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第五話『ハロウィン・シンドローム』

その3 祝祭と青い春

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★第五話『ハロウィン・シンドローム』
その3 祝祭と青い春

teller:ホープ=ラッセル

「安澄!! 巷で噂のテーマパークエリア行こうぜ!!」

「嫌に決まってんだろうが」

 崩れ落ちた。
 オレの手から、安澄にプレゼンする為に用意していたテーマパークエリアのチラシが滑り落ちる。
 何も秒で断ることないじゃん。何も嫌とか言うことないじゃん。
 安澄は相変わらず手強い。
 でもオレは諦めないって決めたから、こいつの満面の笑顔を見られるくらいの関係性になれるレベルまで付き纏ってやると勝手に誓っているのだ。
 崩れ落ちたまま動かないオレに明らかに呆れたような視線が突き刺さる。確実に安澄の視線だ。

「っつーか、オメー別に俺を誘わなくても、自分のサポーター誘えば良いじゃねえか。仲良いんだろ?」

「おっっと安澄、今お前はオレの心の傷を抉ったぞ。オレの心を具現化したら多分めっちゃグロい物体が出てくるぞ」

 崩れ落ちてる体勢からさらに地面に埋まるように、頭を床に沈ませる。
 傍から見たら土下座に見えなくもない体勢だと思う。
 その証拠に、頭上から安澄のドン引きした視線が刺さってくるのが見なくてもわかる。

「オレは胡桃に振られたのです」

「は?」

「一緒に行こうって誘ったら……もうリーザちゃんと綾音あやねちゃんと行くからって……女子三人水入らずだからって……」

 オレは体質上無表情のままこの台詞を言っているが、声は震えまくっている。何故なら、叶うことなら全力で泣き喚きたいからだ。

「ちくしょう……!! 女の子に、女の子に負けた……!! 胡桃はオレのマブダチなのに!! 胡桃はオレより可愛い女の子とキャッキャしてる方が楽しいんだわ!! オレの友情を弄んだのよあの子は!!」

 キィッとハンカチを噛むような仕草をして悔しさを表現する。
 だが、返ってきた安澄の言葉は冷たかった。

「……しょうもな……」

「そんなこと言っちゃって、わかってるよ安澄、うん、お前のハートはとっても良く理解している。お前もリーザちゃんが他の子と遊びに行くわけだから寂しいよな。泣きそうだよな――へぶっっ」

 踏まれた。頭を。踏み潰す勢いで踏まれた。
 今度こそ本当に床に沈むレベルで顔面を床に叩きつけられる。そのせいで鼻血が出て床を汚した。
 だがオレはすぐに顔を上げ、鼻血を垂れ流したまますくっと立ち上がり安澄の肩をぽんと叩いた。いつもの真顔で。

「というわけでオレとテーマパークに遊びに行こう、安澄。サポーターにフラれた悲しみを共に癒そう」

「俺はフラれてねえしオメーのその切り替えの早さなんなんだよ、こえーよ……」

「安澄って最近オレと長く喋ってくれるようになってきたよね。もしかして仲良し度上がってきた? っ、ぐほぇっ!!」

 殴られた。いい感じの右ストレートを頬に食らい、ただでさえ垂れ流したままだった鼻血がより周囲に飛び散る。
 状況だけ見ると割と凄惨だ。色合い的に。

「なになにー!? 面白い話してんじゃん!!」

 そんな、普通の人だったら近寄りたくもない場面に、カーバンクル寮の廊下の一つに、弾むような足音と共に新たな人物が乱入してきた。

「お、陽輔ようすけじゃん、やほー」

「よっす、ホープ! と安澄。うわっ、ホープ、顔ヤベェ!」

「ごめんな陽輔、オレの顔はデフォルトでヤバイんだ」

「急に意味わかんねえ自虐やめれー! ははっ、色々わけわかんなくておもしれー!!」

 現れたのは、陽輔ようすけ=アイバッヂ。オレや安澄と同い年のファイターで、オレとは寮生活において比較的早く仲良くなった友達。
 陽輔も明るく騒がしい性格をしているところがあるから、言ってしまえばウマが合うのだ。
 一方で、安澄は露骨に嫌そうな顔をしている。オレへの態度からしてわかるが、安澄はうるさいのが嫌いなようだから。
 が、そんなことはお構いなしにオレは安澄の腕を掴んで逃がさないようにしながら陽輔と話に花を咲かせる。

