16 / 22
第15話 度胸と機転
しおりを挟む「しかしな、サヤ。本当に我等は感謝しておるのだ。」
若様が座りなおした。
「我等三人、そなたにほれ込んだのは、その度胸と機転よ。」
「何もしちょらんですが・・・。」
「そなたの椀から溢れでるものは傷を治すと同時に毒も抜くのではないか?」
「よく分からんけど、あの娘もそう言っちょりました。」
「あの娘とはあなたの器の精ですね。」
ロクロウが優しく問いかけた。
「賽の白露・・・という名前らしいです。異国のものやろか?」
「私の扇は、姉(レア)と妹(ラケル)ですよ。」
「そなたの宝、賽の白露は解毒もできると。」
「はい。」
「それで、私が毒で川の中に倒れた時、若に駆け寄り抱き起しながら反対の手でお椀を、その賽の白露を川につけ続けた。」
「はい」
「あなたの器から溢れる回復の水が私に触れることを見越して?」
ロクロウがズイッと身を乗り出した。
「賽の白露は川の水全部をその力に変えられるって言うから、じゃそうしてって頼みました。」
「ためらわずにか?」
若様が目を細くする。
「はい、ウチ自身ができると思ったし賽の白露は信じられるから。」
「直感ででしょう?」
ロクロウが右の手のひらで顔を覆った。
「もちろん」
「こりゃ敵わん。強いわ。」
若様は天井を見上げた。視線を外すように。
「私は毒で意識が遠のく中、お二人の方から流れてくるキラキラと光る水を飲みこんだように思います。そして城で気が付いた。助かったのはそれが理由ですね。後遺症もない。」
「あともうひとつ聞きたい。」
若様が話を変えた。
「戦いの最中、余裕がなかったので確認が遅れたのじゃが、仇花の首を落としたのは、そなたの懐剣ではないのか?」
「はい、紅玉の瞳です。」
若様はフト考えてサヤに訊いた。
「その娘とはどういう事を話したのだ?」
「ウチが何か力になれんか考えちょったら、あの娘がお花は斬れる。斬らせてくれと言いました。」
また若様の目が細くなる。
「斬らせてくれだと・・・?」
若とロクロウは目があった。
「女王が石に苦しめられているから、お救いせねばと言ってました。」
サヤは突拍子もないことを言う。
「女王を救う?・・・それで、ユウジに懐剣を託したのか?」
「はい、カタキ様なら切ってくれると思ったから。」
「若、いろいろと検証すべきことがあります。」
「ああ、まったく分からんからな。・・だがその紅玉の瞳はユウジと共に落ちたな。」
「では、こちらに残ったのは、沖殿の槍帝の孚とその賽の白露ですね。」
「ねえですよ。」
「何が?」
「賽の白露」
「何で?」
「川に投げました。」
「はあっ?」なんじゃと!?」「ええーっ!?」
あちらこちらから声があがった。
皆、何と言って良いか。
若様が口を開いた。
「サヤ、理由を聞こう。」
「はい、あの娘に片城様の命を救ってもらうためです。」
彼女は臆面もなくキッパリと言い放った。
皆、また何と言って良いか、黙ってしまった。
「私が気が付いた時、サヤ殿はひとり賊と対峙しておりました。」
沖が、ゆっくりと話しだした。
「我を抱えてか。」
「はい、若様を抱き抱え、末期の水をあげるのだから待てと賊に啖呵をきっておりました。」
「なんとまぁ、肝の据わったことよ。」
ジカイ和尚が髭を撫でている。
「そこで、我に回復の水を与えてくれたのだな。」
「はい、自分が手にかけた者を人として扱わぬ者はケダモノだと。」
「そんな話を賊が聞くかぁ?」
「若、それは無理でしょうな。私がひとり斬りましたが、腕前からして相当できる統制の取れた者どもです。ためらいはしますまい。」
ロクロウもあの夜のことを思い出しながら話している。
「しかしながら、奴らはひるんだのです。」
「ほう」
「そして、賊の中の一人がサヤ殿の椀が宝だと叫びました。」
「そこで、沖、そちの登場か?」
「はい、仇花のツボミにまともに当たった時、脳みそが揺れたようでしばらく何が何やら。面目次第もございません。」
沖は面を畳に伏せた。
「良い。そちのおかげで皆生きておるのだからな。」
「沖様はぁ、一生懸命敵を追い払ってくだせえました。」
サヤが若様、怒らないでという顔をしている。
「サヤ、叱りなどはせぬよ。できるものか。それよりものう。」
「敵の目的が宝であったということですよの。」
ジカイ和尚はまだ髭を撫でている。考える時のクセらしい。
「さぁて、どこの手の者か?東の結綱の寿八馬かぁ・・・」
若は東にあるかつての大国、寿八馬氏が気になるらしい。
「あるいは西の渡上の国の虎河か。」
御蔵奉行が初めて口を開いた。
「どうしてその線だと思う?奉行よ」
「両国とも我が国と同じくかつては海に接する領土を持ち、共にク海の浸食で侵されそれを失ってまいりました。田畑は沈み食物は取れぬことは同じ。たた渡上の国に目を向けるならば、領主の虎河は商売と軍備に力を入れておりまする。」
「我と同じことを考えておるか?」
若様の目が光を帯びる。
「暗中模索の段階でしょうがな。」
ジカイ和尚は髭を撫でていなかった。
「まぁ、それはあの者に訊いてみよう。」
「あの者?」
サヤはポカンとしている。
「川原で私が一人、賊を斬ったでしょう?あの者は生きております。」
「大江様、斬り殺しちょらんと?」
サヤの顔が赤みを帯びた。
「あの者、どこに倒れていたと思います?私の隣ですよ。」
「ああぁ、良かった。」
そしてサヤは何も死ぬことはないとつぶやいた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる