黄昏の国家

旅里 茂

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懐疑の華

黄昏の国家17

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地道な作業こそ、大成を成就する。
「これで更なるフロートの進捗が賄える」
高沢はそう確信しながら、スタッフを称えた。
ビッグ・フロートは最終的に25まで製造される。
将来的にはCO2光合成エンジンを積んだ、ロケットの開発も視野に入れている。
現在、アメリカが既に月面基地を構築しており、そこには欧州と日本のJAXAも参賀しており、順調に事は進んでいる。
オーイックスも資金的に参加しており、今後の宇宙開拓においても率先して日本政府に様々な要素を提供して行く事を約束している。

原子衛星の事件から一年が過ぎようとしている。
中国共産党は、かつて新彊ウイグル自治区やチベット自治区など非人道的な支配をしていたが、中国民主改革党の反共産党を謳い、蜂起した。
これにより大混乱が生じて約一年半に渡り、民主改革党が一応の勝利を収めた。
しかし、根深く浸透していた共産党も直ぐに崩壊した訳ではなかった。
先の事件の通り、まだ勢力は温存している。
2032年、台湾進攻を実行した中国共産党は、日米英仏連合により挫かれ止む無く撤退した事案があった。
その時、日本も痛手を受けたが、尖閣諸島を防衛する為に当時の内閣が軍事増強を唱え、GDPの10%を超える防衛費を当てていたことが功を奏した。
野党を始め、国内のあらゆる勢力が反対と糾弾を唱えたが、現状は先の通りである。
現在の防衛費は、その流れを受けて10%をキープしている。
また、オーイックスが軍事確定委員会の策定基準が、日本政府よりも遥に多い二十兆円以上の算出しているのも大きい。
時は着々と次のステップに迎えつつある。
高沢は角安から提供された、Fー3戦闘機の後継であるFーX2の参賀を受けて、モックアップを既に完成させていた。
第8世代と言われる戦闘機の開発を事実上、任された形である。
現在、主流となっているレーザー兵器において、ステルスを超える認識阻害システムを搭載する計画である。
これが実現すれば、敵からはレーダーや目視でも確認を取る事が出来なくなる。そんな思いを抱きながら、酒を飲んでいると、木本が傍に寄り添いある提言をしてきたのである。
「リュクスタ、この度の件で素晴らしい業績、おめでとう御座います」
改めてその問いに少しの戸惑いを感じながらも、高沢は彼女なりの慰労の言葉と受け止めた。
「ありがとう、君の手腕も大したものだ」
確かに彼女の今までの行動力と判断力は、特筆するものがある。
実際に厳しかった漁業組合への懸念も払拭した。
これから更に続くであろう、ビッグ・フロート建設においては可成り心強い。
空席になっていた、フロートマネージャーの地位に、木本を置くことも考えている。
杉本が暗殺された痛手は未だに尾を引いているが、これから先を見据えなければならない。
次回の定例協議会で、高沢は木本を推す方向で考えている。
そういった高沢の思惑とは別に、情報監視部の幹部、韮崎健斗が奇妙なデータ信号のやり取りを確認していた。
8Gのレーザー回線でDF圧縮をかけた信号が周期的に、中国とロシアに渡っていることを突き止めたのだ。
只、広範囲で何重ものダミー回線を構築している為、解読が困難であった。
このことに対して速やかに韮崎は高沢の側近、吉江辰美に報告を上げた。
吉江は直ぐに更なるデータの解析を指示した。
もし、ビッグ・フロート計画の内容が漏洩されることがあれば、死活問題となる。
出先の機関が中国とロシアというのも最大限に警戒する国だ。問題が拗れれば事態は日本政府にも直結する。
サイバー部隊としての別称を持つ情報監視部のエリート部隊が、それに当たった。
すると、ビッグ・フロート1にある、索敵システムの一部に、妙なソースコードがある事に気付いた。
ビッグ・フロートの開発手順と今後の計画書が今まさに、送信される手前であった。
直ぐにデータ回線を落として食い止めることに成功した。が、システムダウンと同様の事案に一斉に緊急レベルが上がったのだ。
高沢に吉江が伝えていた事案であったが、これは由々しき問題である。
データの断片にビッグ・フロートの職員が持つIDの切れ端のような内容が付いていた。
すぐさまでーた照会を作動させて、緊急プログラムが作動した。
神戸のデータが既に2TBの情報が漏洩している事が判明して、これが中国共産党のシステムに流れていることも判明した。
そのデータを扱っていた人物は、極僅かである。更に絞りをつける。
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