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第二話『永遠少年殺人事件』
その4 永遠少年
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★第二話『永遠少年殺人事件』
その4 永遠少年
teller:バッカス=リュボフ
やって来ました、セントラルエリアの飲食街区域のファミリーレストランの一つ。
お酒あり、喫煙席も兼ね備えている一店。
おれは喫煙者ではないが、何故喫煙席がある店を選んだのかと言うと。
「愁ちゃんって喫煙者だったのかー。うおう、金髪+タバコとなるとますますガラわりーや」
「愁ちゃんって呼ぶな。おまえ、年下への距離感ミスった痛いおっさんまんまで正直うぜえ」
愁水くんこと愁ちゃんが、ばりばりの喫煙者だったからである。
仲良くなりたいから親しみを込めて『愁ちゃん』と呼んでみたが一蹴されてしまった。ここは諦めないの精神が肝心だから、頑なに『愁ちゃん』と呼び続けることにしよう。
そうだ、愛称と言うと。
「あ、愁ちゃん愁ちゃん。おれのことは馬鹿スで良いぜ!」
「……それ、蔑称じゃねえの?」
まあ蔑称だけど、ピアスに呼ばれ続けているからとっくに慣れた。
デブスよりはマシだから、別に嫌じゃないし。ポジティブにいこう。
もりもり朝ごはんをどんぶりが重なりまくるほど食べて上機嫌のおれは、空っぽの酒瓶をマイク代わりにロマネスクの推し曲を口ずさむ。
「そんじゃ、親睦を深めたいので! 一曲歌います! ついでにロマネスクを布教します!」
「深めたくねえよそんな親睦。つーか普通に周りに迷惑だからやめろ」
「ぐふっ」
ガードが甘い脇腹に愁ちゃんから肘鉄を食らった。
だがおれの柔らかさと硬さがちょうどいい身体では、こんな攻撃は朝飯前。朝飯中だけど。
さて、愁ちゃんとはそこそこ話せるようになってきたけど。
おれはちらりと、隣の席に座る白髪の少年を見やる。
彼の自己申告にょると、名前はオリヴィエール=ロマン。愛称は『オリーヴ』。
第100地区の代表ファイターらしい。
オリーヴくんは、さっきから黙々とごはんを食べている。
あまりに喋らないから人見知りなのかと思ったが、様子を見ていたらどうやら単純にごはんに夢中になっているだけらしい。
表情はあまり変わらないけど、目にどこか輝きがある気がするから。
うんうん、少年のそういう目はお兄さん大好きだ。
さらにはかなりの健啖家らしいオリーヴくんが牛丼の次にグラタンの皿を取ったのを機に、おれはメロンソーダを飲みながら訊ねてみた。
「そういや、オリーヴくんって歳いくつ? まだ聞いてなかったよね?」
「76歳だが」
「へー、76……………え?」
賑やかなファミレスの一角、おれと愁ちゃんとオリーヴくんの席だけ、まったくの無音状態とも言える静けさに襲われた錯覚さえ覚えた。
当のオリーヴくんはもそもそと熱々のグラタンをなんてことないように口に運んで堪能しているけど。
先に我に返ったのは愁ちゃんだった。
愁ちゃんはタバコを灰皿に押し付けると、オリーヴくんを何とも言えない目で見る。
「……いや、冗談にもならないしょうもねえ嘘つくなよ。おまえ、どう見たってガキだろうが」
「本当だ、若造」
「あ?」
オリーヴくんは一旦スプーンを止めると、ちら、とテーブルに視線を走らせ、ゆっくりとフォークを手に取る。
そのままオリーヴくんは、一切の躊躇なくフォークで自分の手の甲を突き刺した。
…………え?
