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第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』
その4 道化師と優しい怪物
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★第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』
その4 道化師と優しい怪物
teller:ホープ=ラッセル
寮生活が始まって、気付けば数日。
それぞれがそれぞれのコミュニティを築いて生活している中、オレもまた例に漏れずに同年代の男連中と少しずつ話せるようになってきて、それなりに楽しい日々を過ごしていた、のだけど。
オレと同い年なのに、いつもたった一人で行動している男が一人居た。
名前は安澄=ジョンストーン。
身体がデカくて、厳つくて、目つきが悪い、まるで獣のようなやつ。
だけどせっかく同い年だし、仲良くなりたい。
何よりそいつはいつもむすっと不機嫌そうな顔を浮かべてたから。
オレが笑わせてやれたら、オレもまた幸せになれると思ったんだ。
だからつまりは、オレの為。
「安澄ーっ!」
名前を呼んで駆け寄ると、心底嫌そうな顔で振り向かれる。
だけど怯まず、オレは無遠慮にそいつに、安澄に近づいていく。
うんざりとした様子で、安澄が舌打ちをした。
「またテメェかよ。うっぜーな。俺のことなんてほっとけよ」
「んー? オレが安澄のことをほっとけねえから、それは出来ねえ相談だなあ」
オレの言葉に、安澄がますます眉間に皺を寄せる。それはそれは不機嫌そうに。
だけどオレは、安澄の剣呑な目をじっと真っ直ぐに見たまま言った。
「だって安澄、笑わねえんだもん」
オレの答えに、安澄が怪訝そうに眉を顰める。さっきからそんな顔ばっかりして、シワが増えるぞと言いたくなった。
安澄はしばらくの間居心地が悪そうに黙り込んだ後、ぼそぼそと言った。
「こんな強面しといて笑えるかよ」
「強面? 安澄はめちゃくちゃ男前じゃん。ほら、目つきとか八重歯とか鋭いしかっこいいかっこいい。これで笑顔がプラスされたら女子ウケ上がること間違いなしだ」
そう言って、安澄の頬をむに、と摘まもうとすると凄い勢いで手を振り払われる。
「オイやめろマジでぶん殴るぞ」
安澄が嫌悪と警戒心を隠そうともしないでオレを睨む。
それでも怯まず、オレは安澄を見上げた。
「そう警戒すんなって。仲良くしようや。せっかく同い年なんだしさ」
そう声を掛けてみるけれど、安澄はすぐに舌打ちをする。
「うぜぇ」
「おー、言われ慣れてるわ」
「言われ慣れてんなら改めろよ」
「そりゃできねー相談だな。これがオレだし。ウザいがオレのデフォルトなのよ」
再び安澄の頬に片手を伸ばし、今度こそむに、と口元を摘まみ上げ無理矢理口角を上げさせる。
「安澄は、笑えねえわけじゃねえんだろ? 何でいっつもむすっとしてんだよ。なんか嫌なことあんの? 楽しくない何かがあんの?」
そう訊ねると、安澄は何か言いたげな顔でオレを睨む。
だけど、オレはなにも答えなかった。安澄の言葉を待ちたかったから。
しばらく沈黙が続いた後、安澄はようやく口を開く。
「……そんなの俺の勝手だろ」
「まあ確かに? そりゃそうなんだけどさ」
ぱっと安澄から手を離し、今度は自分自身の頬をむにむにと弄ってみる。
だけど、心の中はこんなに毎日お祭り騒ぎだと言うのに、オレの口角はいつも力技じゃないと上がらない。
「――急にオレの話ね? オレさ、笑顔が作れない病気なんだ。難病。つっても命に別状はねえし普通に生きれるけど。でも、笑えない。どんなに楽しいって嬉しいって思っても、真顔のままだ」
安澄が一瞬息を呑んで、オレを見下ろす。
オレはやっぱり、その視線から目を背けない。
「だから今、オレが安澄を笑わせようとしてんのは、ただの意地みてーなもんかも。ちょっとでもいいから安澄が笑っちまえば、少しは安澄もハッピーな気分になるんじゃないかなって。そしたらオレも勿論ハッピー。オレはオレが笑えないぶん、周りを笑顔にしたいんだよな」
「……そりゃまた、傍迷惑な意地だな」
「おう、これはオレの意地でエゴだ。でも、ほんとは笑える筈の人が笑えないのって、何より悲しいことだと思うんだよ。だから……そう、オレは宇宙一の道化になる! 銀河に笑顔を振り撒いてみせる!」
「勝手にやってろ」
オレを切り捨てるようにそう言って、安澄が早足で歩き出す。
そのまま遠ざかっていく背中を、オレは追いかけた。
「なあなあ、安澄。晩飯まではもう少し時間があるだろ?」
「……何でも良いだろ」
「何でも良いならさ」
安澄の腕を引っ掴み、面食らう安澄にちゃりん、と小銭をちらつかせる。
一人が好きで、笑わなくて、多くを拒絶する安澄。
これはやっぱり、笑わせ甲斐があると判断したわけで。
「一緒にゲーセン、行かね?」
そうしてオレは、小銭を持ったままジャンク屋区域の方向を指差した。
