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第五話『ハロウィン・シンドローム』
その9 ニンゲンどものオマツリ
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★第五話『ハロウィン・シンドローム』
その9 ニンゲンどものオマツリ
teller:陽輔=アイバッヂ
――さあ、お祭りを始めよう。
彼女のような痛みも苦しみも、何も持たないオレだから、からっぽみたいなオレだから。
だからこそ、オレの手で――オレの楽しいこと全部、作るんだ。
○
綾音が端末で提供してくれたアンノウン情報によると、今回のアンノウンには母体が居る。
ウィルスの感染源。そいつを倒せば、他のウィルスも死滅して全てのウィルス型アンノウン撃破に至れるらしい。
ただ、テーマパークエリア内のあちこちをウィルス感染した人間がうろついているから、そう簡単には母体まで辿り着けない。オレらビッグバンダーのサイズなら、特にだ。混乱が起きてしまう。
それでいて、なるべく被害を最小限に抑えたい。これ以上感染者を出すことは避けたい。
――と、なると。
作戦は、とっくに決まった。
○
人々が、逃げ惑っている。
悲鳴を上げて、絶望した表情で。
そんな彼らを容赦なく追い詰める、感染者たち。
ゾンビ映画の一幕のような地獄絵図が、テーマパークエリアの一端において繰り広げられていた。
やがて逃げていた人々が行き止まりにぶち当たる。
「おい、行き止まりだぞ!!」
「くそっ、そっちからも来てるってのに!!」
「いやぁっ、来ないで、助けてぇ!!」
怒号、悲鳴、様々な叫び声が上がる。
それらを糧にするように、感染者は、お仲間を増やそうとゆったりとした動きで手を伸ばし、涎が滴る口を開ける。
逃亡していた人々がほとんど集団になって行動していたから、感染者もそれに倣ってこの一箇所に集中していて。
やたら人口密度が高いその場所で、惨劇が今まさに幕を開けようようとしていた――その時、だった。
「はーーいっ!! 注目注目ーーっ!!」
ばん、ばん、と花火が撃ち上がる。
カラフルな、ホログラム映像で作られたあくまで演出用の光。
人々の視線が、感染者の視線が、花火の先に集まる。
その先に居るのは、勿論、オレの乗るアメノウズメ。
ついでにホログラム映像としてスモークが上がる。
完全にオレが主人公、みたいな状況にテンションが上がって、オレは明るく名乗りを上げた。
「陽輔=アイバッヂの楽しい楽しいショータイムはっじまりはじまりー!! ゾンビさんも、ニンゲンさんも、面白おかしくド派手に、このお祭りを楽しんじゃいましょー!!」
花火が撃ち上がる。
光が、音が、色が、世界を照らす。
それは地上の地獄さえ無視すれば、テーマパークの公式イベントのような華々しさだった。
感染者たちが――その中のアンノウンたちがオレを見ていることを確認し、オレは笑う。
「あ、ちなみにさ。ニンゲンさんたちっていうの、あんたら認識カン違っちゃってるよ?」
オレがそう言った、その瞬間。
特に音もなく、何の演出もなく。
逃げ惑って追い詰められていた一般人集団の姿が、ふっと突然に消えた。
反射的に感染者たちは驚いたように顔をそちらに向けるが、そこには本当に、誰も居ない。静かな空間。
オレは狼狽える感染者の姿を見下ろして、思わず高らかに笑った。
「あっはは! ようやく気付いた? さっきまであんたらが追いかけてた人たちは、ホログラム映像で作ったニセモノのニンゲン! この花火やスモークと同じモンだよ! 他の一般人はとっくに避難してる。アンタらは釣られちゃったんだよ。――オレの相棒は、優秀だからね!」
人々のホログラム映像も、オレに視線を集める為のホログラム演出も、全部全部綾音に頼んでプログラミングしてもらった。
オレを目立たせる演出については、綾音には『ここまで派手にすることない』って文句は言われたけども――そこはまあ、楽しい方が良いってことで。
「さて。じゃあここでようやくホンモノのニンゲンさんたちの登場だぁ! みんな、出ておいで!」
オレがコックピット内でぱん、と手を叩くと、それに呼応するように、物陰から一人の落ち着いた雰囲気の青年が飛び出し笛を吹いた。
逢良=シャーウッド。
オレと同い年の、友達。
「――降り臨め、デーメーテール」
逢良の笛の音と共に、スパークのような光が周囲に走り、彼のビッグバンダーが顕現する。
鉈を携えた、頑丈そうな装甲のビッグバンダーだ。
「あっ、ずりぃ! 出遅れた! 安澄、急げ急げ! フラれ四天王が揃えない!!」
