盗賊に誘拐されました。

曼珠沙華

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「ごめんねぇ。リンちゃんの国、滅ぼしちゃった」

心臓が冷たくなった。
目の前が暗くなる。

滅んだ?
カリム国が?


「大人しく俺にリンちゃんをくれればよかったんだよ。そしたら国も、兵も、民も無駄な犠牲を出さずにすんだんだ」

「ひどい……」


「あーぁ」とアゲハは肩をすくめた。


「知られたくなかったんだけどなぁ、こんなこと。だから盗賊のリーダーとしてリンちゃんに惚れてもらおうと思ってたのに。そしたらとんだクソ王子の邪魔が入るしさぁ」

「邪魔とは心外だな。返してもらっただけだ。俺の花嫁を」

「女装趣味の変態野郎にリンちゃんを渡せるかよ」

「いつから気付いていた?」

「最初から怪しいとは思ってたよ。密偵を動かしてみりゃ、まさか正体はハーツだとは。ガキの時会ったきりだから顔が変わってるのは当然だけど、まさか女装して潜入してくるとはねぇ」

「俺もてめぇが盗賊なんかに成り下がったのかと驚いたぜ」


勝手に繰り広げられる会話。
ぼろぼろと涙がこぼれた。

会いたい。
お父様。
お母様。
お兄様。

「お父様たちは?どこにいるの?」

アゲハがそういえばと思い出した顔をした。

「あぁ、それね」

にんまりと笑みを向けられる。

まさか……。

「ちゃーんと生きてるよ。リンちゃん」

「よかっ……」

「だって、大事な人質だもん」

「え……」


人質?


「どういうこと?」

「さて、リンちゃん。これからどうしよっか」

「これから?」

「俺のお嫁さんになってくれる?」

「そんなの……」


はっとした。
アゲハの意図に気付く。

にぃっと不気味な笑みを浮かべる。

「リンちゃんの家族は俺の手の中。もうほとんど国は滅んでるけど、生きている民だってまだたくさんいる。どうする?兵は壊滅的だけど、まだ戦争続ける?」


全ては私の返答次第。


「アカツキ国相手に戦争か。これは骨が折れるなぁ」

ハーツの呟きは、私にはもう選択肢が一つしかないことを物語っていた。


アゲハが手を差し出してきた。

ずっと守られ続けてきた私。
今度は私が守らなきゃ。

恐怖と不安で震える手を、私はアゲハに差し出した。
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みんなの感想(1件)

ななし
2021.08.12 ななし

可哀想な終わり方でしたね😞
せめて酷い事はされませんように🙏

解除

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