5 / 10
その五
しおりを挟む
特に何が起きるという訳でもなく数日が経過し、この学園にも慣れ始めたころ、ホームルームにて委員会を決める場が設けられていた。
担任の桜庭先生によって、まずはクラス委員の立候補を呼び掛けられた。
しかし、誰も手を挙げる者はいない。
「うーん、誰も手を挙げないんじゃしょうがないですね・・。もう一度聞きます。誰かやってくれる人はいないですか?」
それでも依然として、手を挙げる者は現れない。
たしかに大規模な行事が多い雉鳴学園において、クラス委員の仕事は想像を絶する程に忙しく大変なものになるだろう。そして、高校生にしてそれをこなせる者は少ないだろう。
ただ、それはあくまで高校生全体として見たときの話である。ここ雉鳴の学生であれば、簡単にとはいかずともそれを成し遂げるだけの能力がある。現に数日間の学校生活でも、皆がそれだけの能力を遺憾なく発揮していた。それにクラス委員は大変な分、クラスの顔であり、それによって得られる経験、栄誉や達成感、学校からの評価などを考慮すれば十分な報酬は用意されている。実際、クラス委員への立候補者多数で争奪戦になったクラスは存在すると聞く。
ではなぜ、誰も手を挙げないのか。
それは、誰も手を挙げないからである。クラス委員をやりたいと是が非でも思う者は少なくとも、やってみてもいいかなと思う者は少なくないはずである。しかし、この数日間でクラス委員を務めるにふさわしいだけのクラスメイトを目にし、出会ってまだ日が浅いことも重なって遠慮してしまっているのだ。
出る杭は叩かれるし、目立てばそれをよく思わない人が増えるのも事実である。幼少のころより、神童と持て囃されてきた彼らは、持て囃された分だけ、妬み嫉みの対象とされてきた。その結果が、この状況である。みんな、消極的になってしまっている。
俺は、生徒会長になると決めた。その過程として、クラス委員を経験することは最善であるように思える。そう、ただ黙って手を挙げればいい。でも、身体が言うことを聞かない。妙な冷や汗が出てくる。昔の嫌な思い出がフラッシュバックしてくる。別に生徒会長なんてならなくていいんじゃないだろうか。思考がマイナスばかりに働いていく。自分を見失いそうになる。
自己嫌悪に陥っていた、その時、教室に声が響き渡る。
「私、クラス委員やります・・!」
その声は少し震えていて、でも、覇気が宿った声だった。
鹿野花桜梨が、少し耳を赤くしながら、それでも堂々と手を高く挙げていた。
一気にクラスメイトの視線が集中する。
「鹿野さんがやってくれるなら安心です。ありがとう鹿野さん。」
鹿野さんならというような声がクラス中から聞こえてくる。この数日間でそれだけ鹿野花桜梨はクラスメイトの信頼を獲得していた。
「クラス委員は二人なのでもう一人お願いしたいのですが、出来れば男女一人づつの方がクラスはまとまりやすいかなーと思います!」」
鹿野花桜梨が手を挙げたことで、クラスの雰囲気はさっきとは比べ物にならない程、良好なものとなっていた。
「おい、てっちゃん!抜け駆けはなしだぜ。」
「え・・?」
隣の席の矢間隆司がこそこそ声で話しかけてくる。どういうことかと思ったが、鹿野花桜梨はクラスの信頼を獲得しただけでなく、男子生徒からの人気も獲得していた。つまりは、彼女と一緒にクラス委員を務め、距離を縮めたいということなのだろう。
それだけでなく、元々クラス委員興味を持っていた者も、彼女のおかげで手を挙げやすい雰囲気になっていた。
結果、男子生徒の約半分が手を挙げた。
「じゃんけんというのも運任せな気がしますし、どうしましょうか、鹿野さん」
桜庭先生は、選定の方法をクラス委員である彼女に委ねる。
「そうですね・・。クラスの投票という形はどうですか・・?」
少し自信なさげに、それでも迷いなく投票を提案する。あらかじめ、考えていたのかもしれない。
「いいですね!それにしましょう!」
桜庭先生は少し楽しそうにその提案に同意する。
「ちなみに、鹿野さんはどういう人が良いとかありますか?」
鹿野さんをからかいつつ悪戯そうに笑う先生。
「数日間とはいえ、皆の優しいところとか、凄いところとか少しだけかもしれないけど、分かってきたと思うから、そういうので投票してほしいです。お願いします!」
それに対し、ほぼ完璧とも言える回答をする鹿野花桜梨。
そして気のせいだろうか。自分に目線が向けられていたような気がしたのは・・。
___
投票が終わり、票数は公開されなかったものの、結果として、隼間帝人が当選した。
投票の結果に不思議はない。もちろん、自身の何かに慢心しているわけでもない。これは、間違いなく、鹿野花桜梨のおかげである。
入学式での鹿野による俺への称賛。そして、あの投票前の発言と視線誘導。あれは、気のせいではなく、そしてそれに気づいた生徒が俺だけでは無かったということだろう。
とにかく、クラス委員は鹿野花桜梨、そして隼間帝人に決定した。
担任の桜庭先生によって、まずはクラス委員の立候補を呼び掛けられた。
しかし、誰も手を挙げる者はいない。
「うーん、誰も手を挙げないんじゃしょうがないですね・・。もう一度聞きます。誰かやってくれる人はいないですか?」
それでも依然として、手を挙げる者は現れない。
たしかに大規模な行事が多い雉鳴学園において、クラス委員の仕事は想像を絶する程に忙しく大変なものになるだろう。そして、高校生にしてそれをこなせる者は少ないだろう。
