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目を閉じ、頬を強くつねる。
先ほどよりももっと強く。
でもやっぱりつねった頬は痛くて、これが夢じゃないことを知らせる。
「オリビアちゃん、どうしたのー?」
目を開けば、子供たちが不思議そうな顔をしてこちらを見上げていた。
その頭に耳のようなものはなく、当然しっぽも生えていなかった。
見間違い?
あまりの可愛さに子犬のように見えてしまったのかな。
しっぽに鱗のようなものがあったような気がするけど。
異国の地で、気疲れしてるのかも。
贅沢な暮らしをさせてもらっているのに、情けない。
「なんでもないの。ただ、幸せすぎちゃって」
安心させるように笑いかけると、子供たちの顔が輝いた。
「幸せ?オリビアちゃんはおーさまのおよめさんで幸せ?」
「もちろん!」
幸せに決まっている。
幸せすぎて、怖いくらい。
「オリビアちゃん!これあげる!」
小さなお花を両手いっぱいに持っていた女の子がそのうちの一輪を私にくれた。
きっとどこにでも咲いている白い花。
けれどそれがたまらなく嬉しかった。
誰かに花をもらうなんて初めてだった。
「ありがとう!大事にするね!」
子供たちはお互いの顔を見合わせて、笑った。
「オリビアちゃんだいじにするって!」
「よかったね!」
花をくれた女の子が照れたように笑った。
「これね、ママにプレゼントなの!オリビアちゃんみたいによろこんでくれるかなぁ?」
こんなにたくさんの花をプレゼントされて嬉しくないわけがない。
なんて幸せなお母さんなんだろう。
「絶対喜んでくれるよ!」
記憶の中のお母さんがよみがえる。
きっと私のお母さんだって喜んでくれたはず。
そう思うと手の中の白い小さな花がさらに愛おしく感じた。
本当にもったいないくらいの幸せ。
けれど、
「オリビアちゃんはどこから来たの?」
その質問に心臓が凍りついた。
「あ……」
私の母国はこの国の敵。
隣でロゼ様が私と子供たちの間に入り、何かを言おうとしてくれる。
でも、甘えちゃだめだ。
ちゃんと自分の口から言わないと。
「エメラルド国からなの……」
勇気を出して思い切って告げる。
怖くて小さな声になってしまったけれど。
それでも子供たちの耳には届いたようで、みんなきょとんとした顔になった。
きっと子供たちだって敵国の名前くらい知っている。
嫌われたらどうしよう。
ううん、それならまだいい。
嫌われて、嫌悪の表情を見せられることには慣れているから。
でも、怖いと思われたらどうしよう。
もし子供たちが泣いちゃったら……。
私のせいで怖がらせてしまったら……。
そんなの、悲しすぎる。
言わなきゃよかったかな。
せっかくロゼ様がごまかそうとしてくれたかもしれないのに。
「わぁー!おーさまがずっと待ってたひとだー!!」
え?
「運命のひとー!」
「え?え?」
子供たちが一斉に騒ぎ出す。
突然のことに理解が追いつかなかった。
「オリビアちゃんは『エメラルド国の眠り姫』だったんだ!」
「眠り姫?」
「みーんな知ってるよ!寝る前にママがお話してくれるの!」
童話?
お母さんはいろんな童話を教えてくれたけど、そんなお話は聞いたことがなかった。
「ほら、もういいから!そろそろオリビアを返して」
ロゼ様が子供たちの話を遮る。
心なしか顔が少し赤い気がする。
子供たちが「えー!」と声を上げた。
「もっとお話ししたかったー!」という声が聞こえて嬉しくなってしまう。
私も童話の内容を聞いてみたかった。
その気持ちが顔に出ていたのか、ロゼ様が複雑そうな顔をされた。
けれど、すぐにぶんぶんと首を横に振る。
「今日は俺とデートなんだから。行くよ」
デート。
その言葉が甘く甘く胸に響いた。
先ほどよりももっと強く。
でもやっぱりつねった頬は痛くて、これが夢じゃないことを知らせる。
「オリビアちゃん、どうしたのー?」
目を開けば、子供たちが不思議そうな顔をしてこちらを見上げていた。
その頭に耳のようなものはなく、当然しっぽも生えていなかった。
見間違い?
