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第七話『水の底の誓い』
その11 心臓のちょうど隣
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★第七話『水の底の誓い』
その11 心臓のちょうど隣
teller:竜樹=ウィンゼン
ホイッスルを構えて、少し思考を巡らせる。
脳裏に浮かぶのは、オレにとって兄のような、姉のような不思議な人。
なんて例えは、あの人にとって――椎名=メルロイドこと椎にぃにとって失礼な言葉だって、わかってはいた。
だけど馬鹿にする意図なんて全くない。
オレの、遠くて近い人。
信頼で繋がりあった、オレの心臓の隣にいつだっている人。
椎にぃは、オレにとっては年の離れた幼馴染だ。
同じ町で育って、家も近所の兄弟のような関係。
だけど、オレと椎にぃはまるで正反対の存在だった。
オレは多分、至って男の子らしい男の子なんだろうなあとは思う。
どちらかと言うと活発で、外遊びやスポーツが好きで、物心ついた頃にはいつも駆け回っていた。
そんなオレの面倒を見てくれた椎にぃは、根っからのインドア派。
オレなら数ページもすれば飽きてしまいそうな本の文字列を愛おしそうになぞって、読書を愛して、知識や空想を愛する。
そんな物静かで――なんというか、綺麗な人だった。
いつだったか、椎にぃは自分のことを『中途半端な存在』だと言った。
椎にぃは少し、自分に『男らしい部分』がないことを気にしてるのかもしれない。
確かに椎にぃは少し、言動というか雰囲気が女性的で儚げなところがある。
だからと言って椎にぃに女性になりたいとか、性別を変えたい願望があるわけでもない。
そういうところを椎にぃは自分で中途半端だと思っていて、どこかで劣等感を抱いている、気がする。
だけど。
それってそんなに重要? とオレは思ってしまう。
椎にぃは椎にぃだ。オレが慕っている人。兄のような、姉のような人。
オレを甘やかして、時には窘めて、時にはチョップ付きで真剣に叱って。
保護者のような存在だけど、やっぱり年齢差的にきょうだいみたいで、友達みたいでもある存在。
一言で表せるわけがない、そんなオレの大切な人。
オレはそれでいいと思う。それでいいと、いつか本人に伝えたいと思っている。
椎にぃは最近は女の人と行動することが多い。
だからオレも椎にぃの気持ちに寄り添いたくて今こうして、彩雪ちゃんと六実ちゃんと一緒に行動してみたけど。
――やっぱりオレは、男の子だ。
男だ女だに囚われすぎるのは馬鹿馬鹿しいとわかっている。
けどオレには男であるとう自覚とプライドがあった。
だから。
可愛らしいものは、綺麗なものはオレが守りたい。
それは彩雪ちゃんであって、六実ちゃんであって、でも一番は。
オレの大切な、椎にぃでもあった。
空間に本格的な違和感を感じ、両足を踏みしめる。
そしてオレはホイッスルを握り締め、それを思いっきり吹いた。
「降り臨め! ビッグバンダー・『へーべー』!」
オレの呼びかけに応じるように、ぱちぱちと弾けるような光が周囲に放たれる。
まるで、口の中でパチパチするキャンディみたいな、少し可愛らしい色の光。
オレはもう一度ホイッスルを吹いて、顕現しつつある愛機のコックピットにワープする。
ビッグバンダー『へーべー』。
オレと椎にぃが、このバトル・ロボイヤルで勝ち抜く為の機体。
他の機体に比べて、おもちゃ箱のようにカラフルなカラーリング。
子どもっぽく見えるかもしれないけど、この外見に騙されるようなやつは痛い目を見る……ハズ。
レバーを握り締め、モニターに目を凝らす。
あの追い立てられるような水流が来ているわけではない。
ただ、あの水の中で暴れていた筈の魚型の怪物が数匹宙に浮いていた。
こいつらは単独行動も可能らしい。
隅に隠れていたオレたちを見つけて追ってきたんだろう。
今、この場にファイターはオレしか居ない。
でも。
『……竜樹、聞こえる?』
声が聴こえる。
オレが、一番信じてる人の声。
「バリバリ聞こえるよー、椎にぃ? いきなりごめんなんだけどさ、彩雪ちゃんと六実ちゃんにシールド重ね掛けしておいてくれない? オレだけじゃ二人をきっちり守り切れるかわかんない」
『うん、任せて。……竜樹は戦いに集中してくれて大丈夫だよ』
「――そうこなくっちゃ」
ほら、やっぱり。
椎にぃはいつだって信じられる。
オレは椎にぃの言葉に途方もない安心感を得て。
もう一度レバーを握り直し、モニターを真っ直ぐに見て突っ込んだ。
『へーべー』の両腕部には、筒状の砲が数本取り付けられている。それを空間全部にぶつけるかのように、腕を振り回す。
そうすると筒状の部分からシャボン玉がふわふわと生み出されていった。
それらは魚型のバケモノどもを包み、アンノウンの攻撃性に反応してこれからこっちに攻撃を仕掛けてきそうな箇所をあらかじめ優しく包んでいく。
攻撃の無力化。シールドとは別の上書き。塗り替え。
オレだけのシャボン玉で、空間を支配する。
それがヘーベーの戦闘方法。
全部全部、塗り替えてあげる。
アンノウンの世界、オレの、子どもの想像力で。
オレが自由でいられるのは、椎にぃがきちんと大人をやってくれているから。
椎にぃがいくら自分を卑下しようが、椎にぃはオレにとって誇らしい『椎にぃ』だ。
