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無感情兎とお兄さん
8.
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足早に書店までの道を歩く。寒さが肌を刺すけれど、そんなことを気づかないほどに気分は高揚していた。
変な奴に声を掛けられて少し遅くなってしまったけど、きっとお兄さんは待ってくれている。
そう確信を持って足を動かす。
人の間を縫うように進み、少し路地に入って書店の前に辿り着く。
はぁ、
呼吸を整えてから扉を開ける。
カランコロン。
ベルの音を鳴らしながら扉が開く。
前を見つめるとお兄さんと目が合い、すぐにお兄さんは目じりを下げて微笑みながら
「こんにちは兎織くん、待ってたよ」
と、言ってくれた。
*
静かで心地よい空間にお兄さんと僕の会話が響く。
お兄さんが入れてくれた紅茶とお菓子の優しい匂いを感じながら、お兄さんの声に心が弾む。
ふと、会話が途切れてお互いに沈黙する。でも、心地よい沈黙だった。
お茶を飲み、伏せていた目を上げるとお兄さんが真剣な表情でこちらを見ていた。
「どうしたの」
「あのさ、兎織くんは表情が…その、、、」
その言い淀んだ言葉で一気に凍りつく。
ああ、やっぱりお兄さんもこんなに表情が無い。感情の出ない子は嫌なのかもしれない。お兄さんが優しいから気づかなかった。
どんどん暗くなっていく。
でも、僕の表情には出ていないはずなのにお兄さんは慌てたように言葉を紡いだ。
「ごめんね!落ち込ませたい訳じゃ無いんだ。それに俺分かるよ兎織くんの気持ち。だって、目に出ているから。」
?、目に?
「ほら、今は不思議に思ったでしょ?兎織くんには感情とかが無いわけでは無いんだよ。」
ずっとあの日から自分は感情が表に出る事ない人形のようなモノだと思っていたのに………
驚き固まった僕にお兄さんは笑いかけて
「だから、ね?一緒に表情が出るように頑張らない?目に出ているとはいえ、それに気づける人はあんまりいないと思うんだ。」
その優しい声色と表情がとても心地よくて、気づいたら僕は首を縦に振っていた。
…………お兄さんはとても綺麗に微笑んだ。
変な奴に声を掛けられて少し遅くなってしまったけど、きっとお兄さんは待ってくれている。
そう確信を持って足を動かす。
人の間を縫うように進み、少し路地に入って書店の前に辿り着く。
はぁ、
呼吸を整えてから扉を開ける。
カランコロン。
ベルの音を鳴らしながら扉が開く。
前を見つめるとお兄さんと目が合い、すぐにお兄さんは目じりを下げて微笑みながら
「こんにちは兎織くん、待ってたよ」
と、言ってくれた。
*
静かで心地よい空間にお兄さんと僕の会話が響く。
お兄さんが入れてくれた紅茶とお菓子の優しい匂いを感じながら、お兄さんの声に心が弾む。
ふと、会話が途切れてお互いに沈黙する。でも、心地よい沈黙だった。
お茶を飲み、伏せていた目を上げるとお兄さんが真剣な表情でこちらを見ていた。
「どうしたの」
「あのさ、兎織くんは表情が…その、、、」
その言い淀んだ言葉で一気に凍りつく。
ああ、やっぱりお兄さんもこんなに表情が無い。感情の出ない子は嫌なのかもしれない。お兄さんが優しいから気づかなかった。
どんどん暗くなっていく。
でも、僕の表情には出ていないはずなのにお兄さんは慌てたように言葉を紡いだ。
「ごめんね!落ち込ませたい訳じゃ無いんだ。それに俺分かるよ兎織くんの気持ち。だって、目に出ているから。」
?、目に?
「ほら、今は不思議に思ったでしょ?兎織くんには感情とかが無いわけでは無いんだよ。」
ずっとあの日から自分は感情が表に出る事ない人形のようなモノだと思っていたのに………
驚き固まった僕にお兄さんは笑いかけて
「だから、ね?一緒に表情が出るように頑張らない?目に出ているとはいえ、それに気づける人はあんまりいないと思うんだ。」
その優しい声色と表情がとても心地よくて、気づいたら僕は首を縦に振っていた。
…………お兄さんはとても綺麗に微笑んだ。
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