黄昏の国家

旅里 茂

文字の大きさ
上 下
6 / 47
誘惑の夜に

黄昏の国家06

しおりを挟む
関東電力の株が近い将来、跳ね上がるという内容であった。
これはインサイダー取引になるのではないか?
もし、そうだとすれば内村は大いに迂闊な事を口走ったことになる。
人は腑としたことから、重要な内容を零すことがある。
内村はまさに、その典型的な人物である。
内容はすぐさま角安に連絡が入り、有益な情報として得ることが出来た。
「間違いないな、川崎副次官が関わっている」確証を持った瞬間であった。
だが、総理大臣をカバーする、副次官だけに角安もそうそう近寄れる相手ではない。
だとすると、正攻法で攻めるしかない。
インサイダー取引の証拠を掴めばよい。
角安は特Aに対して、新たな任務を与えた。内村奈々を落とす事である。
ハニートラップの反対であるが、特Aのキャパでもある為、角安は慎重ながらも期待を以てした。
時間は午後八時二十六分、内村は仕事を終えて国会議事堂前駅に向かった。
これに先回りしていた特Aが有楽町で待機する。偶然を装って食事に誘う手筈。
古くされた手法だが、時代がどれだけ進んでもこの手は使えるのだ。
「あれ?内村さん」ごく自然に近付く。
警戒はされなかったが、有楽町で逢ったことで少し気まずさを持っている感じであった。
しかし川崎副次官の秘書だけあって、笑顔で答えた。
「あら、立木さん、偶然ですわね」
特Aは立木と名乗っていた。これは官僚の中で予め、ワークステーションに登録されている情報を操作して、繋ぎ合わせた名前である。
「内村さん、ほんと偶然ですね。今、御帰りですか?」
「どうです?食事でもご一緒に。うまい串カツ屋があるんですよ」
敢えて高級なレストランではなく、庶民感覚の場所を指定する。相手が立ち寄りやすい、または人気が多い場所を選択するのも、また計略である。
内村は少し考えたが、その場所ならば逃げれると踏んだのだろう。OKを出した。
「ここからだと歩いて十分もかかりませんよ」
立木の言う通り、僅かな時間で到着した串カツ屋。
のれんを潜ると結構な広さに内村は安堵した。客も大勢いる。
立木は椅子を引いて、内村をエスコートした。
メニューは多くあり、内村は正直、串カツ屋に入った経験がなかったので、立木に内容を聞いて来た。
「この、『チューリップ』というのは、本当に植物のチューリップですか?」
周りの人がその言葉を聞いて、噴き出した。
可成り恥ずかしい事を聞いたと思い、俊とする内村だが、直ぐに立木がフォローした。
「最初は判りませんよね。これは鶏肉の手羽中の事です」
「ああ、そうなんですか?すいません。私ったら…」
早速、立木はチューリップを頼んで食すのに、注意を一つ伝えた。
「ソースですが、二度付けは禁止です。最初にたっぷりつけて食べて下さい」
ゆっくり口元に運び、内村は上品に食す。
「うん、美味しい!こんな美味しいものだなんて…」
「さぁ、ビールで乾杯しましょう」
食事は他愛無い話から、現在の政府の在り方など、時間を忘れて過ごした。
可成り酒が回った内村を、したたかな眼で立木は見ながら更に酒を勧めた。
時間は午後十時半を少し回った。店は十一時までの営業である。
内村が気が付いた時には、タクシーの中だった。
これはマズいと思ったが、飲み過ぎて身体も思考も追い付かなくなっていた。
無理もない。初めはビールから、のちにハイボールを可成り飲んだ。
しかし、ぼんやりとした目線で立木を見つめると、満更でもないと感じる。
タクシーが止まったのは、ラブホテル街だった。
二人は一角の建物の中に入っていった。
一時の情事。これで立木の任務は半分成功したことになる。
翌朝、見慣れない部屋の模様を気にしながら、内村は立木に言った。
「こうやって、女の子を手に掛けているの?」
「まさか。内村さんが初めてだよ」これは真っ赤な嘘である。
「ふーん。でも、こんな感じ、悪くないわ」
立木はそんなやり取りを過ごし、本題の入り口に入った。
「川崎先生は気性の荒い人物と聞くが、よく秘書を務めてるね」
内村はその意見に笑みを混め答えた。
「先生とはよくお泊りするわ」
なるほど、そんな関係か。まさに今、ビジョノートにて角安に配信されているとも気付かずに…。
「そうだ!ビッグ・ワンというのを知っているかい?なんでも準日本政府組織だそうだ。誰か知らんが、良く作ったものだよ」
こんな話は本当はいけないんだと思うけど、前を気をする内村。
「先生は、イザとなったら誰でも平気で手に掛けるわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...