黄昏の国家

旅里 茂

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交渉の欺瞞

黄昏の国家40

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川崎は豪快に笑いながら「あははは、そう固まらんでいいよ。今回の総理官邸における事案だね。双方、不幸であったね。私も内閣副総理になってから仕事が多くてね。勿論、国民の為だけどね」
流石におごり高ぶりな言い回しだな、と高沢は思った。
「その川崎内閣副総理にお願いがあります。オーイックスとIRの件で情報提供をして頂きたいのです」
IRの件は複雑に絡み合っている。政界から民間まで多くの渦巻、溜まる現在の界隈は、正にネットワークの内部みたいである。
川崎は高沢の云わんとする事を承知している。次の言葉に高沢がどう反応するか、試してみるのも良いと考えていた。
「高沢くん、IRは米国との相互取引の仲だよ。それには、君が実質運営するオーイックスの資産を消費するのも国家の為とは思わないかね」
やはり川崎の内面は、そういう腹積もりだったのか。
しばらく沈黙が続いた。と、突然、「はっははははは!驚いたかね。生憎そこまで欲の皮はつっぱっておらんよ」
高沢は痛恨のあたりを受けたが、「…、では、今の話は…」
川崎は「IRの建設・それと運営を米国と相互取引など、私は初めから反対だった。しかし、自政党のタカ派には押し切られてしまった」
勿論これはブラフである。川崎はオーイックスを目の上のたんこぶとして厄介扱いしていた。
要は、自身に得策があれば、どちらにも転がる男なのだ。
高沢は、ある一種の賭けに出た。「現状、既にIRを政府は運営しております。我がオーイックスは、これから財務会議を開いて運営の方針を議論します」
この言葉でどう反応するか大いなる不安はある。しかし、このままではオーイックスは沈んでしまう。そう、大いなる賭けである。
川崎はほぅと感心したような息を吐いた。
「それは、今後のIRの運営権をオーイックス側も受理したいと、こういう事かね」
「その通りです。オーイックスも現状を知った以上、そのまま自刃する訳にはいけません」
川崎は少し考えてから、答えを出した。
「宜しい!流石は高沢くんだ。肝が据わっておるな。それと言っちゃなんだが、こちらにも準備というものが必要だ。その為には資金が必要でな…」
やはりな。政治屋やいう生き物は、どいつも金を欲している。
「いいでしょう、幾ら月極で御払いすれば宜しいのでしょうか」
之も川崎は少し考えてからこう切り出した。
「十でいこうじゃないか。その次は億だ。極まりが悪いが私は優しいのでな」
成程。他の政治家と違う処は傲慢過ぎない処か。
財務会議の席で異論は多く出るだろう。
しかし、この状況では川崎の提示した金額を譲歩しなければいけない。
オーイックスには多大な金額が天文学的数値を与えている。
ここで潰される訳にはいかない。
[判りました。そして期限は何時頃まで続くのでしょうか」
「三か月と言った処かな」これには驚いた。通常の議員ならばもっとせびって来る筈だ。結果は三十億で良いという事か。
確かに大金には違いない。しかし、オーイックスでは国内から海外事業まで、可成りの収益を兼ねている。
三十億を支払う事は難しいことではない。
問題は金を払って、それが上手く自浄するかだ。
川崎は内閣副大臣だが、金に汚いと言われている。
そのまま信用していいのか、葛藤はもちろんある。
しかし今の状況では、これを全面的に信用するしかない。

財務会議を開催したオーイックスの幹部クラスが、会議室に集まった。
情報モニターで今までの会談、交渉、取引の動画が映し出された。
これらを傍聴していた幹部からは、異論が噴出した。
ある人物は「リュクスタ、これは独断と偏見ではないでしょうか」
それは一番最後に交渉した川崎の件だった。
高沢の側近、吉江辰美が代表で「ご説明頂けますか、リュクスタ」と問うた。
こうなる事は充分に予測出来たことだが、いざ説明となると難しいものがある。
難題だが多く集まってくれた患部一同に、最高責任者である自分が逃げる訳でもない。
高沢は少しずつ話し出した。「今の映像の中で様々な鍔迫つばぜり合いがあった。しかも日本政府の大物議員たちだ。特に最後にあったIR問題はアメリカも巻き込んだ、途轍とてつもなく厄介な案件だった」
機密隊のリーダー、尾本が話の合間に入った。それは率直で高沢を擁護する内容だった。
「リュクスタ。川崎がIRの運営思想に月極で三十億の資金は十便に耐えられる金額です。…、只、あまりにも川崎がこれ以上の欲が出れば、機密隊は行動せざるを得ません」
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