赤い血がぶしゃりと思いのほか勢いよく飛び散り、テーブルの一部を汚す。
絶句しているおれと愁ちゃんを意にも介さず、オリーヴくんは痛みなんて感じさせない無表情のまま。
だけど、真に驚くべきはここからだった。
フォークで突き刺した筈のオリーヴくんの手の甲の傷が、たちまち治っていったのだ。細胞が、血が作られ、皮膚が再生され。
数秒も経たないうちに、オリーヴくんの手の甲はごく普通の無傷な『少年』のものになっていた。
オリーヴくんは、淡々と言う。
「16の時に不老不死の霊薬を飲んでな。それ以来、こういう体質なんだ。どんな怪我を負っても絶対に死ぬことはないし、絶対に老けもしない。だからおれは、外見は16歳だが実年齢は76歳。これで理解したか?」
「いや、刺すなよ!?!? 心臓止まるかと思ったわ!! 朝からシャレにならねー自傷行為見せんな!! しかも飯時に!!」
愁ちゃんが、慌ててテーブルにこびりついた鮮血をティッシュで拭き取っていく。
おれはと言うと、一旦気分を落ち着ける為にも、もしかしたら血がかかっているかもしれないミートソースパスタを啜りながら訊ねた。
「そっかー、年上だったかー。あ、じゃあ『オリーヴくん』じゃなくて『オリーヴ氏』って呼んでもいい?」
「別に構わんが」
「どさくさに紛れて仲良くなってんじゃねーよ!! ああ、もうおまえらめんどくせえ……!!」
愁ちゃんが頭を抱えかねない勢いで項垂れるが、テーブルの掃除はそこそこきっちりこなしてくれた。頼れる男だな。
おれと愁ちゃんとオリーヴ氏。
賑やかなメシトモグループ完成……とはしゃぎたかったが、愁ちゃんには帰り際に『もう二度とお前らとはメシ食いに行かない』とぴしゃりと告げられてしまった。まあ、またドアノック攻撃仕掛けりゃ付き合ってくれるか、愁ちゃんなら。
なるほど、なるほど。実年齢76歳の、不老不死の永遠少年。
カーバンクル寮での生活は、おれの予想以上に、異文化交流の巣窟になりそうだ。
その4 永遠少年
teller:バッカス=リュボフ
やって来ました、セントラルエリアの飲食街区域のファミリーレストランの一つ。
お酒あり、喫煙席も兼ね備えている一店。
おれは喫煙者ではないが、何故喫煙席がある店を選んだのかと言うと。
「愁ちゃんって喫煙者だったのかー。うおう、金髪+タバコとなるとますますガラわりーや」
「愁ちゃんって呼ぶな。おまえ、年下への距離感ミスった痛いおっさんまんまで正直うぜえ」
愁水くんこと愁ちゃんが、ばりばりの喫煙者だったからである。
仲良くなりたいから親しみを込めて『愁ちゃん』と呼んでみたが一蹴されてしまった。ここは諦めないの精神が肝心だから、頑なに『愁ちゃん』と呼び続けることにしよう。
そうだ、愛称と言うと。
「あ、愁ちゃん愁ちゃん。おれのことは馬鹿スで良いぜ!」
「……それ、蔑称じゃねえの?」
まあ蔑称だけど、ピアスに呼ばれ続けているからとっくに慣れた。
デブスよりはマシだから、別に嫌じゃないし。ポジティブにいこう。
もりもり朝ごはんをどんぶりが重なりまくるほど食べて上機嫌のおれは、空っぽの酒瓶をマイク代わりにロマネスクの推し曲を口ずさむ。
「そんじゃ、親睦を深めたいので! 一曲歌います! ついでにロマネスクを布教します!」
「深めたくねえよそんな親睦。つーか普通に周りに迷惑だからやめろ」
「ぐふっ」
ガードが甘い脇腹に愁ちゃんから肘鉄を食らった。
だがおれの柔らかさと硬さがちょうどいい身体では、こんな攻撃は朝飯前。朝飯中だけど。
さて、愁ちゃんとはそこそこ話せるようになってきたけど。
