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二十話

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お姉さんもといお母さんは笑顔で双子を抱きしめている。えーっと、年齢は僕より少し上くらいの……ずいぶん若いお母さんだな。何歳のときに生んだお子さんだろうか。

「貴様、いくら客人と言えど女王陛下の御前ぞ」

予想はついていたけど女王陛下かー、高貴な血とは言っていたけど一番上であるとは思わないよね。

「いいのです、彼は私の恩人なのですから」

「しかし……いえ、出過ぎた真似をしました」

必要であるなら全然膝とかつきますけどね。とりあえず今の一連の知らせで背筋は伸びた。王族とあったことなんてないからどうすればいいかなんてわからないけれど。

「まだお礼がまだでしたね。私の名は……『アル』でいいわ。今回は息子たち助けてくれて、ありがとうございました」

「妹と弟と仰ったのは……」

「あの時すぐ近くに私にも追手が来ていたので、ねっ?」

と言いながら門の横に立つエルフさんたちを睨みつける。あー、警備態勢がどうとかなんとか。そもそも双子が攫われたあげくに女王様が裏路地を歩ける警備とは。いや、深入りはよそう。なにか黒いオーラを感じ取ったし。

「褒美を取らせてあげたいのだけど今回のことは内密でね……どうしようかしら」

「いや褒美とかそういうのはもう全然」

「枝とかかなー」「葉っぱのほうがいいのー」

双子たちがソファで跳ね回りながらアル様に何かいうと、それはいい考えねと微笑み、側使えを呼んだ。

「しかし旅人に世界樹の物を渡すとは」

「あら、旅人さんなんだからいいじゃない。どうせ年に何本か取れるのが埃を被っているのだから。これを期に報酬にでも使ってみたら?」

アル様が圧をかけるとエルフさんは肩を落としながらとぼとぼと門から出ていった。何かを取りに行ったらしいけど、枝と葉とは。

戻ってきたエルフさんは大事そうに大きめの箱を抱え、それを丁重に机の上に置いた。アル様が箱の蓋を開けると、中から濃厚と言えるほどの草木の匂いが立ち込める。嫌な匂いではなく、むしろ木々の生命力に満ちた匂いだった。
観察しているといつも通りアイテムとしての情報が表示される。

【世界樹の枝】
剪定された世界樹の枝。可能性の力に満ち溢れている。

【世界樹の葉】
剪定された世界樹の葉。生命力に満ち溢れている。

「アル様……あの、こちらは」

「あら、気にしないでいいのよ。我が家のお手入れで落ちた、ただの枝葉だから」

いや、明らかに今のレベルにはオーバーなパワーを感じますね。世界樹の○○ってこんな序盤で手に入るものではないと思われますが。

「本当に気にしないでいいのよ、結構余ってるし……それ一本と葉数枚じゃあまり加工もしづらいでしょう?私はもっと上げたいのだけれど……」

とアル様が振り返ると側使えの人や護衛の人がブンブンと首を横に振っている。いやわかってます、これたぶん、いやすごい結構貴重な物ですよね。

とアル様が振り返ると側使えの人や護衛の人がブンブンと首を横に振っている。いやわかってます、これたぶん、いやすごい結構貴重な物ですよね。

「もし何か加工したいくらいに欲しいのなら……また何か頼むかもしれないわね」

ニコリと微笑み、箱をこちら側へ押してきた。受け取ったら何かを受領したことになりそう。

……まぁ、いいか。深く考えずに箱を受けとると、自動でインベントリの中に入っていった。そしてインベントリに収納されると同時に。

『称号:【森精霊の守人』を手に入れました』

謎の称号とやらをシステムメッセージで知らされる。エルフたちには何かが見えているらしく、アル様も双子もうんうんと頷いている。

「それさえあれば門番に話しかければ私か、側近までは知らせが届くから……よろしくね?」

「ちなみにこの枝って僕以外が手に入る可能性ってあるんですか」

「私が自由に渡せるってだけで、案外流通してたりするわよ、数は少ないと思うけどね。渡すとしたら……あなたみたいに何かしてくれた人への報酬とかかしら」

つまりゲームが進めば手に入るし、今回みたいな依頼があれば手に入ると。よかった、ユニーク由来で僕しか手に入らない素材とかじゃなくて。

ただレアアイテムを持っているという緊張感があるので巨木……世界樹から出るとそそくさとクランハウスまで戻る。共有ボックスとか言っていたし保存できる設備はあるだろう。何なら上げてもいいのでそこに入れよう。持っているのが怖い。落としたりしそうで。



クランハウスまで小走りで戻ってくることに成功した。街中だと気が抜けるのか何回か壁に激突したがそれ以外特に問題もない。AGIを振った直後は気を抜くと足が滑る。
中に入り、リビングまで行ってみるも誰もいない……困ったな。またクランチャットで保存できる設備がないが聞いてみるか、と思うと階段から降りてくる音が聞こえてくる。そういえば二階があるんだった。そっちに誰かいたのかな。

リビングのドアを開けて入ってきたのは長身の女性だった。ハナミさんやボタンさんよりも高い、170cm以上はあるだろうか。スタイルのいい女性だった。

「あ、どうも。初めまして」

「君が最近入ったコマイヌとかいうのか。私はリーシャ。別によろしくしないでもいいから、迷惑だけはかけないで」

冷たい雰囲気のある人だった。第一印象が悪かっただろうか。まだ挨拶をしてみただけだけど何か悪評でも広まってる?

