人口コントロール

旅里 茂

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夏木が一つの仮説を立てた。
「俺たちが戦ってきたのは、野党でもなければ中国共産残党でもない。チャイナ評議会こそ本当の敵じゃないのか?」
そんな馬鹿な。チャイナ評議会は我々と共に戦い、同士を失った。それが全て計算された戦略というのか。
倉城はチャイナ評議会のネットワークに接続を試みた。
3分程経過した際、パスワードを請求してきた。「なんでパスワードが…」
其の途端、電子メモからリードしていた倉城の目視に、エラー音と共にウィルス警報が脳内を駆け巡った。
ワクチンが反応する。慌てて接続を切る。
「大尉?ウィルスか?」
「ええ、大佐、パスワードを求められた後、ワクチンがウィルスを検出しました」
どうやら、此方の判断にチャイナ評議会が感付いたらしい。
これで夏木の仮説が現実の物となった。
代表者の陳が、実はジェンダープログラムを民主主義の名の下に、中華圏理想郷を提唱している事がのちに判った。
共産主義とは違う、民主的なアジア包括論だ。
其れには、新韓民国を属国とし、また日本も巻き込む構想を立てている。
火種と成りうる、危険な思想だった。
新韓民国の大統領、黄判然は現中国の属国宣言に否定的で、対等な立場を強調しているが、既に中国の軍が内情に入り込み、政府主導権を握ろうとしている。
今になって現状が見えつつあった。
迂闊だったのかも知れない。無闇に信用してしまった反省がある。
しかし今は、そんな状況ではない。
本当の敵はチャイナ評議会である、共産残党はあくまで只の傀儡に過ぎなかった。
寧ろ此方の戦力と連携を把握する為の、デモンストレーションだった訳だ。
怒りに壁を殴る夏木。「何人の部下を失ったと思うんだ!」
倉城にしても同様の怒りがある。妻が意識不明の重体で担ぎ込まれた。沢渡を信用していた筈の裏切り。それが、こんな形で本当の敵を知るのは夢にも思わなかった。
軍に入隊した頃、教官に絶えず自分だけを信じろと言われ続けた。
しかし、作戦行動を共にし絶えず危険を伴う任務においては、同僚や友軍は絶好の友人であった。

