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二十一話

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 クランハウスでぶつぶつ呟くリーシャさんを捨て置いて第二の街に出てきた。ミヅキさんはフードを目深に被り、僕の後に続くように出てきた。

「すいませんわざわざ付いてきて貰っちゃって」

「リーシャの200倍はマシだから安心して」

 それはどれくらいマシなのだろうか。0とかマイナスではないことはわかるけど。
 ここから先は案内してくれるみたいなので僕がついて行く形になる。よく考えたらこのゲームで誰かと二人きりで歩くのは初めてではないだろうか。
 ……なんだかそう考えると緊張してきたな。現実でやったことないのでどうすればいいかもわからないし。まぁ街中こんな元気に歩くことすらないんですけど。

 それよりも少し歩き始めてから会話が一切ない。どうしよう、ミヅキさんが無口なタイプなのはわかっていたけれども僕も口下手なタイプだし。心の中ではおちゃらけても実際の会話になんて出せない男だぞ。
 何か、何か話題を振らないと。天気の話題でも振るか?ゲーム内でそんな話題出してどうするんだ。

「ねぇ」

「はいなんでしょう!!」

 あちらから話しかけてくるなんて想定外だ。心臓に悪いのでやめてほしい。気を抜いたら僕の体はスーパーボールみたいに壁に激突することを理解して隣を歩いて貰わないと困る。心の中とは言えついてきてくれてる人に失礼だな。反省しよう。
 で、なんだっけ。

「あの色んな所でスキル出す奴。あれどうやるの?」

「ああ、この装備が特殊なのもあるんですけど。感覚ですけど刃を展開したところを軸にしてスキル出そうと振りかぶる感じです」

 結構なんとなくでやっているからリーシャさんにどうやってと言われた時も答えづらかったんだよな。そもそも右腕でスキル発動できるんだから左腕でもできるはずだし、左腕でできるなら他の部位でもできるだろう。

 しかしミヅキさんはまだ納得いっていないのか、フードの下の顔を変えながら首をこてんと曲げた。小柄な姿も相まって小動物みたいな可愛さがあるな。

「スキルっていうのは、一定の動作をやるとシステムが補正してくれる。それに特殊効果とか、威力が上乗せされる」

「そういわれるとそんな感じですね」

 無口な人なのに説明がうまい人だな。僕が下手すぎるだけだろうか。いやそんなはずはない。
 返答するとミヅキさんは納得いっていないのか少し顔をしかめる。

「いやおかしい。あなたのはほとんど一定の動作してない」

 いやいやいや。してるよ。振りかぶってるし。

 とかではないんだろうな。他の人はもう少し規則的な動作をしているのだろう。ミヅキさんの針のスキルとか、悪魔のスキルは隙が大きいなと思っていたけど。
 最初にスキルを使ってきたのがウサギたちだったから疑問にも思ってなかった。あれ、もしかして僕の戦い方ってモンスター寄り?

 ミヅキさんは疑問が解消されたのか、こいつに聞いても意味わかんねぇやとなったのかまた無言になり先を歩き始める。そういえば家具とか売っている店ってどこにあるのだろうか。この街結構広いとはいえクランハウスがある場所からそこそこ歩いている。

 そう思っていると不意に角を曲がり、暗い路地に入っていく。あれ、この感じ前も見たことある。そう思うと路地の先には肉を売っている巨漢がいた。

「……?何してるの?」

「いえ、少し悪戯を」

 相手側からフレンドを削除されていないということはこれもスキンシップのうちだろう。肉を焼いている男性を後ろから炉の中に突き飛ばし全速力で離れると野太い悲鳴が聞こえてくる。ノルマ達成。

 ところでなぜ路地裏に。

「ついた」

「あの、ここは……」

 路地裏からお店の入り口があり、中へ入るとこう、第一の街にあったギルドっぽいクランとは似ているがどこか違う。割れた丸机になぜか倒された椅子、壁に突き刺さった剣。床に散らばるお酒の臭いがするコップ、なんか荒れ狂ったギルドみたいなところはいったい。

「闇ギルドのショップ。盗品とかPKで奪ったのもここで売ってる」

「まず最初に真っ黒なところを僕に紹介しないでくれますか」

 忘れていた。ミヅキさんはクランでも非常識なタイプの、PK側の人間だった。うちのクラン非常識じゃないメンバーのほうが希少みたいだけれども。

「ミヅキの嬢ちゃん、久しぶりじゃねぇか。今日は彼氏連れかい?」

「この胡散臭いRPしているのがここのクランマスター」

 如何にも怪しいことしてますよみたいな風貌の人が話しかけてくる。両手を揉みながら腰を曲げこちらに忍び寄ってくる姿はある意味全力でこの世界を生きていた。

「口下手な嬢ちゃんに代わっておいらが説明しやすかね。ここは嬢ちゃんも言ってたみたいに表じゃ捌けないもんを売り買いするところでさぁ……兄ちゃんは殺しの経験はおありで?」

