに一撃で相手に大ダメージを与えらえることがわかっていると、間合い管理やスキルの発動、相手が焦れて飛び出してくるか我慢比べするか、確かに楽しい。

しかしおそらくまだ【素兎《しろうさぎ》】の全貌は把握されていないだろう。つまりここは、そっと歩く。

少ししゃがんでから、ゆっくりと近づいて行く。間合いを詰めるでもなく、されど話すでもない。ただ急に散歩を始めたような徒歩。相手は僕の行動に戸惑いつつも、剣を振らない理由がないのだろう。右腕に構えた剣を振り上げた。

先ほどの≪ピアス≫だけ見たら僕の手の甲側に剣が出ると思っているだろう、そんな相手の意表をつくために、相手の剣の軌道に合わせ手のひら側で受け止めるように手を出し、刃を出した。おそらく遠くから見てる人は僕が片手で剣を掴んだように見えるだろうな。

ここにきて相手も僕がほとんどの場所から剣を出せることを察したらしい。察してくれたらしい。なので右手で剣を止めつつ、左腕を振るう。すると相手は当然止めるように盾を挟み込むが、左腕で先ほどしゃがんだ際に拾っておいた砂を投げつける。スキルとしても何も乗っていないただの投擲のため、目くらましやダメージにはならないだろう。しかし剣戟を警戒していた相手は一瞬思考を止める。

両手がお互いに使えず、どちらも肩のあたりに開いている。僕の得意な形だ。右足の先に展開した刃でスキルを発動する。

【 Action Skill  : 《ピアス》 】

今日は随分出番が多いピアス先輩だが、突き動作が多いので仕方がない。
蹴り上げるように発動した右足のスキルは、相手の正中線、顎のあたりに炸裂した。実際にアバターに突き刺さるわけではない攻撃エフェクトは相手の顎を通り抜け、足は高く振り上げた状態となる。つま先に出ていた刃は踵まで降り、また紫色のエフェクトを纏った。

【 Action Skill-chain  : 《スラッシュ》 】

上げ、下ろす。挟み込むような動作を時間を置きつつも右足一本で発動させた。随分丈夫なようで相手はこのクリティカル二連を食らってもデスしていなかった。

しかしもうほとんどHPは残っていなく、つばぜり合いをやめ回復のため下がる。しかしバックステップとはいえ、すぐに構えられない体勢で退いた時点で負けだっただろう。【血兎】展開。右腕を体で隠すように半身逸らし、右腕を引く。カシュン、ガシャンと機械音の後に、剣は伸びていき、剣道の突きのモーションで飛ばす。十分に距離が取れていなかった一般モブ顔は剣に貫かれ、今度こそデスしていった。

AGIに振ってれば剣にさされるよりも早く逃げれたと思うから、AGIに振るのをおすすめするよ。

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