ただ、それはあくまで高校生全体として見たときの話である。ここ雉鳴の学生であれば、簡単にとはいかずともそれを成し遂げるだけの能力がある。現に数日間の学校生活でも、皆がそれだけの能力を遺憾なく発揮していた。それにクラス委員は大変な分、クラスの顔であり、それによって得られる経験、栄誉や達成感、学校からの評価などを考慮すれば十分な報酬は用意されている。実際、クラス委員への立候補者多数で争奪戦になったクラスは存在すると聞く。
ではなぜ、誰も手を挙げないのか。
それは、誰も手を挙げないからである。クラス委員をやりたいと是が非でも思う者は少なくとも、やってみてもいいかなと思う者は少なくないはずである。しかし、この数日間でクラス委員を務めるにふさわしいだけのクラスメイトを目にし、出会ってまだ日が浅いことも重なって遠慮してしまっているのだ。
出る杭は叩かれるし、目立てばそれをよく思わない人が増えるのも事実である。幼少のころより、神童と持て囃されてきた彼らは、持て囃された分だけ、妬み嫉みの対象とされてきた。その結果が、この状況である。みんな、消極的になってしまっている。
俺は、生徒会長になると決めた。その過程として、クラス委員を経験することは最善であるように思える。そう、ただ黙って手を挙げればいい。でも、身体が言うことを聞かない。妙な冷や汗が出てくる。昔の嫌な思い出がフラッシュバックしてくる。別に生徒会長なんてならなくていいんじゃないだろうか。思考がマイナスばかりに働いていく。自分を見失いそうになる。
自己嫌悪に陥っていた、その時、教室に声が響き渡る。
「私、クラス委員やります・・!」
その声は少し震えていて、でも、覇気が宿った声だった。
鹿野花桜梨が、少し耳を赤くしながら、それでも堂々と手を高く挙げていた。
一気にクラスメイトの視線が集中する。
「鹿野さんがやってくれるなら安心です。ありがとう鹿野さん。」
鹿野さんならというような声がクラス中から聞こえてくる。この数日間でそれだけ鹿野花桜梨はクラスメイトの信頼を獲得していた。
「クラス委員は二人なのでもう一人お願いしたいのですが、出来れば男女一人づつの方がクラスはまとまりやすいかなーと思います!」」
鹿野花桜梨が手を挙げたことで、クラスの雰囲気はさっきとは比べ物にならない程、良好なものとなっていた。
「おい、てっちゃん!抜け駆けはなしだぜ。」
「え・・?」
隣の席の矢間隆司がこそこそ声で話しかけてくる。どういうことかと思ったが、鹿野花桜梨はクラスの信頼を獲得しただけでなく、男子生徒からの人気も獲得していた。つまりは、彼女と一緒にクラス委員を務め、距離を縮めたいということなのだろう。
それだけでなく、元々クラス委員興味を持っていた者も、彼女のおかげで手を挙げやすい雰囲気になっていた。
結果、男子生徒の約半分が手を挙げた。
「じゃんけんというのも運任せな気がしますし、どうしましょうか、鹿野さん」
桜庭先生は、選定の方法をクラス委員である彼女に委ねる。
「そうですね・・。クラスの投票という形はどうですか・・?」
少し自信なさげに、それでも迷いなく投票を提案する。あらかじめ、考えていたのかもしれない。
「いいですね!それにしましょう!」
桜庭先生は少し楽しそうにその提案に同意する。
「ちなみに、鹿野さんはどういう人が良いとかありますか?」
鹿野さんをからかいつつ悪戯そうに笑う先生。
「数日間とはいえ、皆の優しいところとか、凄いところとか少しだけかもしれないけど、分かってきたと思うから、そういうので投票してほしいです。お願いします!」
それに対し、ほぼ完璧とも言える回答をする鹿野花桜梨。
そして気のせいだろうか。自分に目線が向けられていたような気がしたのは・・。
___
投票が終わり、票数は公開されなかったものの、結果として、隼間帝人が当選した。
投票の結果に不思議はない。もちろん、自身の何かに慢心しているわけでもない。これは、間違いなく、鹿野花桜梨のおかげである。
入学式での鹿野による俺への称賛。そして、あの投票前の発言と視線誘導。あれは、気のせいではなく、そしてそれに気づいた生徒が俺だけでは無かったということだろう。
とにかく、クラス委員は鹿野花桜梨、そして隼間帝人に決定した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする
織姫ゆん
青春
普通の高校生黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする。
朝は幼馴染に起こされたり、ちびっこ優等生にぐふふと笑われたり、ポンコツ担任がやらかしたり、許嫁を名乗る転入生が現れたり。何か起きそうで何も起きない。
そんな日常。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
青春
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春ボカロカップ参加》🌸
各チャプタータイトルはボカロ(※)曲をオマージュしております。
ボカロワードも詰め込みつつ、のちにバンドやアカペラなど、音楽のある作品にしていきます。
青い彼らと一緒に、青春をうたっていただけたら幸いです。
※『VOCALOID』および『ボカロ』はヤマハ株式会社の登録商標ですが、本作では「合成音声を用いた楽曲群」との広義で遣わせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる