上 下
63 / 104
第五話『ハロウィン・シンドローム』

その9 ニンゲンどものオマツリ

しおりを挟む
★第五話『ハロウィン・シンドローム』
その9 ニンゲンどものオマツリ

teller:陽輔ようすけ=アイバッヂ

 ――さあ、お祭りを始めよう。
 彼女のような痛みも苦しみも、何も持たないオレだから、からっぽみたいなオレだから。
 だからこそ、オレの手で――オレの楽しいこと全部、作るんだ。





 綾音が端末で提供してくれたアンノウン情報によると、今回のアンノウンには母体が居る。
 ウィルスの感染源。そいつを倒せば、他のウィルスも死滅して全てのウィルス型アンノウン撃破に至れるらしい。
 ただ、テーマパークエリア内のあちこちをウィルス感染した人間がうろついているから、そう簡単には母体まで辿り着けない。オレらビッグバンダーのサイズなら、特にだ。混乱が起きてしまう。
 それでいて、なるべく被害を最小限に抑えたい。これ以上感染者を出すことは避けたい。
 ――と、なると。
 作戦は、とっくに決まった。





 人々が、逃げ惑っている。
 悲鳴を上げて、絶望した表情で。
 そんな彼らを容赦なく追い詰める、感染者たち。
 ゾンビ映画の一幕のような地獄絵図が、テーマパークエリアの一端において繰り広げられていた。
 やがて逃げていた人々が行き止まりにぶち当たる。

「おい、行き止まりだぞ!!」

「くそっ、そっちからも来てるってのに!!」

「いやぁっ、来ないで、助けてぇ!!」

 怒号、悲鳴、様々な叫び声が上がる。
 それらを糧にするように、感染者は、お仲間を増やそうとゆったりとした動きで手を伸ばし、涎が滴る口を開ける。
 逃亡していた人々がほとんど集団になって行動していたから、感染者もそれに倣ってこの一箇所に集中していて。
 やたら人口密度が高いその場所で、惨劇が今まさに幕を開けようようとしていた――その時、だった。

「はーーいっ!! 注目注目ーーっ!!」

 ばん、ばん、と花火が撃ち上がる。
 カラフルな、ホログラム映像で作られたあくまで演出用の光。
 人々の視線が、感染者の視線が、花火の先に集まる。
 その先に居るのは、勿論、オレの乗るアメノウズメ。
 ついでにホログラム映像としてスモークが上がる。
 完全にオレが主人公、みたいな状況にテンションが上がって、オレは明るく名乗りを上げた。

「陽輔=アイバッヂの楽しい楽しいショータイムはっじまりはじまりー!! ゾンビさんも、ニンゲンさんも、面白おかしくド派手に、このお祭りを楽しんじゃいましょー!!」

 花火が撃ち上がる。
 光が、音が、色が、世界を照らす。
 それは地上の地獄さえ無視すれば、テーマパークの公式イベントのような華々しさだった。
 感染者たちが――その中のアンノウンたちがオレを見ていることを確認し、オレは笑う。

「あ、ちなみにさ。ニンゲンさんたちっていうの、あんたら認識カン違っちゃってるよ?」

 オレがそう言った、その瞬間。
 特に音もなく、何の演出もなく。
 逃げ惑って追い詰められていた一般人集団の姿が、ふっと突然に消えた。
 反射的に感染者たちは驚いたように顔をそちらに向けるが、そこには本当に、誰も居ない。静かな空間。
 オレは狼狽える感染者の姿を見下ろして、思わず高らかに笑った。

「あっはは! ようやく気付いた? さっきまであんたらが追いかけてた人たちは、ホログラム映像で作ったニセモノのニンゲン! この花火やスモークと同じモンだよ! 他の一般人はとっくに避難してる。アンタらは釣られちゃったんだよ。――オレの相棒は、優秀だからね!」

 人々のホログラム映像も、オレに視線を集める為のホログラム演出も、全部全部綾音に頼んでプログラミングしてもらった。
 オレを目立たせる演出については、綾音には『ここまで派手にすることない』って文句は言われたけども――そこはまあ、楽しい方が良いってことで。

「さて。じゃあここでようやくホンモノのニンゲンさんたちの登場だぁ! みんな、出ておいで!」

 オレがコックピット内でぱん、と手を叩くと、それに呼応するように、物陰から一人の落ち着いた雰囲気の青年が飛び出し笛を吹いた。
 逢良あいら=シャーウッド。
 オレと同い年の、友達。

「――降り臨め、デーメーテール」

 逢良の笛の音と共に、スパークのような光が周囲に走り、彼のビッグバンダーが顕現する。
 鉈を携えた、頑丈そうな装甲のビッグバンダーだ。

「あっ、ずりぃ! 出遅れた! 安澄あすみ、急げ急げ! フラれ四天王が揃えない!!」

「だから俺はフラれてねえって言ってんだろうがバカ!!」

「――いや、俺もフラれてねえよ?」

 わちゃわちゃと話しながら、ホープ=ラッセルの『オオクニヌシ』と安澄あすみ=ジョンストーンの『タルタロス』も到着する。
 フラれ云々に安澄がキレて、逢良が冷静に物申す。
 全員面白い、オレの友達。
 友風ともかぜ相世あいぜは別エリアで自分たちのファイターをサポート中。
 で、モニターによると肝心の母体が釣られたのは――オレたちが居る、この場所。

「はいはーい、ニンゲンさまたちご到着っ!! 友情パワーで勝っちゃうぜ!! 綾音綾音、母体反応にマークつけといて!!」

「はいはい、もうやってるから」

 通信越しにお願いすると、綾音の呆れた声が返ってきた。
 モニターに表示された母体反応の印。
 ウィルス型アンノウンを倒す方法は、母体に感染した人間の中に居るアンノウンを斬ること。
 そして、オレの武器の日本刀と逢良の武器の鉈には既に、サポーターによる『アンノウンにしか攻撃が効かない』支援が付与されている。
 『母体』と目が合ったオレは、にっと笑って――。

「さあ! こっからがお祭りの始まりだ!!」

 アメノウズメを、地上に降下させる。
 感染者の集団が行く手を阻もうとしたが、ホープが固有武器のシールドを張って上手く妨害。
 時には安澄が『タルタロス』の腕部を振り回して人々を蹴散らした。そいつは乱暴すぎると思うけど。
 オレと逢良は、『母体』に向かって突き進んで行く。
 そうして、それぞれ日本刀と鉈を構え――。

「食らえっ! 必殺・『超絢爛・快刀乱麻』――……ってあれ?」

 勢いの向くままに自慢の必殺技名を叫んだその時。
 無言で逢良が、とっとと母体を斬り倒していた。
 感染者たちが、一斉に倒れ始める。
 モニターからアンノウン表示が一斉に消える。
 安澄が蹴散らした人たち以外は……大体無傷だと思う、多分。
 …………え、ウソ、終わり?

「ちょ、逢良ー!! いいとことだったのに!! 空気読んでよ!!」

「いや、空気読んでちゃちゃっとたたっ斬ったんだよ。とっとと事態収めないとヤバかったろ」

「悔しい!! まともなこと言ってるから反論できねぇ!!」

 機体ごと崩れ落ちるオレに、機体越しに逢良の冷めた視線を感じる。
 ……まあお祭りの終わりは、いつも呆気なくて寂しいもんなあ。
 なんて、勝手に自分を納得させた。
 こうして無事、テーマパークエリアのひと騒動は一旦は解決したのである。
 …………やっぱ良いトコ、逢良にもってかれたの悔しいけど!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...