「だから俺はフラれてねえって言ってんだろうがバカ!!」
「――いや、俺もフラれてねえよ?」
わちゃわちゃと話しながら、ホープ=ラッセルの『オオクニヌシ』と安澄=ジョンストーンの『タルタロス』も到着する。
フラれ云々に安澄がキレて、逢良が冷静に物申す。
全員面白い、オレの友達。
友風と相世は別エリアで自分たちのファイターをサポート中。
で、モニターによると肝心の母体が釣られたのは――オレたちが居る、この場所。
「はいはーい、ニンゲンさまたちご到着っ!! 友情パワーで勝っちゃうぜ!! 綾音綾音、母体反応にマークつけといて!!」
「はいはい、もうやってるから」
通信越しにお願いすると、綾音の呆れた声が返ってきた。
モニターに表示された母体反応の印。
ウィルス型アンノウンを倒す方法は、母体に感染した人間の中に居るアンノウンを斬ること。
そして、オレの武器の日本刀と逢良の武器の鉈には既に、サポーターによる『アンノウンにしか攻撃が効かない』支援が付与されている。
『母体』と目が合ったオレは、にっと笑って――。
「さあ! こっからがお祭りの始まりだ!!」
アメノウズメを、地上に降下させる。
感染者の集団が行く手を阻もうとしたが、ホープが固有武器のシールドを張って上手く妨害。
時には安澄が『タルタロス』の腕部を振り回して人々を蹴散らした。そいつは乱暴すぎると思うけど。
オレと逢良は、『母体』に向かって突き進んで行く。
そうして、それぞれ日本刀と鉈を構え――。
「食らえっ! 必殺・『超絢爛・快刀乱麻』――……ってあれ?」
勢いの向くままに自慢の必殺技名を叫んだその時。
無言で逢良が、とっとと母体を斬り倒していた。
感染者たちが、一斉に倒れ始める。
モニターからアンノウン表示が一斉に消える。
安澄が蹴散らした人たち以外は……大体無傷だと思う、多分。
…………え、ウソ、終わり?
「ちょ、逢良ー!! いいとことだったのに!! 空気読んでよ!!」
「いや、空気読んでちゃちゃっとたたっ斬ったんだよ。とっとと事態収めないとヤバかったろ」
「悔しい!! まともなこと言ってるから反論できねぇ!!」
機体ごと崩れ落ちるオレに、機体越しに逢良の冷めた視線を感じる。
……まあお祭りの終わりは、いつも呆気なくて寂しいもんなあ。
なんて、勝手に自分を納得させた。
こうして無事、テーマパークエリアのひと騒動は一旦は解決したのである。
…………やっぱ良いトコ、逢良にもってかれたの悔しいけど!
その9 ニンゲンどものオマツリ
teller:陽輔=アイバッヂ
――さあ、お祭りを始めよう。
彼女のような痛みも苦しみも、何も持たないオレだから、からっぽみたいなオレだから。
だからこそ、オレの手で――オレの楽しいこと全部、作るんだ。
○
綾音が端末で提供してくれたアンノウン情報によると、今回のアンノウンには母体が居る。
ウィルスの感染源。そいつを倒せば、他のウィルスも死滅して全てのウィルス型アンノウン撃破に至れるらしい。
ただ、テーマパークエリア内のあちこちをウィルス感染した人間がうろついているから、そう簡単には母体まで辿り着けない。オレらビッグバンダーのサイズなら、特にだ。混乱が起きてしまう。
それでいて、なるべく被害を最小限に抑えたい。これ以上感染者を出すことは避けたい。
――と、なると。
作戦は、とっくに決まった。
○
人々が、逃げ惑っている。
悲鳴を上げて、絶望した表情で。
そんな彼らを容赦なく追い詰める、感染者たち。
ゾンビ映画の一幕のような地獄絵図が、テーマパークエリアの一端において繰り広げられていた。
やがて逃げていた人々が行き止まりにぶち当たる。
「おい、行き止まりだぞ!!」
「くそっ、そっちからも来てるってのに!!」
「いやぁっ、来ないで、助けてぇ!!」
怒号、悲鳴、様々な叫び声が上がる。
それらを糧にするように、感染者は、お仲間を増やそうとゆったりとした動きで手を伸ばし、涎が滴る口を開ける。
逃亡していた人々がほとんど集団になって行動していたから、感染者もそれに倣ってこの一箇所に集中していて。
やたら人口密度が高いその場所で、惨劇が今まさに幕を開けようようとしていた――その時、だった。
「はーーいっ!! 注目注目ーーっ!!」
ばん、ばん、と花火が撃ち上がる。
カラフルな、ホログラム映像で作られたあくまで演出用の光。
人々の視線が、感染者の視線が、花火の先に集まる。
その先に居るのは、勿論、オレの乗るアメノウズメ。
ついでにホログラム映像としてスモークが上がる。
完全にオレが主人公、みたいな状況にテンションが上がって、オレは明るく名乗りを上げた。
