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28 告白

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「俺の事が許せませんか?」

 切なげに眉を寄せて私を見つめる晴人さんに、私は返す言葉が思いつかなかった。

 元々この件に関してそこまで怒っていないのだ。
 私は既に彼の事が好きになってしまっている状態でいつまでも根に持てる程私の貞操観念は強くない。処女というわけでもないし。
 ただ訳がわからないまま、彼の番という事になっているのが解せなかっただけだ。

 でも、だからこそ確認しておきたい事がある。

「晴人さんは、どうしてそんなに私を番にしたいの?」

 去勢手術を受けて、異性に淡白になっていた晴人さんが、会ったばかりの私を恋人ではなく番にしようと思ったのは何故なのか。

 メーちゃんに聞いた話だけれど、番承諾書は一生に一度しか申請出来ない。
 だから番となってしまえば一生別の伴侶を持てないという事だ。基本獣人にとって番は一人しか存在しないのでそれで問題は無い。
 だが、私達は本当の意味での番ではない。
 もし晴人さんに心変わりが訪れたら後悔する事になるのだ。
 更に言えば私の同意が得られていない状況で無理に番になっても上手くいく保証は全く無いし。
 
 そんなリスクがあるにも関わらず、会って二度目で番にしたいと思う程私が魅力的に映ったというのは考えにくかった。
 悲観している訳ではなく。
 単なる事実として、彼に袖にされてきたであろう女性と比べて私に突出したものがあるとすればそれは何なのかが分からないのだ。

 晴人さんの意図を探るように見つめていると、頰をするりと撫でられ、そのまま角度を変えるように覗き込まれた。
 意図が分からず首を傾げそうになるが、それをすると振り払うような状態になるので躊躇われてされるがままだ。
 キスをするわけでもなくただ見つめられるというのは何だか気恥ずかしい。

「瑠璃さんの瞳って綺麗ですよね。多分名前の由来はこの瞳なんだろうなって思います」

 突然瞳について言及されて戸惑う。
 私の瞳の色は少し変わっていて、近くで見ると黒目の部分が青みがかっているのだ。
 極至近距離で見ないと気付かないレベルなので、知ってるのは両親以外だと絵里奈やメーちゃんのような極親しい人達だけだ。

「この瞳で真っ直ぐに見詰めながら楽しそうに笑う姿に魅せられてしまって、ずっと見つめ合って生きていけたらと思ったら堪らなくなったんです」
「そ、そうなんだ」

 火傷しそうな程熱い視線が注がれて頬が熱くなる。
 好きな人にここまで言われて嬉しくないわけがない、ここは私も告白すべきかと口を開いたところで、晴人さんが更に畳みかけるように繋げた。

「同時に焦燥感を抱きました。獣人である俺が、獣人を恋人にしないと決めている瑠璃さんに番になって貰うにはそれなりの時間がかかります。でもぐずぐずしていればすぐに別の男が現れてしまうでしょう。だから既成事実を先に作ろうと思ったんです。案の定結婚式の二次会では人間の男に誘われてましたしね。油断も隙も無い」
「……」

 急に冷たいオーラを放ち始めた晴人さんに戸惑ってしまう。
 やはりあの二次会の夜に晴人さんが表れたのは偶然では無かったようだ。

「獣人の番になると、番の方も他の異性を避けるようになるという噂がありまして、そうなれば良いともう一度抱きました。何年かかっても傍にいるのが俺だけなら、いずれ俺の想いに応えて貰える日が来るかもしれないと……」

 あの日、佐加野君に触れられそうになった時思わず振り払ってしまったのはもしかしてその所為か。気付いていなかっただけで私の身体は晴人さんの番になってしまっているのかと狼狽してしまう。

 しばし訪れた沈黙を再び破ったのは、晴人さんだった。

 晴人さんの腕が私の背に回り、額が触れ合わせられる。
 私の身体の負担を考慮してか、全く力が籠っていない。私が少し身をよじれば簡単に振り払えそうな状態だ。
 焦点が合わない程の至近距離で感じる晴人さんの少し低い体温と、緊張を伝えて来る早鐘のような鼓動、そして流し込まれるような穏やかな低い声。全てが私の心をくるりと包み込んでくる。

「瑠璃さんが、好きです。一生傍に居て欲しいんです。本当の意味で俺の番になって貰えませんか」

 

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