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二十二話

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「命令」

というわけで命令されたのでおとなしく従うことにした。上下関係はしっかりしないといけないからね。決して拒否できなかったからとかではない。先輩の命令は絶対なのだ。

まぁ、コンテンツやらクエストに急に誘ってくるクランの人と考えればそれほどおかしくはない気がする。過去プレイしたMMOにもノリがいい人とかとはよく行っていた。ただ問題があるとすると明らかに僕向けではないグレー寄りのクエストな気がするところだけだ。

カタログを僕が眺めている間にミヅキさんがマスターから説明を受けている。それを聞くでもなく耳に入れながら家具を見ている。面白いなぁ、盗品を買うつもりはないけどタブを動かしていると盗品のページになった。
この「神魔混沌波状聖滅剣」とかすごい気になるなぁ。性能面を見ると僕の【血兎】よりも弱そうなところがなお面白い。

話を聞き終わったのかミヅキさんが僕の袖を引っ張る。ああ、退室ですか。了解です。カタログを置き、店を後にした。

店の外に出ると視界に新しい通知が流れ、そこには『パーティーへの申請』と出ていた。おお、初めて使う機能だ。

『承認』ボタンを押すとパーティーという新しいタブが追加され、そこにミヅキさんと僕の名前が並ぶ。ミヅキさんレベル30なの?たっか。

同じパーティーに所属したことによりクエストの進行度が共有された。先ほどのマスターが依頼主として表示され、クエストが設定されてる。プレイヤー間のクエストってできるんだな。これも新機能だ。
と言ってもよくわからない名前の討伐としか設定されていないけど。先ほどの話を聞く限りクランと戦うのかな。

「ミヅキさん、僕たちは結局何をすればいいんですか?」

「暗殺」

「えぇ……」

ミヅキさんが得意そうではあるけど。

「初心者上がりをPKして稼いでるのを一回殺してアイテム奪う。資金が結構多いから一回殺すだけで美味しい」

つまり初心者をPKしている悪い連中がいるから僕らで成敗しようと。おお、ミヅキさんって無差別みたいな印象あったけど相手選ぶんですね!PKKみたいでかっこいいじゃないか。

「気に食わないのは殺す」

気に食わないの中にPK以外も交じってそうな気がするので、やっぱりPKKではないかもしれない。

マスターさんの説明によると件の闇クランは街の外に拠点を持ち、そこにプレハブクランハウスのような物を立てて暮らしているらしい。プレハブハウスと言っても急ごしらえの小屋みたいなものではなく、洞窟のような場所を根城にして盗賊プレイを楽しんでいるらしい。

PKクランの中で別に決まりなどはないが、新規層はなるべく大事にするというのが決まりらしいのだがこのクランは気に食わない相手に集団で粘着したり、純粋なプレイヤーからアイテムをだまし取り街に入らずともプレイしているらしい。

運営に連絡してみたが現状は今以上のPK対策はとれず、余りにも悪質な粘着などの行為が検出された時のみ警告が届くそうだ。しかしそのクランはそのあたりの見極めが上手いらしく、クラン員の中に開発や運営の親族がいるとの噂まであるらしい。

まぁ、僕も親族がいるんですけど。開発のたぶん重要なところに。

それは置いておいて、今回は表通りを歩いている。普通のプレイヤーショップやNPCショップが立ち並ぶ。落ち着くなぁ、光が当たる世界は。

「ここが、アイテムショップ。第一の街より良いポーションとか買えるから買っておいた方がいい。私の分も」

「自然にパシろうとしないでください。なんでですか」

「私が行くとNPCが怯えてどこかへ行く」

ああ、そういえばこの人もNPC好感度低い人だった。

「リーシュもポーションとかの錬金アイテム作りはしてないから、お店の場所は覚えておいた方がいい。リーシャはあんまりくれないし」

「リーシュ君は鍛冶ですもんね、リーシャさんは?」

「リーシュが作らないのを全般的に作ってる。けど専門は市場操作」

急に物騒というか、壮大な単語が出てきた。市場操作?