「陽輔陽輔、オレ、安澄とテーマパークエリア遊びに行くんだけど陽輔も一緒に来ねえ?」

「おいコラ、俺行くって言ってねえだろ」

「あ、マジマジ!? オレも綾音あやねにフラれたからホープたち誘おうと思ってたとこ! 行こう行こう!」

「マジか。揃っちまったな……ここに悲しきフラれ男三銃士が……」

「俺だけフラれてねえんだよ。なあ、オメーら俺のこと見えてんのか?? 声聞こえてるか??」

 安澄がそれはもうイラついてます、という顔でオレのことを睨んでいるが、ここはあえてのスルー。
 ちなみに綾音ちゃんと言うのは、綾音あやね=イルミア。オレたちと同い年で陽輔のサポーター。頼れるしっかり者の女の子である。
 胡桃とリーザちゃん、綾音ちゃんは三人で遊びに行くのね。ならばオレたちフラれ男組は、悔しさをバネに胡桃たちの倍は楽しんでやろうじゃないか。

「お、そうこう考えているうちに、逢良あいらはっけーん!」

 ちら、と目線を少し移動させた先に見知った人影を見つけた。
 精悍な顔立ちの青年、逢良あいら=シャーウッド。彼もオレ達と同い年のファイターで……カーバンクル寮の19歳男性ファイターの中ではダントツで落ち着きと良識を持ち合わせたデキる男だ。
 良く見ると、逢良は小柄な女の子と一緒に居て何かを離している様子だった。ふんわり系の、いかにも守ってあげたくなるタイプの可憐な美少女。
 彼女は逢良のサポーターの、六実むつみ=イースターブルックちゃん。まだ14歳の女の子だ。
 逢良に駆け寄ると逢良はオレたちの存在に気付き、少し訝しげな表情を浮かべた。

「どうしたんだ、急にぞろぞろと……」

「逢良、逢良! テーマパークエリア、誰かと行く予定ある!? もう六実ちゃんと約束しちゃった?」

 陽輔が、答えを待ちきれないような勢いで逢良に詰め寄る。逢良はきょとんとしている六実ちゃんに一度目配せしてから、ふるふると首を横に振った。

「いや、俺に予定はないな。六実は同い年の友達と行くらしいし」

「――なんてこった……揃っちまった、フラれ四天王が……」

「……何の話だ?」

 オレの慄くような台詞に、逢良は露骨に呆れ果てた顔をする。
 そんな混沌が極まってきた状況下で、六実ちゃんがくいっと控えめに逢良の服の裾を引いた。

「逢良さん……わたし、みんなとテーマパーク巡りの予定立てる約束してるから、そろそろ行かなきゃ……」

「ん……ああ、そうか。気をつけてな。心配だから、何かあったら連絡しろよ」

「うん、ありがとう」

 ふわっと笑って、六実ちゃんはオレたち全員にぺこりと会釈をしてぱたぱたとその場を去って行った。
 その隙にオレは、がしりと逢良の両肩を強く掴む。

「――ってことで、行こう。テーマパーク。このむさ苦しいメンツで……他の19歳男三人も誘ってほんとにみんなでさ……」

「何なんだよ、その圧は……って言うかな、ホープ。さっきから気になっていたんだが」

「ん?」

「…………鼻血、拭け。怖いから」

「あ」

 そういや鼻血垂れ流したまま話や行動を進めていたことを今思い出した。
 後ろを見ると、点々と続く血の跡。さながら事件現場のよう。
 振り返った時視界に入ったのは、腹を抱えて笑ってる陽輔と、心底オレに関わりたくなさそうに重い重い溜息をつく安澄。
 あれ、待って安澄、無関係のフリしてるけどオレを踏んだり殴ってして鼻血出させたのお前だからね??
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