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16 入院しました

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 私は朦朧とした意識が何度も浮き上がるような経験をした。
 浮き上がる度に涙に濡れたメーちゃんだとか、それを宥めるハヤッチだとか、悲痛な顔をした絵里奈の顔が目に入るのだから勘弁して欲しい。
 遠方の実家で忙しく過ごしている筈の両親の姿もあった。なんだか申し訳ない。

 何より辛いのは、殆どの場面で必ず晴人さんの姿があって、彼はいつも辛そうに私の手を握っている事だ。

 駄目、駄目だ。獣人を恋人にしないと決めたじゃないか。

 そんな、顔をして、私を見ないで……。







「はっ痛っつーーーー……」

 深海の底から水面に顔を出したような感覚で意識を取り戻した私は、飛び起きようとして全身の負傷を思い出した。強烈な痛みに悶えている私に、焦ったような声が掛かる。

「動かないで! 肋骨が折れてるんですよ」

 痛みで滲んだ涙をタオルでポンポンと当てるように優しくふき取ってくれたのは、やはりというか晴人さんだった。

 周囲を確認すると、真っ白なシーツの敷かれたベッドが2台しか置かれていない部屋で、私の身体に点滴が繋がっている。
 私は廊下側のベッドに寝かされていて、窓際にある方のベッドには誰もいない。
 枕元ベッドサイドには一台に一つずつ、窓側に机も兼ねた収納が置かれている。机の上の収納には、私の方にはテレビが置いてあり、もう一方には何か書類が積み上がっている。ベッドの間には折り畳みタイプの椅子がいくつか置かれていて、晴人さんは机のすぐ側の私の胸元辺りの位置で腰掛けている。
 足元の側の壁には時計があってお昼過ぎを指していた。

 部屋の様子はぱっと見で病室のようだなとおもったけれど、個室でも大部屋でも無い二人分の部屋というのが不思議な感じがした。

 私の全身はガーゼと包帯に覆われていて、まさに満身創痍といった様子だ。足も、かろうじてギプスまでは嵌っていないけれど、器具で固定されていて、動かすなと無言で主張している。
 頬にもガーゼがついていて、口の中も切っているようだ。鏡で見たらきっと酷い顔になっていそうで怖い。





 晴人さんによるナースコールで呼ばれて来たのは犬獣人のお医者様だった。後ろに猫獣人の看護婦さんを連れている。
 状況が許せば悶え転がりたいような萌える光景なのに、悲しいかな、私は身動ぎすら痛みを感じる状況だった。

「やぁ、結菜さん、目が覚めて良かったよ。晴人君、良かったね」

 40代半ばといった頃の美丈夫なお医者様は柔和な表情で診察ついでに、私の身体の事や事件の顛末などを語ってくれた。

 私は全治二ヶ月の大怪我たった。
 ゆりなにやられた怪我は思った以上に酷くて、肋骨の一部が折れていたのだ。
 足もヒビが入っているらしい。
 お陰で熱が出て既に1週間程昏睡していたそうだ。

 ゆりなは殺人未遂の罪で獣人警備室が拘束し、連行したらしい。

 身体能力が高くて、常人の手に負えないような獣人が罪を犯した際に出動するのが獣人警備室で、獣人逮捕において警察と同等の権利を持っているらしい。

 私は獣人の起こした事件の被害者という事で、獣管系列のこの病院で無料で治療が受けられる事になっているとのこと。

 獣管マジで手広いね。

「痛み止めを追加しておくから、なるべく安静にしてね。では、また何かあったら呼んでね。晴人君、よろしくね」
「あ……」

 晴人さんと二人きりにしないでと言いたいが、忙しいお医者様を呼び止める程の理由が思いつかないでいるうちに出ていってしまった。

 そして、サイドの机には看護婦さんによって持ち込まれたお粥が一膳。

 私はほぼ身動きが取れない……となれば。

「はい、瑠璃さん、あーんして下さい」

 やっぱりかー!

 とても良い笑顔でレンゲを差し出す晴人さんに、私はげんなりとした視線を向けた。
 

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