おれはちらりと、隣の席に座る白髪の少年を見やる。
彼の自己申告にょると、名前はオリヴィエール=ロマン。愛称は『オリーヴ』。
第100地区の代表ファイターらしい。
オリーヴくんは、さっきから黙々とごはんを食べている。
あまりに喋らないから人見知りなのかと思ったが、様子を見ていたらどうやら単純にごはんに夢中になっているだけらしい。
表情はあまり変わらないけど、目にどこか輝きがある気がするから。
うんうん、少年のそういう目はお兄さん大好きだ。
さらにはかなりの健啖家らしいオリーヴくんが牛丼の次にグラタンの皿を取ったのを機に、おれはメロンソーダを飲みながら訊ねてみた。
「そういや、オリーヴくんって歳いくつ? まだ聞いてなかったよね?」
「76歳だが」
「へー、76……………え?」
賑やかなファミレスの一角、おれと愁ちゃんとオリーヴくんの席だけ、まったくの無音状態とも言える静けさに襲われた錯覚さえ覚えた。
当のオリーヴくんはもそもそと熱々のグラタンをなんてことないように口に運んで堪能しているけど。
先に我に返ったのは愁ちゃんだった。
愁ちゃんはタバコを灰皿に押し付けると、オリーヴくんを何とも言えない目で見る。
「……いや、冗談にもならないしょうもねえ嘘つくなよ。おまえ、どう見たってガキだろうが」
「本当だ、若造」
「あ?」
オリーヴくんは一旦スプーンを止めると、ちら、とテーブルに視線を走らせ、ゆっくりとフォークを手に取る。
そのままオリーヴくんは、一切の躊躇なくフォークで自分の手の甲を突き刺した。
…………え?
赤い血がぶしゃりと思いのほか勢いよく飛び散り、テーブルの一部を汚す。
絶句しているおれと愁ちゃんを意にも介さず、オリーヴくんは痛みなんて感じさせない無表情のまま。
だけど、真に驚くべきはここからだった。
フォークで突き刺した筈のオリーヴくんの手の甲の傷が、たちまち治っていったのだ。細胞が、血が作られ、皮膚が再生され。
数秒も経たないうちに、オリーヴくんの手の甲はごく普通の無傷な『少年』のものになっていた。
オリーヴくんは、淡々と言う。
「16の時に不老不死の霊薬を飲んでな。それ以来、こういう体質なんだ。どんな怪我を負っても絶対に死ぬことはないし、絶対に老けもしない。だからおれは、外見は16歳だが実年齢は76歳。これで理解したか?」
「いや、刺すなよ!?!? 心臓止まるかと思ったわ!! 朝からシャレにならねー自傷行為見せんな!! しかも飯時に!!」
愁ちゃんが、慌ててテーブルにこびりついた鮮血をティッシュで拭き取っていく。
おれはと言うと、一旦気分を落ち着ける為にも、もしかしたら血がかかっているかもしれないミートソースパスタを啜りながら訊ねた。
「そっかー、年上だったかー。あ、じゃあ『オリーヴくん』じゃなくて『オリーヴ氏』って呼んでもいい?」
「別に構わんが」
「どさくさに紛れて仲良くなってんじゃねーよ!! ああ、もうおまえらめんどくせえ……!!」
愁ちゃんが頭を抱えかねない勢いで項垂れるが、テーブルの掃除はそこそこきっちりこなしてくれた。頼れる男だな。
おれと愁ちゃんとオリーヴ氏。
賑やかなメシトモグループ完成……とはしゃぎたかったが、愁ちゃんには帰り際に『もう二度とお前らとはメシ食いに行かない』とぴしゃりと告げられてしまった。まあ、またドアノック攻撃仕掛けりゃ付き合ってくれるか、愁ちゃんなら。
なるほど、なるほど。実年齢76歳の、不老不死の永遠少年。
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