「送られた戦闘データは私も見たが……姉さんが作った変な装備を使いこなしてる時点で君もおかしいのだろうね」

疑問点がいっぱいだ。姉さん?ボタンさんかハナミさんのご親族だろうか。名前的にリーシュ君の知り合いかと思ったけれど。

「そういえば戦闘データ新しいの撮ったけどまたクランチャットでいいかな……」

「私でいいだろう。私も生産職だ。あとで姉さんたちにも渡しておく」

そういうと半ばひったくるように、圧をかけられ悪魔戦までの戦闘データを渡す。自分が戦っている姿って恥ずかしいからあまり見られたくないのだけれど。

「ふん、やっぱり変人側か……」

失礼な。

「君自身は何がおかしいのかわかっていないだろうから、私から解説してやろう。まずはこの部分」

映像を固定し、見せたいシーンで固定する。どこのことだろう。ああ、脇腹から刃のシーン。

「君は現実で特殊なトレーニングなどは?ボディビル経験などでもいい」

「いや、むしろ貧弱な部類です」

不調の日は外に出ただけで死にかけるくらいに貧弱です。

「ならばおかしいだろうな……君は脇腹の筋肉、腹斜筋辺りを動かせる人類か?」

脇腹って筋肉あるのだろうか。そこすら知らないけれど現実の僕はそんな奇特な人間ではないことはわかる。ああ、ボディビル経験ってそういう。

「わからないのならもう一度言うが……脇腹から剣を出す感覚ってなんだ」

それはこう、頭の中で……そういえばどうやって剣を出しているのだろうか。装備のギミックすら理解してないのでわからないけれど、出せるものは出せる。

「そもそもその装備の仕組みは、復讐MOBの角が持つ電流を利用している。防具内部をコイルのようにし角が素材として持つ電流をそこへ流し、磁力を発生させ剣のパーツを通らせる。そして逆向きの磁力を発生させることにより目的地で停止、刃が展開されるという仕組みらしいのだが」

長いしよくわからない。まぁなんかわからないけれど、リーシュ君すごいということでいいのかな。

「細かい仕組みは置いておこう。電気信号を読み取り、そこまで力を通すというのがこのゲームの基本だ。しかし脇腹や手先、脛に等、普段から力を加えて等いないだろう。現実の体に引っ張られるはずなのだよ。その点君は現実の体と乖離した動きをゲーム……脳が許容している。理解できないな」

「あー、現実で動かなすぎるんでゲームの体って思ってるからですかね……」

走っている時点で現実の体とはだいぶ違う体と脳まで思ってしまっているのかな、ゲームなら脇腹動かせそうだし。

「脳の誤認……いや電気信号のトレーニング、現代医学……理解できない」

「リーシャ、うるさい」

いつの間にかリビング内に侵入していたミヅキさんがリーシャさんを蹴る。リーシャさんはなおも考え続けているようでぶつぶつと何かを呟き続けている。

「ミヅキさん、あの、こちらの方の詳細を」

「リーシャ、リーシュの弟。ネカマ。逆にリーシュはネナベ」

ということは、この長身の女性が、現実世界ではリーシュ君の弟さんで、逆にあの男の子、リーシュ君は現実ではお姉さんで、女性……?
混乱してきた。とにかく切り替えよう。

「そういえば、なんか偶然レア目なアイテム手に入れちゃったんですけど保存とかできないんですか?」

「PKされる?」

「いや略奪されてミヅキさんの懐に収めるということではなく」

欲しいのならあげるがなぜ一回PKされる工程を挟むんだ。デスペナルティとアイテム略奪が僕に付与されるだけなのだけれど。

「そういえばボタンがあなたの部屋も作るとか言ってた」

それが本当ならうれしいな。この綺麗な木造建築に一部屋貰えるだけでなんだか自立した気分だ。実際は人の家に居候しているような身分だけど。

「内装とかも街中で買える……ついてきて」

「え、ついてきてくれるんですか」

そういうとミヅキさんは振り返りもせずにドアへ向かっていく。

「リーシャは苦手だから一緒にいたくない」

後で聞いたけどあの長身の女性アバターは彼の好みらしく、低身長のミヅキさんは、特に何か言われるわけではないけれど、初対面の時に上から見下ろされ、鼻で笑われてから嫌いになったらしい。

それはまぁ、うん。せやろな。
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