「プレイヤーショップのアイテムとか、NPCショップのアイテムとかの値段を見極めて、高くなりそうな素材を集めたり安くなりそうなアイテムを買い占めて中くらいの値で売る」

なんでもゲームの初期に大規模なポーションの買い占めが起こり市場にポーションがなくなったことがあったそうだ。適正価格もそれに合わせてどんどん吊り上げられ、買い占めを起こした転売クランがにやけ顔でポーションを売りさばいていたらしい。

しかしそれを読んで集めていたリーシャさんがポーションを転売クランの少し下くらいの値段で大量に放出、転売クランも慌てて適正価格より下で売り出すとさらに値下げを繰り返し、結果的に今くらいの価格に落ち着いたらしい。

そんな攻防を繰り返したり、リーシュ君の装備を売り払ったり、クラン員が買ってきたモンスター素材を少しでも高く売り払ったり、とそんなことをし続けているリーシャさんはゲーム内でも個人の保有資金額としてはほぼトップクラスを記録しているらしい。
そんなことを繰り返していると転売クランやらの恨みを買ったらしく、PKなどに狙われているところをリーシュ君ともどもうちのクランに加入した経緯があるそうだ。

「ケチくさいからお金くれないしアイテムもタダではほとんどくれない。ハナミとボタンには弱いみたいだけど」

ボタンさんは本当によくこんな癖の強い人たちを纏めているよなぁ。



街の西門に来た。ミヅキさんも入るときはやや面倒らしいが出るのは特に咎められることもないらしくすんなりと出てこれた。

西側は東のような鬱蒼とした森林地帯と違って、始まりの平原のよう草地に川や木が見える、自然豊かな場所という表現がしっくりくるような場所だった。遠くには山もあり、ハイキングに人気そうな場所だ。

まぁ僕現実でハイキングなんかしたことないんだけど。

「それで、どこら辺に敵の本拠地があるんですか」

「山を根城にしてる。めんどくさい、初心者狩りなら始まりの平原にテントでも立てておいてほしい」

そんなまぬけなPKクラン嫌ですよ。MMOとはいえファンタジーなんだからもっと、盗賊とか山賊っぽくいてほしい。

どんな姿をしているんだろう。やっぱり髭とか髪とかもじゃもじゃのごっついおじさんとかがいるのだろうか。楽しみだなぁ。

「しっ、顔伏せて」

と言われ指示通り顔を伏せ、ミヅキさんがこっそり指をさす方向を見る。その先にはなんというか、普通の片手剣に普通の盾、普通の防具の……なんかどうみても普通のプレイヤーがいた。

「あの人がどうかしたんですか……」

「あれがクラン【ゴブリンヘッドシャーク】の一人」

小声で訪ねると小声で返してくれた。
え……?あのいたって普通っぽい人がPKクランの人……?しかも初心者狩りとか山に根城があるような悪そうな人……?期待外れとかいう次元じゃないが。

「なんで普通の恰好してるんですか!」

「声が大きい。PKなんだから印象に残らないアバターの方が多い」

それはそうだ。明らかにPKっぽい見た目の奴が遠目にでも見えたら初心者は逃げるだろう。だからってあんまりだ。期待していた僕の気持ちを返してほしい。

「ミヅキさん、なんか僕も少し殺意湧いてきました」

「その気持ち大事にして」

たぶん大事にしないでいいものだと思います。今は胸に抱いていますけど。


詳しいクランの位置は知らないため、ちょうど森へ向かうあのクラン員を尾行しようとのこと。

そういえばなぜ所属クランがわかったのかと聞くとPKを何回かすると相手の名前やステータスが見破れる≪看破≫系統のスキルなどが解放されるかららしい。育てれば隠密してる相手も見つけられるらしい。それはちょっといいなぁ。PK以外でも解放できるだろうか。