あまりの可愛さに子犬のように見えてしまったのかな。
しっぽに鱗のようなものがあったような気がするけど。
異国の地で、気疲れしてるのかも。
贅沢な暮らしをさせてもらっているのに、情けない。
「なんでもないの。ただ、幸せすぎちゃって」
安心させるように笑いかけると、子供たちの顔が輝いた。
「幸せ?オリビアちゃんはおーさまのおよめさんで幸せ?」
「もちろん!」
幸せに決まっている。
幸せすぎて、怖いくらい。
「オリビアちゃん!これあげる!」
小さなお花を両手いっぱいに持っていた女の子がそのうちの一輪を私にくれた。
きっとどこにでも咲いている白い花。
けれどそれがたまらなく嬉しかった。
誰かに花をもらうなんて初めてだった。
「ありがとう!大事にするね!」
子供たちはお互いの顔を見合わせて、笑った。
「オリビアちゃんだいじにするって!」
「よかったね!」
花をくれた女の子が照れたように笑った。
「これね、ママにプレゼントなの!オリビアちゃんみたいによろこんでくれるかなぁ?」
こんなにたくさんの花をプレゼントされて嬉しくないわけがない。
なんて幸せなお母さんなんだろう。
「絶対喜んでくれるよ!」
記憶の中のお母さんがよみがえる。
きっと私のお母さんだって喜んでくれたはず。
そう思うと手の中の白い小さな花がさらに愛おしく感じた。
本当にもったいないくらいの幸せ。
けれど、
「オリビアちゃんはどこから来たの?」
その質問に心臓が凍りついた。
「あ……」
私の母国はこの国の敵。
隣でロゼ様が私と子供たちの間に入り、何かを言おうとしてくれる。
でも、甘えちゃだめだ。
ちゃんと自分の口から言わないと。
「エメラルド国からなの……」
勇気を出して思い切って告げる。
怖くて小さな声になってしまったけれど。
それでも子供たちの耳には届いたようで、みんなきょとんとした顔になった。
きっと子供たちだって敵国の名前くらい知っている。
嫌われたらどうしよう。
ううん、それならまだいい。
嫌われて、嫌悪の表情を見せられることには慣れているから。
でも、怖いと思われたらどうしよう。
もし子供たちが泣いちゃったら……。
私のせいで怖がらせてしまったら……。
そんなの、悲しすぎる。
言わなきゃよかったかな。
せっかくロゼ様がごまかそうとしてくれたかもしれないのに。
「わぁー!おーさまがずっと待ってたひとだー!!」
え?
「運命のひとー!」
「え?え?」
子供たちが一斉に騒ぎ出す。
突然のことに理解が追いつかなかった。
「オリビアちゃんは『エメラルド国の眠り姫』だったんだ!」
「眠り姫?」
「みーんな知ってるよ!寝る前にママがお話してくれるの!」
童話?
お母さんはいろんな童話を教えてくれたけど、そんなお話は聞いたことがなかった。
「ほら、もういいから!そろそろオリビアを返して」
ロゼ様が子供たちの話を遮る。
心なしか顔が少し赤い気がする。
子供たちが「えー!」と声を上げた。
「もっとお話ししたかったー!」という声が聞こえて嬉しくなってしまう。
私も童話の内容を聞いてみたかった。
その気持ちが顔に出ていたのか、ロゼ様が複雑そうな顔をされた。
けれど、すぐにぶんぶんと首を横に振る。
「今日は俺とデートなんだから。行くよ」
デート。
その言葉が甘く甘く胸に響いた。
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