中華民主国の大統領、劉景水がチャイナ評議会の陳の報告を受けていた。
「関高電子産業株式会社での作戦では日本海軍の部隊を借り入れ、思わぬ戦果を挙げることが出来ました」
「なるほど、日本のお人よしも此処まで来ると有り難い」
陳は話を続けた。「ジェンダープログラムと受胎アンドロイドの設計図が手に入りました。此れを解析し、中華思想を含めた人間の製造を行うことが可能です」
「機は熟したようだな。もし、日本側が此れに気づく事が無ければ良いが…」
陳は固い笑顔を作り、「あんな国に其処までの器量はありません」
其の頃、倉城と夏木は空母「リファイン・ドル」内に居た。
幸江も空母の医務室にて治療が行われている。此処ほど安全な場所はないだろう。
作戦第2会議室にて、第二特殊海軍編成隊とミーティングを行っていた。
夏木は現在の状況から、中華民主国へのサイバー攻撃とジェンダープログラム、そして受胎アンドロイドの破壊を目的とした作戦を進行中だった。
関高電子産業株式会社へ公安の家宅捜査が入ったが、持ち去られたアンドロイドは、全部で10体、但し初期の起動にはスターターが必要となる。
チャイナ評議会がどの程度、処理出来るかで状況は変わってくる。
危険は承知だが、現内閣が瓦解するのは時間の問題だ。
自由民栄党の上垣幹事長に夏木がコンタクトを取る。海軍上層部からの許可が下りており、迅速な対応が求められた。
「夏木大佐、其れは事実かね?」憔悴した顔で真実を飲み込むには酷な内容だ。
「はい、現在、ネットワークリンクより中国の内情を探り、チャイナ評議会のトップ、陳宗栄なる人物の洗い出しを行っている最中です」
上垣は少し沈んだ表情で其の答えに、空を切るように発言した。
「中華民主国の内情をネットワークリンクで精査すれば、一溜まり無く発見され、日本のサイバー攻撃と非難されかねんぞ」
倉城は今更だな、と思った。そもそもが現与党に失態による攻防だ。第一野党としての覚悟もない発言に、失望感すら出た。
逃げている場合ではないのだ。現状は厳しく、また猶予のない事態だ。其れがこの国に立っている人物たちの情けない肖像。
苛立ちが先行した。倉城はリンク内に入り上垣に直談判した。「幹事長!事態は一刻を争います。もし、データが解析され、中華思想に塗れた子供が作られれば、十数年後には確かな脅威になる。
「幹事長、今は面子に拘る状況では有りません。直ぐにでも対応をしなければ」
「…判った。君の言うとおりにしよう。で、で何が必要かね?」
夏木は「サイバーネットの秘匿コードの一時的な開放です」
上垣は其れを聞いて驚愕した。「そんな事をしたら、日本の情報ネットワークが丸見えになるぞ」
「一時的です。進入や流失の丁は何としてでも食い止めます。直ぐにでも手配をお願い致します」
暫く沈黙が続いた。決断をするにも与党が必ず妨害工作をする筈だ。それ以上に、議員としての資質も問われる訳なので、前進する答えを出すには其れ相当の覚悟が必要だ。
「判った。我が党を持って考えよう」
「それでは幹事長、電子メモでのリンクをお願い致します。状況の折に自動で送信して下さるようお願い申し上げます」
「判った、君の言うとおりにしよう」
倉城は一部始終を見ていたが、実直に頼りないと感じた。
与党から滑り落ち、内紛も起こった上で成り上がりした幹事長だ。取って引っ付けたようなポジションだが、何処まで求心力があるか。
夏木が倉城に食事を取っていないことに気付き、食堂で腹を満たす事にした。
あまり食欲が無かったが、今は体力を付けておくべきだろう。
空母「リファイン・ドル」は2030年に就航した「優雅級」の最新型だ。
新舞鶴基地を母港として、主に旧中華人民共和国と北朝鮮の脅威に発ちうける為に、2019年に嘗ての自由民栄党の総理大臣が防衛省と共に、原子炉ではなく、世界初の熱核融合炉を搭載したのが始めだった。
戦闘機も国産開発で、最新装備を施された「FJ-3」50機が搭載されている。
ステルス性を持ちながら、これも世界初のレーザー砲を装備して、ミサイルの搭載問題を見事にクリアしている。
現内閣は、其の技術を中華民主国にリークしようとした経緯があった。
其れを食い止めたのが、林田防衛海軍幕僚長と矢吹大将である。
勿論、内情に潜んでいるシンパが、上手く作用したことが功を奏した。
しかし、民生党の独壇場となった今、正に危機が訪れている。
此れにより、日本政府をも敵に廻す事になるが、現政権が倒れるのが望みでもある。
倉城はまず、中華民主国の中枢である、国際ネットワークセンターに擬似アクセスコードでダイレクトアップし、其の隙にパスワードキラーを注入する。
何処までセキュリティが堅牢であろうと、アメリカ合衆国が特務情報と引き換えに欲しがった品物だ。突破は出来ると確信している。
問題は寧ろ、現内閣を如何に煙に巻くかだ。
内閣JCIA調査室も活発に動き出していた。総理大臣権限で防衛陸軍と防衛空軍に何時でも出撃命令を出せるようにしている。ターゲットは防衛海軍。
危険を波らんだ状況が、この国の行方も示唆している。
倉城が静かに、しかし確かに夏木に答えた。「アクセスコード完了です!」
「よくやったな、大尉。しかしこれからだ」
不正アクセスが発覚すれば、事態は更に悪化する。
慎重にチャイナ評議会の情報を探し出す。しかし入り組んだネットワークに、其々トラップらしきものが仕組んであり、当たればすぐさま捕らわれてしまう。
時間は一刻と過ぎていく。
その頃、防衛陸軍特殊部隊「アーエックス」が新舞鶴に潜入したとの警報が届いた。
未確認では有るが、既に相手は行動を開始したみたいだった。
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