そして、願わくば。
――オレもいつかは、椎にぃにとって誇らしき弟分になれるよう、オレは戦うんだ。
その11 心臓のちょうど隣
teller:竜樹=ウィンゼン
ホイッスルを構えて、少し思考を巡らせる。
脳裏に浮かぶのは、オレにとって兄のような、姉のような不思議な人。
なんて例えは、あの人にとって――椎名=メルロイドこと椎にぃにとって失礼な言葉だって、わかってはいた。
だけど馬鹿にする意図なんて全くない。
オレの、遠くて近い人。
信頼で繋がりあった、オレの心臓の隣にいつだっている人。
椎にぃは、オレにとっては年の離れた幼馴染だ。
同じ町で育って、家も近所の兄弟のような関係。
だけど、オレと椎にぃはまるで正反対の存在だった。
オレは多分、至って男の子らしい男の子なんだろうなあとは思う。
どちらかと言うと活発で、外遊びやスポーツが好きで、物心ついた頃にはいつも駆け回っていた。
そんなオレの面倒を見てくれた椎にぃは、根っからのインドア派。
オレなら数ページもすれば飽きてしまいそうな本の文字列を愛おしそうになぞって、読書を愛して、知識や空想を愛する。
そんな物静かで――なんというか、綺麗な人だった。
いつだったか、椎にぃは自分のことを『中途半端な存在』だと言った。
椎にぃは少し、自分に『男らしい部分』がないことを気にしてるのかもしれない。
確かに椎にぃは少し、言動というか雰囲気が女性的で儚げなところがある。
だからと言って椎にぃに女性になりたいとか、性別を変えたい願望があるわけでもない。
そういうところを椎にぃは自分で中途半端だと思っていて、どこかで劣等感を抱いている、気がする。
だけど。
それってそんなに重要? とオレは思ってしまう。
椎にぃは椎にぃだ。オレが慕っている人。兄のような、姉のような人。
オレを甘やかして、時には窘めて、時にはチョップ付きで真剣に叱って。
保護者のような存在だけど、やっぱり年齢差的にきょうだいみたいで、友達みたいでもある存在。
一言で表せるわけがない、そんなオレの大切な人。
オレはそれでいいと思う。それでいいと、いつか本人に伝えたいと思っている。
椎にぃは最近は女の人と行動することが多い。
だからオレも椎にぃの気持ちに寄り添いたくて今こうして、彩雪ちゃんと六実ちゃんと一緒に行動してみたけど。
――やっぱりオレは、男の子だ。
男だ女だに囚われすぎるのは馬鹿馬鹿しいとわかっている。
けどオレには男であるとう自覚とプライドがあった。
だから。
可愛らしいものは、綺麗なものはオレが守りたい。
それは彩雪ちゃんであって、六実ちゃんであって、でも一番は。
オレの大切な、椎にぃでもあった。
空間に本格的な違和感を感じ、両足を踏みしめる。
そしてオレはホイッスルを握り締め、それを思いっきり吹いた。
「降り臨め! ビッグバンダー・『へーべー』!」
オレの呼びかけに応じるように、ぱちぱちと弾けるような光が周囲に放たれる。
まるで、口の中でパチパチするキャンディみたいな、少し可愛らしい色の光。
オレはもう一度ホイッスルを吹いて、顕現しつつある愛機のコックピットにワープする。
ビッグバンダー『へーべー』。
オレと椎にぃが、このバトル・ロボイヤルで勝ち抜く為の機体。
他の機体に比べて、おもちゃ箱のようにカラフルなカラーリング。
子どもっぽく見えるかもしれないけど、この外見に騙されるようなやつは痛い目を見る……ハズ。
レバーを握り締め、モニターに目を凝らす。
あの追い立てられるような水流が来ているわけではない。
ただ、あの水の中で暴れていた筈の魚型の怪物が数匹宙に浮いていた。
こいつらは単独行動も可能らしい。
隅に隠れていたオレたちを見つけて追ってきたんだろう。
今、この場にファイターはオレしか居ない。
でも。
『……竜樹、聞こえる?』
声が聴こえる。
オレが、一番信じてる人の声。
「バリバリ聞こえるよー、椎にぃ? いきなりごめんなんだけどさ、彩雪ちゃんと六実ちゃんにシールド重ね掛けしておいてくれない? オレだけじゃ二人をきっちり守り切れるかわかんない」
『うん、任せて。……竜樹は戦いに集中してくれて大丈夫だよ』
「――そうこなくっちゃ」
ほら、やっぱり。
椎にぃはいつだって信じられる。
オレは椎にぃの言葉に途方もない安心感を得て。
もう一度レバーを握り直し、モニターを真っ直ぐに見て突っ込んだ。
『へーべー』の両腕部には、筒状の砲が数本取り付けられている。それを空間全部にぶつけるかのように、腕を振り回す。
そうすると筒状の部分からシャボン玉がふわふわと生み出されていった。
それらは魚型のバケモノどもを包み、アンノウンの攻撃性に反応してこれからこっちに攻撃を仕掛けてきそうな箇所をあらかじめ優しく包んでいく。
攻撃の無力化。シールドとは別の上書き。塗り替え。
オレだけのシャボン玉で、空間を支配する。
それがヘーベーの戦闘方法。
全部全部、塗り替えてあげる。
アンノウンの世界、オレの、子どもの想像力で。
オレが自由でいられるのは、椎にぃがきちんと大人をやってくれているから。
椎にぃがいくら自分を卑下しようが、椎にぃはオレにとって誇らしい『椎にぃ』だ。
そして、願わくば。
――オレもいつかは、椎にぃにとって誇らしき弟分になれるよう、オレは戦うんだ。
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