実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

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 するとモー・キンムーが、ラー・キンムーに向かって言った。

「あれは金になるぜ、兄貴」

 ラー・キンムーが口の端を上げてうなずいた。

「そうだな。いい土産になりそうだ」

 俺は、そんなふたりを鼻でせせら笑った。

「ふん、俺からこれを奪い取れると思っているのか?」

 ラー・キンムーが恍惚の表情を浮かべて言った。

「お前はつまらん小僧だが、ひとつだけ素晴らしいことがある。それは、お宝を持っているということだ!」

 ラー・キンムーが言うなり、凄まじい勢いで俺に襲いかかってきた。

 俺はすぐに蒼龍槍を後ろ手に引いて構え、間合いをはかる。

 ここだ!

 俺は力強く蒼龍槍を前に出す。

 と、ラー・キンムーが待っていたかのように上に向かって跳び上がった。

 蒼龍槍が空を切る。

 と、その後ろにモー・キンムーが!

 上からラー・キンムー、目の前にはモー・キンムーという二段構えの攻撃が迫る。

「死ねい!」

 ラー・キンムーが上から真っ直ぐ指を伸ばした手刀でもって、俺を指し貫こうと試みる。

 俺はすんでのところでそれを、ダッキングしてかわした。

 頭のすぐ上をラー・キンムーの手刀が通り過ぎる。

 だが目の前にはモー・キンムーが、俺の動きを予測していたかのように下段蹴りを繰り出していた。

 俺はその足を、蒼龍槍で薙ぎ払おうと渾身の力でもって横殴りした。

 すさまじい衝撃音と共に、モー・キンムーの右足が砕けた。

 モー・キンムーがたまらず絶叫した。

「おのれ!」

 弟の仇とばかりに、ラー・キンムーが踵を返して俺に襲い掛かる。

 俺はすぐさま立ち上がり、振り向きざまに蒼龍槍を振るった。

 再びの衝撃音が鳴り響く。

 蒼龍槍はラー・キンムーの脇腹にめり込み、肋骨数本を葬った。

 ラー・キンムーのけたたましい悲鳴が上がる。

 俺は肺腑の中の空気を一気に吐き出した。

「ふう~」

「やりおるの。さすがじゃ」

 俺の背から、バーン翁が語りかけていた。

 俺は振替し、肩をすくめてみせた。

「なあに、大したことじゃないさ」

 バーン翁が相好を崩した。

「そうかそうか。だがなかなかの相手だったとは思わないか?」

 これには俺もうなずくしかなかった。

「ああ。こいつら、Sランクだと思う」

 バーン翁がうなずいた。

「うむ。野良のSランクじゃな」

「Sランクってのは、数が少ないんじゃなかったのか?」

 俺が抗議するように言ったことで、バーン翁が笑みを見せた。

「わしのせいじゃないんだから、文句を言うな」

「でもさあ、三人もだぜ?たぶんSランクっていっても、ぎりぎり合格ってところだと思うけど、それにしてもだぜ」

「まあそれに関しては、わしも興味津々じゃ」
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