名前などの看破は発動条件が相手の顔を見ることらしいので顔を伏せたらしい。ミヅキさんは結構有名らしいので。

相手のことを気づかれないように後ろから尾行していく。ミヅキさんは≪隠密≫スキルなるものを持っているらしく気づかれない自信があるそうだが僕は持っていないので普通にレベル上げに来たプレイヤーを装っていく。

「コマイヌは対人向きだと思う」

何故かここら辺にも現れる、ただ始まりの平原辺りよりは少し強い気がするスライムを切り刻むとミヅキさんに話しかけられる。

「AGI振りだからだいたい先制取れるし、不意打ちもうまい、両手両足の装備で読み合いも読み合い拒否もできる」

ミヅキさん曰く、現状正面からの対人とは相手が知らないスキルの初見殺しか、それを耐え切ったうえでの読み合い戦らしい。

僕の初見殺し要素は≪二刀流≫によるスキルチェイン連打の不規則な動きをAGI振りにより死角から打ち込むこと。読み合い戦の強みは徒手空拳のような動作から剣を出せることと、反射的に防御できる強み。

そこら辺を加味すると多少レベルが上昇した程度のPKプレイヤーなら狩れると思い今回僕を連れてきたらしい。

おお、素直に褒められると嬉しいな。視点がPK目線だけどある意味対人の上級者だし。
ついでに≪隠密≫≪看破≫≪暗殺≫あたりのスキルもおすすめされた。特に≪隠密≫スキルは死角外から攻撃するとボーナスが発生する者も多く、森林戦などでは対人だけではなく、対モンスターでも僕に向いてるらしい。おお、いいなぁ。まだちょっとスキルポイント余ってるし取っちゃおうかな。

しかしスキルを溜めて≪兎≫のスキルも取りたい……悩みどころだ。

【コマイヌ】
 称号 【森精霊の守り人】
 BLV:11
 CLV:11

 H P《Hit Point》 : 500
 M P《Magic Point》 : 100
 STR《Strength》 : 10 +2
 VIT《Vitality》 : 10
 DEX《Dexterity》: 10
 AGI《Agility》 : 10 +68
 INT《Intelligence》: 10

 スキル

【剣術:TLV6】
 |---片手剣:LV1 ―  スラッシュ
 |---片手剣:LV2 ―  基本動作
 |---片手剣:LV3 ―  バッシュ
 |---短剣:LV1  ―  ラッシュ
 |---短剣:LV2  ― ピアス
 |---短剣:LV3  ― 飛燕

【軽装戦士:TLV1】
 |---歩方:LV1  ― ステップ

【二刀流:TLV1】
 |---二刀流:LV1  ― 二刀流

【隠密:TLV1】
 |---隠密:LV1  ― 隠密行動

【Passive Skill : ≪隠密≫】
隠密行動にボーナス。相手の死角外から攻撃した時クリティカル確率が少し上昇する。

とりあえずレベル1程度ならいいかなとお試しだ。隠密行動は相手の視界から隠れる行為が入るので、ミヅキさんの動きを参考に動くと確かにモンスターからも発見されづらくなった気がする。

プレイヤー相手も面白いことにVRMMO特有の機能か、意識が向きにくくなったりするらしい。さすがに一点を注視されたり近寄られたりすると気づかれるが遠巻きに見られても発見される確率が下がるらしい。

確かにこう見ると対人も面白そうだな。PKとかじゃなく健全に対人するコンテンツはあるのだろうか。

そしてミヅキさんは自然に、僕はそれを参考に少し不格好に二人で隠密しながら歩いていると山の麓にたどり着いた。

さて、普通顔の普通PKには気づかれてなさそうだけど。尾行をしていると洞窟……いや割としっかり門とかついてるし。本当にプレハブ寄りじゃん!
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