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第8話 花と囮
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しばらくの休憩の後、
「さて、ちと調べてみるかの。ロクロウ。」
若様とロクロウが立ち上がった。
先ほどの犬モドキの死骸のもとへ歩いていく。
三人も後に続いた。
「あぁコレ、やっぱり斥候じゃな。鼻が利くヤツじゃ。」
木の棒で突っつく若様。
「いかにも。」
「核はどうじゃ、取り出せるか?」
ロクロウは、躊躇なく事もなげに犬モドキの胴体らしき部分に短刀を差し込みザックリ割った。
「ああ、これは片城殿の刀で砕かれておりますね。無理です。はい。」
「じゃ、頭だけ和尚に見せようか。残りは回収して研究材料じゃな。あと、二人の折れた刀もすべて拾っておけ。強度の計測も追及したい。」
「承知しました。人を呼んで運ばせます。」
三人は何のことか分からず、黙っているしかない。
「こらユウジ、普通の刀でアダケモノの石の心の臓を砕いたのか?」
「いや・・あの・・申し訳ありませぬ。砕いて・・しまったようです。」
若様はしゃがんで犬モドキのいろんな部分を棒で突っついて観察している。
「あのな、相当上手くやらねばここまで刀は入らぬし、普通この化け物の心の臓は砕けん。無茶をするものだ。偶然か?腕か?」
若様の目が細くなった。
「腕なれば、嬉しゅうございます。」
「アホウ!そちはこんまい頃からお調子者で無茶をする。・・まぁ剣の修練は怠っていないようだな。生きていたこと、褒めて遣わす。」
若様は立ち上がり、三人に向き直り
「大体のことは分かった。今日のことはすまぬ。我の落ち度だ。」
頭を下げる若様に三人は突然のことで言葉に詰まった。
サヤなどおろおろしている。
「本来なら、サヤは寺に泊めるはずだったのだ。獅子谷村の者と分かった時点でな。ただちょっとした隙にサヤが帰ってしまい、なんと二人がそれを追いかけた。」
三人がうなづく。
すると若様は
「それがいけなかったのよ。」とポキッっ枝を折った。
ユウジはふと思っていたことを口にした。
「臭い・・で、しょうか?」
「ほう、そちは何故そう思う?」
若様の目がさらに細くなる。
「住職殿がサヤ殿に、今日は宝に触れているので嗅ぎつかれなければ良いのだがと仰ったのを聞いてしまったからです。」
若様がポンっと木の棒を投げ捨て、
「それは正しい。ここ数年、ク海の様子が変わってきていてな。ク海面の上昇についても新たな情報が入ってきている。そち等も知るとおり、我の名はシロウ、重家の四男じゃ。政と戦に忙しい兄上方の代わりにこの国のク海への対処を受け持っておる。」
「ク海とこの犬の化け物にはどんな関係が?」
今まで鷹揚であった若様の顔つきが変わっていた。
「そこよ。話はここからじゃ。ク海は海面を上昇させ人間を追い出そうとしておる。その海面が上昇するときに、仇花という石の花が現れるのだ。我はそこを起点に海面が上昇すると見ておる。そしてその仇花が現れる前にアダケモノが斥候に出てくるようじゃ。」
「石の犬やった。」
サヤも何か感づいたようだ。
「そう、奴らは宝にも反応する。もともとク海のモノだからかもしれんが、襲って取り戻そうとするのじゃ。だから鼻の利く犬が出てくるのよ。そこで宝持ちが三人もおってみい、どうなるか」
「襲われます。多分。」
「ク海に近づけばなおさらな。」
サヤの様子が先ほどからおかしい。村ののことが心配な様子だ。
「サヤ、ひとまず落ち着いてくれ。村には配下の者を先行させておる。」
「現在のところ、連絡はついておりませんが、手練れの者達です。ご安心を。」
ロクロウも気を遣ってくれている。
若様はグッと身を乗り出した。
「それでな、ここで相談なんじゃが。今、我等は宝臭いどこころか、宝そのものを持っとるもん。」
「そうですよネ。」
三人は顔を見合わせた。
「囮になる!?。」
「そうじゃ。まず、一番に考えなければいけないのは民の安全の確保じゃ。獅子谷村の民に関しては、即刻、城に避難させよと指示しておる。」