 いやないない。普通にプレイする分にPKをしているプレイヤーは少数派なのだと自覚してほしい。

「だと知らねぇと思いやすが、PKってのはやれりゃあ相手のアイテムを、やられりゃあ自分のアイテムが落ちるって簡単な仕組みで成り立ってやして」

 そういえばハナミさんからそんなこと聞いたな。倒されただけで結構なペナルティが課されるとか。割に合わないとか言っていたっけ。

「んで、奪ったアイテムってのは特殊状態に盗品ってのが付くんすよ、効果としてはNPCが買ってくれなくなって、持ってるだけでNPCからの好感度が下がって最悪守衛にしょっ引かれるってもんでさぁ」

「盗品システムβの途中で実装されて困った」

「まぁペナルティがなさすぎるのもどうかと思いやすから、あっしはいいと思いやすけど……まぁこのアイテムも抜け穴がありやして。一回トレードをしてもまだ盗品なんすけど、もう一回トレードすると盗品じゃなくなるんすよ」

 なんか、事故物件みたいな話だなぁ。一回誰かが住んで解約したら特殊物件って書かなくていいみたいな。ん?でもそれなら……

「それなら、身内同士で回せばいい」

「そう思ったんすけど、同じ相手とだけトレードし続けてるとお互いに隠しステータス的なのが下がるらしくて、結局NPC好感度が下がっちゃいやしてね」

 それはさすがに対策されてるか。僕くらいで思いつくことを開発さんが想定してないこともないか。どこら辺まで父さんが関わっているかは知らないけれど、炉に飛び込んで抜けれなくなるバグはわりとすぐ修正されたらしい。

「まぁPK専門で規模のでっけぇクランなんてのはそうやって回してたりするらしいんすが、まぁあっしらはクランに入ってたりしねぇ人から集めてるわけでやすね」

 なるほどなぁ、PK界隈もよく考えられているな。こういう世界に関わりを持つなんて思ってもみなかったので新鮮だ。

「で、兄ちゃんはどんな盗品を」

 僕PKじゃないです。かくかくしかじか。
 とは行かないけれど端的に家具が欲しいと言ったらミヅキさんがここに連れてきたことと、僕自身まだPKなんてしていないまっさらなプレイヤーなのでその隠しステータスだのが下がったら困ることを伝えた。

「ミヅキの嬢ちゃんの連れだから兄ちゃんもそっち側かと思ってやしたよ」

「ハナミもここに来る」

「うちのクランのグレー側らしいお二人を参考にされましても」

「なるほど、なら別に盗品でもねぇ新品をお出しするしかないでやすね……申し訳ねぇけど」

 いやそれでいいんですよ?まるで僕が盗品を欲しがっているみたいな言い方はよしてもらいたい。

 その後マスターはメニューバーを開くと、盗品ではなくプレイヤー製造の品などを普通に買った物で売っている物の一覧を見せてくれた。
 その中には求めていた収納ボックスや用途が一切わからない謎の器具など様々なものが並べられており、盗品を抜きにしても品ぞろえがいいお店だった。

「そういえばミヅキの嬢ちゃんには頼みてぇことがありやして」

「ボタン経由で」

「それをしてぇんでやすがまた黒い話でして、ボタンの嬢ちゃんに言ったら止められることがわかってやすから」

「しょうがない、何?」

 マスターはそれじゃぁ……と話を切り出した。僕は家具買ったら聞かないで帰ったほうがいいだろうか。あ、聞かれても大丈夫な奴ですか。なら聞いてるんですけど。

「黒だろうがグレーだろうが一定のルールってのはあるんでやすが、最近ちょっとおイタが過ぎるのができやして」

「よくあること。私がやらなくても誰かやるでしょ」

「今【黒目組】の奴らも【赤指組】のやつらも出払ってやして……」

「面倒くさい……」

「報酬は出すんでたのんまさぁ!」

 そういうとマスターは土下座でもするのかという勢いで頭を下げた。ここまで言っているし、受けてあげたらどうですかミヅキさん……なんて言えない。口下手な上に後輩なので。

 ミヅキさんは頭を深く下げたマスターをしばらく見たあと、何故かこちらを見て少し頷いた。あの、なぜ今こちらを。

「わかった、新人連れて行ってきてあげる」

「おお!ありがとうごぜぇやす!兄ちゃんも!」

「え、僕も受けるなんて」

「命令」

 はい。
 咄嗟の命令に逆らう言葉も出てこなかった。口下手でなければ。
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