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14 暴行

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「起きなさいよっ」

 突然頰を引っ叩かれた衝撃で目が覚めた。

「ん、んーん!?」

 飛び起きようとしても身体が全く動かず、口には布が噛ませられていて喋る事も出来ない状態にされていた。

 周囲を見回すと、だだっ広い廃墟のような場所だった。瓦礫と埃にまみれた地面に無造作に横たえられている。
 窓も無く、無造作に吊り下げられた投光器が唯一の明かりだ。

 身体を見下ろすと、胸の下で組まされた腕も脚も白い糸でぐるぐる巻きになっていて、まるでエジプトのミイラみたいな状態だ。

 そして私を無表情に睥睨するゆりなさんの昏い光を灯す瞳に、私は全身から震えが走った。

「一体どんな手で晴人を誘惑したのかしら、この胸なの!?」
「んー!!」

 ゆりなさんの小さな手が尋常ではない力で乳房を鷲掴みにしてきたので、鋭い痛みが走ったが、悲鳴は布に吸収されて声にはならなかった。

 そのまま服を掴み上げられて私は仰け反るような体制でされるがままにその辺に無造作に放り投げられ、腹部を足蹴にされてくぐもった声でえずく。

「んぐっぐふっげふっ」

 息が十分に吸い込めないことも相まって朦朧とした視界の中で見上げたゆりなの顔は、まるで悪魔のように見えた。

「何よその顔。気に入らないわ!」

 また頰を張られて、痛みも強いが衝撃で耳までキーンとして頭までクラクラした。

「晴人が助けに来るなんて思わない事ね! 晴人は私の番なのよ。晴人だって私の事を認識してる筈なのに、お前を恋人にする筈は無いわ!」

 そう、晴人さんが私を選ぶ事はありえない。

 私はヒューマ。

 獣人の中の人間の要素と、普通の人間の要素だけが絡み合って産まれた。地球全土を合わせても珍しい100パーセント純粋な人間だから。











 獣人の番が決まるには大事な要素がある。

 それは、体内に相手の獣人と同じタイプの獣遺伝子を内包している事。

 だから、メーちゃんも、一見普通の人間に見えて狼の遺伝子を持っているという事だ。

 勿論他にも色んな要素が加わって番は決まるらしいが、基本の大前提はそこにある。

 そして、その中で100パーセント人間である私は獣人の、晴人さんの番である事はありえないのだ。












 ゆりなは私を限界まで痛めつけたいらしく、その後も殴る蹴るを続けた。しかも、適度に手加減をしているようでギリギリ意識を失えないのが余計に苦しい。

 痛い。痛い。身体も痛いけど心も痛い。

 どうして、私がこんな目に遭わなくてはいけないの!?

 散々殴る蹴るをしたゆりなは、また私の胸倉を掴んで壁際に寄せた。
 そこは折れた柱が斜めに内側に倒れそうで倒れていない不自然な空間だった。

「ここね、10年位前に閉店したショッピングモールなんだけど。取り壊すにも再建するにも買い取り手が無くて放置されていたの。それが、2年前の地震で手抜き工事だった部分が一部崩落しちゃってどうしようもなくなったのよね」

 私は背筋に寒気が走った。
 ゆりなは私をここに放置していく気でいると察知したからだ。

 こんな場所でこんな格好で放置されたら、私は遠からず死に至る。それは餓死かもしれないし、水分不足による衰弱死かもしれない。この傾いた瓦礫の崩落による圧死もあり得る。

 そして、いつか発見された時には恐らく私は白骨化している。
 もしかしたら瓦礫ごと誰にも気付かれないで跡形もなく撤去されるかもしれない。

「んー! んんー!!」

 私は必死に身体をくねらせて糸を解こうとくねらせたが、全く緩む気配がない。
 むしろ粘着質な糸がどんどん絡まって身体を強固に搦め捕っていく。

「さよなら、結菜瑠璃。恨むなら浮気な私の番を恨むのね」

 そして、ゆりなが背を向けた瞬間、支えを失ったように瓦礫は勢い良く私の方へと傾いてきた。

 固く閉じた瞼の裏に浮かんだのは、晴人さんの優しい笑顔だった。







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