若様はサヤを安心させたいようだ。
「仇花というのはな。満月に咲くのじゃ。そして、基本アダケモノはク海面より上、つまり我等の存在できる領域には出てこれないことは経験上分かっておる。そちらの言う犬モドキは斥候のための特別製、仇花の繁殖範囲を広げるため、ク海のフチから少しだけ出てこれるらしい。」
「それなれば、ここはもうク海が近いということですか?」
若様は深く うなづいた。
「次は状況じゃが、現在の所、犬の斥候型との接触が一回。犬というものを模写している以上、群れで行動することも想定せねばならぬ。」
あの石の犬がもっといる可能性がある。
ユウジは思わず喉が鳴ってしまった。
そして犬型は特別製・・・若様の発言は他の型も知っている、存在しているということだ。
「宝を持っている我々は犬のアダケモノから狙われやすい。この場所で襲われたということは、獅子谷村は奴らの行動範囲内だと判断しておく必要がある。どちらにしろ狙われるなら、民から引き離すため、我々が囮となる。」
「それは無論です。しかし・・・」
沖が腰に手をやった。
「丸腰ではの。ロクロウ!」
ロクロウは話の展開を読んでいたように、すでに馬から長い包みを持ってきていた。
「これを・・。」
包みを受け取った沖が
「これは・・あの槍。まさか」
「そちが受け取るはずの宝じゃ。お試しじゃ」
「片城殿にはこれを。」
袋に入っているが、これは・・やはり・・アレなのですね。
「まぁ受け取ってください。」ロクロウはニッコリとして手渡してくる。
そして
「不安でしょうから、予備ですけど。」と刀を一振り用意してくれていた。憎い美人だ。
「それから、サヤさんにはこれも。」
小さな包み、あの懐剣だ。
「いざという時はないようにしたいのですが。」
ロクロウはフフフと笑う。
「サヤ、すまぬが村にはすぐには帰せぬ。」
「若様、ウチ・・村の為なら、囮でも何でもします。」
「分かった。その意気や良し。それでな打開策としての目標だが。」
全員の目が若様に集まる。
「・・・仇花を討つ。」
「さて、ちと調べてみるかの。ロクロウ。」
若様とロクロウが立ち上がった。
先ほどの犬モドキの死骸のもとへ歩いていく。
三人も後に続いた。
「あぁコレ、やっぱり斥候じゃな。鼻が利くヤツじゃ。」
木の棒で突っつく若様。
「いかにも。」
「核はどうじゃ、取り出せるか?」
ロクロウは、躊躇なく事もなげに犬モドキの胴体らしき部分に短刀を差し込みザックリ割った。
「ああ、これは片城殿の刀で砕かれておりますね。無理です。はい。」
「じゃ、頭だけ和尚に見せようか。残りは回収して研究材料じゃな。あと、二人の折れた刀もすべて拾っておけ。強度の計測も追及したい。」
「承知しました。人を呼んで運ばせます。」
三人は何のことか分からず、黙っているしかない。
「こらユウジ、普通の刀でアダケモノの石の心の臓を砕いたのか?」
「いや・・あの・・申し訳ありませぬ。砕いて・・しまったようです。」
若様はしゃがんで犬モドキのいろんな部分を棒で突っついて観察している。
「あのな、相当上手くやらねばここまで刀は入らぬし、普通この化け物の心の臓は砕けん。無茶をするものだ。偶然か?腕か?」
若様の目が細くなった。
「腕なれば、嬉しゅうございます。」
「アホウ!そちはこんまい頃からお調子者で無茶をする。・・まぁ剣の修練は怠っていないようだな。生きていたこと、褒めて遣わす。」
若様は立ち上がり、三人に向き直り
「大体のことは分かった。今日のことはすまぬ。我の落ち度だ。」
頭を下げる若様に三人は突然のことで言葉に詰まった。
サヤなどおろおろしている。
「本来なら、サヤは寺に泊めるはずだったのだ。獅子谷村の者と分かった時点でな。ただちょっとした隙にサヤが帰ってしまい、なんと二人がそれを追いかけた。」
三人がうなづく。
すると若様は
「それがいけなかったのよ。」とポキッっ枝を折った。
ユウジはふと思っていたことを口にした。
「臭い・・で、しょうか?」
