無感情兎?と優しいお兄さん

味見

文字の大きさ
上 下
8 / 19
無感情兎とお兄さん

8.

しおりを挟む
足早に書店までの道を歩く。寒さが肌を刺すけれど、そんなことを気づかないほどに気分は高揚していた。

変な奴に声を掛けられて少し遅くなってしまったけど、きっとお兄さんは待ってくれている。
そう確信を持って足を動かす。
人の間を縫うように進み、少し路地に入って書店の前に辿り着く。

はぁ、

呼吸を整えてから扉を開ける。

カランコロン。

ベルの音を鳴らしながら扉が開く。
前を見つめるとお兄さんと目が合い、すぐにお兄さんは目じりを下げて微笑みながら

「こんにちは兎織くん、待ってたよ」

と、言ってくれた。





静かで心地よい空間にお兄さんと僕の会話が響く。
お兄さんが入れてくれた紅茶とお菓子の優しい匂いを感じながら、お兄さんの声に心が弾む。

ふと、会話が途切れてお互いに沈黙する。でも、心地よい沈黙だった。
お茶を飲み、伏せていた目を上げるとお兄さんが真剣な表情でこちらを見ていた。

「どうしたの」

「あのさ、兎織くんは表情が…その、、、」

その言い淀んだ言葉で一気に凍りつく。
ああ、やっぱりお兄さんもこんなに表情が無い。感情の出ない子は嫌なのかもしれない。お兄さんが優しいから気づかなかった。

どんどん暗くなっていく。
でも、僕の表情には出ていないはずなのにお兄さんは慌てたように言葉を紡いだ。

「ごめんね!落ち込ませたい訳じゃ無いんだ。それに俺分かるよ兎織くんの気持ち。だって、目に出ているから。」

?、目に?

「ほら、今は不思議に思ったでしょ?兎織くんには感情とかが無いわけでは無いんだよ。」

ずっとあの日から自分は感情が表に出る事ない人形のようなモノだと思っていたのに………
驚き固まった僕にお兄さんは笑いかけて

「だから、ね?一緒に表情が出るように頑張らない?目に出ているとはいえ、それに気づける人はあんまりいないと思うんだ。」

その優しい声色と表情がとても心地よくて、気づいたら僕は首を縦に振っていた。

…………お兄さんはとても綺麗に微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君を独占したい。

檮木 蓮
BL
性奴隷として売られたユト 売られる前は、平凡な日を送っていたが 父の倒産をきっかけに人生が 変わった。 そんな、ユトを買ったのは…。

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

私立明進学園

おまめ
BL
私立明進学園(メイシン)。 そこは初等部から大学部まで存在し 中等部と高等部は全寮制なひとつの学園都市。 そんな世間とは少し隔絶された学園の中の 姿を見守る短編小説。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学園での彼らの恋愛を短編で描きます! 王道学園設定に近いけど 生徒たち、特に生徒会は王道生徒会とは離れてる人もいます 平和が好きなので転校生も良い子で書きたいと思ってます 1組目¦副会長×可愛いふわふわ男子 2組目¦構想中…

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

処理中です...