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十六話

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遺跡の中に入ると数人は通れそうなほどの道が広がっていた。今更だけどもしかしてこれ、数人で挑むクエストだったりしたのかな。

詰まりそうで時間に余裕があったらミヅキさんに助けを呼んでみよう。たぶん賊とやらを全力で血祭りにあげてくれそう。

そんなことを思いながら暗い道を歩いていく。壁に蔦が張っていたり蜘蛛や虫が飛んでいるのを見るにあまり手入れされていない、最近は利用されていない……という設定なのかな。

というか遺跡って何のために立ててるんだ。ゲームの世界観読みこんでないからまったくわからないけれどこれ必要な施設なのか。モンスターが湧くなら魔法とかで爆破したほうがよさそう。

そういえば魔法も楽しそうだよなぁ。ファンタジー世界なのに僕がやってるのって剣で強く切りつけることしかしてない。装備だけがどんどんファンタジーになっていって自分がファンタジーに適合できてない気がする。

でもスキルとかは魔法みたいなものか。なんか飛んだり浮いたりできるし。

考え事をしながら歩いていると壁にぶつかる。街中ではないのでダメージ判定が出るけど、まぁ壁になんて激突しなれているので驚きもしないね。壁とは友達だ。

あたりを見回すと道が二手に分かれているみたいだ。マップ機能は遺跡内では使えないみたいなのでこれは自分で道を覚えながらゴールを目指せという……とでも思ったか。このゲームの無駄にリアルなところを利用すればこの程度造作もないさ。

そう地面をよく見れば足跡や土、埃の積もり方まで特徴が様々だ。
仮に僕のちょっと前にプレイヤーがここを通っていた場合は微妙にわからなくなるけど、少なくとも賊とエルフの子供二人分が今の一番新しい先客だろうから。

そして集団で歩いていると思われる足跡は……こっち!右だ!
つまり右側へ行くのが正解なのだが。

……左側も気になる。RPGプレイヤー特有の性というか。外れの道が正解というか、なにかあるのではないかと気になってしまうのはなぜなのだろうか。

まぁいいか。エルフの子供を助けた後で左側へ行こう。奥へ歩を進めるたびに空気が重くなっていく気がする。そういえばモンスターとか罠がってエルフさんが言っていたっけ。

と思い出した瞬間に足元の出っ張りを踏みつけるような感触と、カチッとスイッチが作動したような音が鳴る。
あ、罠踏んだ。そう思った時には道の先から矢が三本飛んできていた。
しかし今の僕の最高速度基準は電気ウサギなので特に問題なく切り払う。ちなみに次点でハナミさんが撃ってきた銃。

なんならあの時より装備が動かしやすくなっているので切り払いが簡単になっている。今の矢があと10本くらい連続で飛んできても切り落とせそう。

面白くなって道を少し走って進む。スイッチを押すたびに前後左右から矢が飛んでくるが左右の矢は弾くまでもなく躱し、前後の矢は手で足で肘で膝でと思い思いに切り払っていく。

うおー!僕にもファンタジーしてる部分あった!AGIはやっぱり正義だ!
調子に乗って走っていると目の前に唐突に出現した大柄な影にぶつかる。ドスンという音を聞くにどっかのスイッチを押した際に上から降ってきたみたいだ。

【マウントゴリラ】
うわゴリラだ。

ゴリラはこちらを見据えると大きく口を開き、咆哮を上げながら胸を叩き始めた。牙の鋭さやその胸を叩く音から強さが伺える。
わー、ドラミングしてるゴリラ初めて見るなー。感動だ。やっぱり手はパーで叩いているんだな。

威嚇を続けているゴリラに近づき、そっと足の腱を切りつける。さて、これがどうなるか、と観察しているとゴリラはドラミングをやめるも二本足で立ち続けている。うーん、足としての判定はあるけど腱とかの判定はないのかな。
もしかしてゴリラってそういう筋肉ない?だとしたら足判定なのは納得だけど……まあ、いいか。

チョロチョロと動く僕に対しパーのままの手を叩きつけ潰そうとしてくる腕を逆に切りつける。一瞬重みで押し返されそうになるけれど、先に相手の手が悲鳴を上げたのか逆の手で横から叩いてくる。

防御行動をとらずに喰らい……相手の手が裂ける。ゴリラは悲鳴をあげながら後退した。
意味がわからないだろうな!僕も意味がわからない!なぜか腰から脇腹の部分は刃の展開範囲内だ!やろうと思えば腰で≪スラッシュ≫もできるぞ!