「陽輔=アイバッヂの楽しい楽しいショータイムはっじまりはじまりー!! ゾンビさんも、ニンゲンさんも、面白おかしくド派手に、このお祭りを楽しんじゃいましょー!!」
花火が撃ち上がる。
光が、音が、色が、世界を照らす。
それは地上の地獄さえ無視すれば、テーマパークの公式イベントのような華々しさだった。
感染者たちが――その中のアンノウンたちがオレを見ていることを確認し、オレは笑う。
「あ、ちなみにさ。ニンゲンさんたちっていうの、あんたら認識カン違っちゃってるよ?」
オレがそう言った、その瞬間。
特に音もなく、何の演出もなく。
逃げ惑って追い詰められていた一般人集団の姿が、ふっと突然に消えた。
反射的に感染者たちは驚いたように顔をそちらに向けるが、そこには本当に、誰も居ない。静かな空間。
オレは狼狽える感染者の姿を見下ろして、思わず高らかに笑った。
「あっはは! ようやく気付いた? さっきまであんたらが追いかけてた人たちは、ホログラム映像で作ったニセモノのニンゲン! この花火やスモークと同じモンだよ! 他の一般人はとっくに避難してる。アンタらは釣られちゃったんだよ。――オレの相棒は、優秀だからね!」
人々のホログラム映像も、オレに視線を集める為のホログラム演出も、全部全部綾音に頼んでプログラミングしてもらった。
オレを目立たせる演出については、綾音には『ここまで派手にすることない』って文句は言われたけども――そこはまあ、楽しい方が良いってことで。
「さて。じゃあここでようやくホンモノのニンゲンさんたちの登場だぁ! みんな、出ておいで!」
オレがコックピット内でぱん、と手を叩くと、それに呼応するように、物陰から一人の落ち着いた雰囲気の青年が飛び出し笛を吹いた。
逢良=シャーウッド。
オレと同い年の、友達。
「――降り臨め、デーメーテール」
逢良の笛の音と共に、スパークのような光が周囲に走り、彼のビッグバンダーが顕現する。
鉈を携えた、頑丈そうな装甲のビッグバンダーだ。
「あっ、ずりぃ! 出遅れた! 安澄、急げ急げ! フラれ四天王が揃えない!!」
「だから俺はフラれてねえって言ってんだろうがバカ!!」
「――いや、俺もフラれてねえよ?」
わちゃわちゃと話しながら、ホープ=ラッセルの『オオクニヌシ』と安澄=ジョンストーンの『タルタロス』も到着する。
フラれ云々に安澄がキレて、逢良が冷静に物申す。
全員面白い、オレの友達。
友風と相世は別エリアで自分たちのファイターをサポート中。
で、モニターによると肝心の母体が釣られたのは――オレたちが居る、この場所。
「はいはーい、ニンゲンさまたちご到着っ!! 友情パワーで勝っちゃうぜ!! 綾音綾音、母体反応にマークつけといて!!」
「はいはい、もうやってるから」
通信越しにお願いすると、綾音の呆れた声が返ってきた。
モニターに表示された母体反応の印。
ウィルス型アンノウンを倒す方法は、母体に感染した人間の中に居るアンノウンを斬ること。
そして、オレの武器の日本刀と逢良の武器の鉈には既に、サポーターによる『アンノウンにしか攻撃が効かない』支援が付与されている。
『母体』と目が合ったオレは、にっと笑って――。
「さあ! こっからがお祭りの始まりだ!!」
アメノウズメを、地上に降下させる。
感染者の集団が行く手を阻もうとしたが、ホープが固有武器のシールドを張って上手く妨害。
時には安澄が『タルタロス』の腕部を振り回して人々を蹴散らした。そいつは乱暴すぎると思うけど。
オレと逢良は、『母体』に向かって突き進んで行く。
そうして、それぞれ日本刀と鉈を構え――。
「食らえっ! 必殺・『超絢爛・快刀乱麻』――……ってあれ?」
勢いの向くままに自慢の必殺技名を叫んだその時。
無言で逢良が、とっとと母体を斬り倒していた。
感染者たちが、一斉に倒れ始める。
モニターからアンノウン表示が一斉に消える。
安澄が蹴散らした人たち以外は……大体無傷だと思う、多分。
…………え、ウソ、終わり?
「ちょ、逢良ー!! いいとことだったのに!! 空気読んでよ!!」
「いや、空気読んでちゃちゃっとたたっ斬ったんだよ。とっとと事態収めないとヤバかったろ」
「悔しい!! まともなこと言ってるから反論できねぇ!!」
機体ごと崩れ落ちるオレに、機体越しに逢良の冷めた視線を感じる。
……まあお祭りの終わりは、いつも呆気なくて寂しいもんなあ。
なんて、勝手に自分を納得させた。
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