黄昏の国家

旅里 茂

文字の大きさ
上 下
18 / 47
共産圏の生贄

黄昏の国家18

しおりを挟む
その情報検索で出てきたのは、KIMOTOとあった。
木本!まさかと吉江は感潜った。
彼女の実績は知れ渡っている。その為、将来を岩盤な地位に就くことも約束されたようなものだ。
では、別の人物なのか。しかし、ビッグ・フロートの職員に木本は一人しかいない。
戸惑いながらも吉江はリュクスタに途中報告を上げた。
その内容に驚愕したのは間違いない。
木本が?そんな事がありうるのか?
いや、予め誰かが木本を貶める為に仕組んだものかもしれない。
不信感が不審を呼ぶ。これは更に調べる必要があると、高沢は感じた。
吉江に指示し、更なる電脳階層を調べる指示を出した。
ビック・フロートの電脳階層は可なりの深さがあり、情報確認を取るまでに日数がかかる。
状況は中国とロシアに漏れた情報の確認も、性急だ。
オーイックス内部では、公安隊が事実関係の処理に動き出していた。
高沢は、木本に直接問い質す事も考えたが、もし事実誤認なら不安要素を増すことになりかねない。
韮崎はある一点に気付いた。重要なデータ構築のソースコードに紐付けされたウィルスを発見したのだ。「これは!」
情報監視部で、即解読に入った。
高沢にも伝達され、その成り行きを見守っていた。
それから少しして、ビッグ・ワンの管制塔管理システムの部位に小規模な爆発が起きた。
どうやら怪我人が数人出ているとの情報だ。
消防班と救急班が現場に急行する。
爆発は管制塔管理システムのメインコンピューターが設置されている場所で、そこに甚大な被害が出ているとの情報が入った。
「優先するのは怪我人の搬送だ!あと消化を徹底して、原因を探れ!」高沢が先頭に立って指示する。
トリアージを付けて、救命処置と搬送を手分けして、救急班が懸命に動く。
また、消防班は火災が起きている場所を、スマイサーという特殊な消火剤にて鎮火を目指す。
焼け出されたコンピューター類が三台、これは一般に使用しているものだったので、常時、リカバリソフトが動作していて、データは幸いにも無事だった。
問題は計器類の損傷だった。管制用のシステムが全て被害を受けた為に、他のビッグ・フロートとの連絡を取りずらくなっていた。
しかし、別働に動いているシステムで、何とか応答の有無を行う事は可能であった。
なんにしろ、臨時のシステムを構築しておくことの重大性を改めて認識した。
その同時期、情報監視部が電脳階層の中で不審な動きをしている小さなプログラムを発見した。
韮崎は確信した。「これは!やはりウィルスだ」
二重にウィルスが機能していたのだ。
ここにいる全員が不審に陥った。「おかしい、セキュリティプログラムが同時に走っている筈だ。なんで発見出来なかった?」
オーイックスで設計された抗ウィルスシステムは一般に出回っている物とは違い、AIサーボという多角的ワクチンである。絶えず変化して新型のウィルスに対しても直ぐに適応する能力を持っている。
そのウィルスをコピーして取り出しスタンドアローンのPCで解析が始まった。
すると、今までとは全く違ったロジックの変数パターンを持った特異点である事が判明した。
分析を進めるにつれ、コードに多くの中国語が含まれている。
その頃、公安隊が木本を重要参考人として、招致した。
データベースに残っていた、”KIMOTO”の文字に対して、関連性があるのではないかと、詰め寄った。
はじめは頑なに否定したが、時間が及ぶにつれ中国共産党への賛美を口にし始めた。
これを聞いていた高沢は、ショックを受けずにはいられなかった。
その瞬間、「中国共産党万歳!」と立ち上がると同時に、奥歯を二回カチカチ云わした途端、木本の顔が膨張し、爆発した。
飛び散る肉片と血玉。取調室はパニックとなった。
高沢は、その光景を愕然と見ていたのだ。
すぐに救急班が駆け付け、遺体を集めて回収した。
木本の壮絶な自害から真相を聞き出すことは出来なかったが、やはり中国共産党との繋がりがあった。
この事実を元に高沢は、角安が言っていた内容をようやく理解した。
しかしここまで深入りしているとは、人選の対応をもっと厳格に行わなければならないと動揺は隠しきれなかった。
その晩、角安への連絡を取った高沢は、事の次第を全て伝えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

情報屋〜花束〜

深杣遊歩
SF
見た目はただの飲食店。 しかしその実態は、裏の世界ではかなり有名な情報屋。 花束【ブーケ】、本日も開店。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

地球によく似た星

井浦
SF
故障寸前の宇宙船で、命からがら降り立ったのは、地球によく似た星だった。 ただ、辺りには子どもの姿しか見当たらなくて……。

処理中です...