「ほう、そちは何故そう思う?」
若様の目がさらに細くなる。
「住職殿がサヤ殿に、今日は宝に触れているので嗅ぎつかれなければ良いのだがと仰ったのを聞いてしまったからです。」
若様がポンっと木の棒を投げ捨て、
「それは正しい。ここ数年、ク海の様子が変わってきていてな。ク海面の上昇についても新たな情報が入ってきている。そち等も知るとおり、我の名はシロウ、重家の四男じゃ。政と戦に忙しい兄上方の代わりにこの国のク海への対処を受け持っておる。」
「ク海とこの犬の化け物にはどんな関係が?」
今まで鷹揚であった若様の顔つきが変わっていた。
「そこよ。話はここからじゃ。ク海は海面を上昇させ人間を追い出そうとしておる。その海面が上昇するときに、仇花という石の花が現れるのだ。我はそこを起点に海面が上昇すると見ておる。そしてその仇花が現れる前にアダケモノが斥候に出てくるようじゃ。」
「石の犬やった。」
サヤも何か感づいたようだ。
「そう、奴らは宝にも反応する。もともとク海のモノだからかもしれんが、襲って取り戻そうとするのじゃ。だから鼻の利く犬が出てくるのよ。そこで宝持ちが三人もおってみい、どうなるか」
「襲われます。多分。」
「ク海に近づけばなおさらな。」
サヤの様子が先ほどからおかしい。村ののことが心配な様子だ。
「サヤ、ひとまず落ち着いてくれ。村には配下の者を先行させておる。」
「現在のところ、連絡はついておりませんが、手練れの者達です。ご安心を。」
ロクロウも気を遣ってくれている。
若様はグッと身を乗り出した。
「それでな、ここで相談なんじゃが。今、我等は宝臭いどこころか、宝そのものを持っとるもん。」
「そうですよネ。」
三人は顔を見合わせた。
「囮になる!?。」
「そうじゃ。まず、一番に考えなければいけないのは民の安全の確保じゃ。獅子谷村の民に関しては、即刻、城に避難させよと指示しておる。」
若様はサヤを安心させたいようだ。
「仇花というのはな。満月に咲くのじゃ。そして、基本アダケモノはク海面より上、つまり我等の存在できる領域には出てこれないことは経験上分かっておる。そちらの言う犬モドキは斥候のための特別製、仇花の繁殖範囲を広げるため、ク海のフチから少しだけ出てこれるらしい。」
「それなれば、ここはもうク海が近いということですか?」
若様は深く うなづいた。
「次は状況じゃが、現在の所、犬の斥候型との接触が一回。犬というものを模写している以上、群れで行動することも想定せねばならぬ。」
あの石の犬がもっといる可能性がある。
ユウジは思わず喉が鳴ってしまった。
そして犬型は特別製・・・若様の発言は他の型も知っている、存在しているということだ。
「宝を持っている我々は犬のアダケモノから狙われやすい。この場所で襲われたということは、獅子谷村は奴らの行動範囲内だと判断しておく必要がある。どちらにしろ狙われるなら、民から引き離すため、我々が囮となる。」
「それは無論です。しかし・・・」
沖が腰に手をやった。
「丸腰ではの。ロクロウ!」
ロクロウは話の展開を読んでいたように、すでに馬から長い包みを持ってきていた。
「これを・・。」
包みを受け取った沖が
「これは・・あの槍。まさか」
「そちが受け取るはずの宝じゃ。お試しじゃ」
「片城殿にはこれを。」
袋に入っているが、これは・・やはり・・アレなのですね。
「まぁ受け取ってください。」ロクロウはニッコリとして手渡してくる。
そして
「不安でしょうから、予備ですけど。」と刀を一振り用意してくれていた。憎い美人だ。
「それから、サヤさんにはこれも。」
小さな包み、あの懐剣だ。
「いざという時はないようにしたいのですが。」
ロクロウはフフフと笑う。
「サヤ、すまぬが村にはすぐには帰せぬ。」
「若様、ウチ・・村の為なら、囮でも何でもします。」
「分かった。その意気や良し。それでな打開策としての目標だが。」
全員の目が若様に集まる。
「・・・仇花を討つ。」
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