この小さな旅が、安澄に笑顔をもたらしてほしいって言うか、なんつーか。
ゲームをやれば全人類笑顔になれる、と言うのはガチゲーマーであるオレのサポーター・胡桃の受け売りだった。
その4 道化師と優しい怪物
teller:ホープ=ラッセル
寮生活が始まって、気付けば数日。
それぞれがそれぞれのコミュニティを築いて生活している中、オレもまた例に漏れずに同年代の男連中と少しずつ話せるようになってきて、それなりに楽しい日々を過ごしていた、のだけど。
オレと同い年なのに、いつもたった一人で行動している男が一人居た。
名前は安澄=ジョンストーン。
身体がデカくて、厳つくて、目つきが悪い、まるで獣のようなやつ。
だけどせっかく同い年だし、仲良くなりたい。
何よりそいつはいつもむすっと不機嫌そうな顔を浮かべてたから。
オレが笑わせてやれたら、オレもまた幸せになれると思ったんだ。
だからつまりは、オレの為。
「安澄ーっ!」
名前を呼んで駆け寄ると、心底嫌そうな顔で振り向かれる。
だけど怯まず、オレは無遠慮にそいつに、安澄に近づいていく。
うんざりとした様子で、安澄が舌打ちをした。
「またテメェかよ。うっぜーな。俺のことなんてほっとけよ」
「んー? オレが安澄のことをほっとけねえから、それは出来ねえ相談だなあ」
オレの言葉に、安澄がますます眉間に皺を寄せる。それはそれは不機嫌そうに。
だけどオレは、安澄の剣呑な目をじっと真っ直ぐに見たまま言った。
「だって安澄、笑わねえんだもん」
オレの答えに、安澄が怪訝そうに眉を顰める。さっきからそんな顔ばっかりして、シワが増えるぞと言いたくなった。
安澄はしばらくの間居心地が悪そうに黙り込んだ後、ぼそぼそと言った。
「こんな強面しといて笑えるかよ」
「強面? 安澄はめちゃくちゃ男前じゃん。ほら、目つきとか八重歯とか鋭いしかっこいいかっこいい。これで笑顔がプラスされたら女子ウケ上がること間違いなしだ」
そう言って、安澄の頬をむに、と摘まもうとすると凄い勢いで手を振り払われる。
「オイやめろマジでぶん殴るぞ」
安澄が嫌悪と警戒心を隠そうともしないでオレを睨む。
それでも怯まず、オレは安澄を見上げた。
「そう警戒すんなって。仲良くしようや。せっかく同い年なんだしさ」
そう声を掛けてみるけれど、安澄はすぐに舌打ちをする。
「うぜぇ」
「おー、言われ慣れてるわ」
「言われ慣れてんなら改めろよ」
「そりゃできねー相談だな。これがオレだし。ウザいがオレのデフォルトなのよ」
再び安澄の頬に片手を伸ばし、今度こそむに、と口元を摘まみ上げ無理矢理口角を上げさせる。
「安澄は、笑えねえわけじゃねえんだろ? 何でいっつもむすっとしてんだよ。なんか嫌なことあんの? 楽しくない何かがあんの?」
そう訊ねると、安澄は何か言いたげな顔でオレを睨む。
だけど、オレはなにも答えなかった。安澄の言葉を待ちたかったから。
しばらく沈黙が続いた後、安澄はようやく口を開く。
「……そんなの俺の勝手だろ」
「まあ確かに? そりゃそうなんだけどさ」
ぱっと安澄から手を離し、今度は自分自身の頬をむにむにと弄ってみる。
だけど、心の中はこんなに毎日お祭り騒ぎだと言うのに、オレの口角はいつも力技じゃないと上がらない。
「――急にオレの話ね? オレさ、笑顔が作れない病気なんだ。難病。つっても命に別状はねえし普通に生きれるけど。でも、笑えない。どんなに楽しいって嬉しいって思っても、真顔のままだ」
安澄が一瞬息を呑んで、オレを見下ろす。
オレはやっぱり、その視線から目を背けない。
「だから今、オレが安澄を笑わせようとしてんのは、ただの意地みてーなもんかも。ちょっとでもいいから安澄が笑っちまえば、少しは安澄もハッピーな気分になるんじゃないかなって。そしたらオレも勿論ハッピー。オレはオレが笑えないぶん、周りを笑顔にしたいんだよな」
「……そりゃまた、傍迷惑な意地だな」
「おう、これはオレの意地でエゴだ。でも、ほんとは笑える筈の人が笑えないのって、何より悲しいことだと思うんだよ。だから……そう、オレは宇宙一の道化になる! 銀河に笑顔を振り撒いてみせる!」
「勝手にやってろ」
オレを切り捨てるようにそう言って、安澄が早足で歩き出す。
そのまま遠ざかっていく背中を、オレは追いかけた。
「なあなあ、安澄。晩飯まではもう少し時間があるだろ?」
「……何でも良いだろ」
「何でも良いならさ」
安澄の腕を引っ掴み、面食らう安澄にちゃりん、と小銭をちらつかせる。
一人が好きで、笑わなくて、多くを拒絶する安澄。
これはやっぱり、笑わせ甲斐があると判断したわけで。
「一緒にゲーセン、行かね?」
そうしてオレは、小銭を持ったままジャンク屋区域の方向を指差した。
この小さな旅が、安澄に笑顔をもたらしてほしいって言うか、なんつーか。
ゲームをやれば全人類笑顔になれる、と言うのはガチゲーマーであるオレのサポーター・胡桃の受け売りだった。
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