黄昏の国家

旅里 茂

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暗殺

黄昏の国家42

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「美味しい料理は、待っておくと必ず出てくるというものですかな」
川崎は大いにオーイックスの財類によしとした。
処が市川は少し考えてから、一言進言した。
「副総理、身辺の警護を増やした方が宜しいのでは」
その言葉を聞いて川崎は急に怪訝な顔になった。
「・・・どういう意味かね、市川くん」
高沢が非情に出る可能性があるかと唱えたのだ。
「あはははは。そんな事が出来る訳が無い」
「私は日本国の副総理だぞ。そんな立場の人間を暗殺したらどうなる。君の考え過ぎだ」
豪胆に笑う川崎は、山崎の18年物のロックをゆっくりと口にした。
その態度に正直、辟易した市川だが、なんせ自分の出世街道の人物だ。今死なれては困る。
本音が何処に潜んでいるかは政治の世界では当然の摂理だが、市川は総理官邸が抱える世間では知られていない武装集団が存在する。
「リソース隊」米国のグリーンベレーより、一年に渡って訓練され、また銃器だけではなくナイフを持った接戦にも対応している。
いわば影の殺しのプロの集団である。
普段はサラリーマンや販売員、役所関係など、到底想像出来ない部署に存在し、その殺気を殺して潜んでいる。
招集が掛かれば、直ぐにでも駆け付け特定された人物を葬り、遺体は一切発見されないように処理するとの事だ。
内閣にも特殊部隊を抱える理由はある。
しかし、表に出てしまえば叩かれるのは目に見えている。
だからよほどの事が無い限り、行動は控える。

その頃、オーイックスでは、機密隊が作戦を詰めた処まで練っていた。
尾本が全指揮を取り殆どが内容を囲んでいた。
『作戦コード:PX0Ⅱ』
ギークたちも総動員して、電子メモに自動変換器を添えて副総理の動きを探る為に徹底した攻防包囲網を取る。
市川が懸念したように、機密隊は川崎副大臣を暗殺する任務を、今から一時間と五分前にオーイックス隔離室にて最低限の人物を集めて作戦を立てた。
暗殺は以下のように取り交わされえた。
何を使っての暗殺になるのか。それはある植物を使う。
リシンだ。トウゴマより抽出されるたんぱく質だ。猛毒である。
過去、身分の高い人物を暗殺するのに使われた手段だ。
しかも、以前の医学では検出が非常に困難だった。今の時代ではリシンの検出は可能となったが、その先に採れる、ある物質と結合したものが、リシジュームという更に生成された毒物を使用する。
この物質はリシン以上に検出が困難なので、心不全として扱われることが多い。

しかしバックヤードでは既に研究されており、低評価で検出を可能としている。
裏を返せば誤診に当たる。
杖式の銃でリシジュームの周りを蝋で固め、時間差を出す。これも過去、使われてきた常套手段だ。
機密隊の特務隊がこの作戦の鍵を握る。
特務隊の人数は三人。まず疑われてはいけない。国会議事堂内にて作戦実行となる。
常備、監視カメラが二十五か所に配備されており、AIで認識処理されている。
認識阻害システムで潜入、二十七メートルの距離から、発砲する。
これらは一回のみの実行だ。外せばSPに知られるだろう。
認識阻害システムを稼働させていても、フルーガンを撃ち込まれたら一巻の終わりである。
裏を返せば絶対に失敗は許されない。
メンバーが手信号で合図を取り合う。時間はあと十七分。まず総理が入って来る。
其処へ呼ばれた川崎は、未だ夕刻というのに、バーボンをロックで飲み始めた。
中越総理眉を潜めて注意したが、川崎は仕事は終わりましたよと、聞く耳を持とうとはしなかった。
チャンスは今しかない。
「まぁまぁ、中越総理、一杯いこうではないですか」
その瞬間、ギークらからの応答が入った、今だ。特務隊の一人が放った。
川崎は酔っていたのか、左太ももにリシジュームを受けた事さえ感じていないようであった。
特務隊一番が残りの二人に指令を出す。「ミッション完了!これより帰投する」
ギーグからその時緊急連絡が入った。『南ゲートは使わないで下さい!北ゲートをほふく前進して下さい』
一瞬、考え込まされたが、ここはその通りに移動するに限る。
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