混乱しているゴリラの頭を踏みつけ、踏みつける際に踵の部分から刃を展開、頭部に全力で≪ピアス≫スキルが乗ったかかと落としを当てる。

実際の生物だったら即死だろうけどゲーム内だとHPを大きく削るだけに留まる。いや大きく削れてるかもわからないけれど。たぶん削れてるはず。怯んだし。
着地したのちに硬直を消費。お互いに怯み時間と硬直時間が終わり対面する時間、正面からの殴り合いでも勝てそうだけど特にリスクを負う必要もないので、背後に回り込んで切り刻む。

霊長類モチーフといえどしょせんゴリラ、単調な攻撃しかできないのか僕を捉えられずにいる。
そういえば対人型のモンスターは初めてだったな。いい経験になった。

最後に首へ剣を滑らせると崩れ去った。第二の街から離れた遺跡の中にいるモンスターにもまだまだ通じそうだ。



その後も道を進んでいくと様々なモンスターが現れた。ゴリラ、蜘蛛、コウモリ、スライム……まぁ洞窟っぽいラインナップだろうか。スライムはどこにでもいるけど。いやここまでで初見のモンスターはコウモリだったか。

意外と強敵だった。なんといってもコウモリは飛んで、天井に貼り付けるのだ。ついでに牙による吸血を狙ってくるし、牙は細い部分を貫こうとするので必然的に防具のない首筋を狙ってくるため質が悪かった。

しかも集団で襲ってくるタイプでもあったので振り払うのもめんどくさい。範囲攻撃があれば楽できそうだし、これは相性差なのだろうな。やっぱり魔法スキルとか使ってみたい。

そんなモンスターたちを蹴散らし、矢しか飛んでこない罠を踏み抜きおそらく最深部までたどり着くことができた。単純な強さで言うとゴリラが一番強かったのかな?結構タフだったし。

なぜ最深部とわかったかというと、明らかに大きい門がある。それはもう、今まで石造りだった建造物に場違いなほどに大きな鉄の門があるのだ。

とりあえずそっと扉を、隙間を作るように開け中を覗き見る。門の中には物もほとんどない広い部屋が一室。引っ越ししたてのリビングかな。

まぁ明らかに黒ずくめの集団に一人だけ豪華な服装をしたエルフ、そして見るからに幼いエルフの子供が部屋の中央にいた。よく部屋の床を見て見ると六芒星を基調とする魔法陣が書かれていた。

すごい、ここまで儀式しますって感じ満々の場面に遭遇できるのもVRならではだろうな。いや実は海外の悪魔信仰とかで今でもあるのだろうか。

僕では知りようもないことを考えていると豪華な服装をしたエルフが呪文を唱え始める。おおー、魔法の詠唱だ!テンション上がるなぁ。

魔法陣に暗い光が灯ると部屋の隅に置かれた松明の火が怪しく揺れた。
地下で松明燃やすと危ないですよ。
そんなことを注意するまでもなく松明の火が消え、代わりに紫色をした炎のようなものが一つずつ灯っていく。

部屋の隅の松明が順に付くと次に六芒星の角に置かれたロウソクに紫色の炎が灯る。そして六個のロウソクに炎が灯ると魔法陣が一際大きく輝きを放つ。

あ、やばい。助けに入るの忘れていた。

「古代に眠りし悪魔の貴族よ!清らかなる血を対価に現れよ!」

豪華な服装をしたエルフが大きな声で叫ぶと魔法陣の中央にヤギの角、獅子の顔に猿のような立ち姿をした……悪魔だな。思ったより悪魔っぽい悪魔が現れる。

とりあえずミッション達成のために魔法陣上に置かれたエルフの子供を全速力で拾いに行く。ドアを開け、賊たちの隙間をかいくぐるルートを発見し、その道を辿るように走り抜いた。悪魔に注目している賊たちは僕の行動を止めれなく、子供は簡単に救出できる。

さて、ここで何事もなかったかのように扉から出ることができればクエストクリアだけど……

豪華な服装をしたエルフ……豪エルは子供たちが抱きかかえられていることに気付き僕のことを指差し周りの賊たちに叫ぶ。

「き、貴様ら!そこの賊を捕らえろ!」

賊はあなたたちでは。
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