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第一話『主人公はおデブちゃん!?』

その5 武器は己の拳のみ

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★第一話『主人公ヒーローはおデブちゃん!?』
その5 武器は己の拳のみ

 『バトル・ロボイヤル』の開催が政府の方で決められたのは、それこそ二十年前くらいだそうだけど、そこから各地でビッグバンダー開発、ファイター育成にかかる時間もまた長かった。
 セントラルエリアのような中立地区には、いくつかファイター養成学校と称した士官学校のような場所が建てられたらしい。
 おれがファイター候補生として最初にセカンドアース上層部に声をかけられたのは、今より五、六年前のこと。
 当時のおれは、『相棒』と一緒に小さなゴーレム兵を操縦して力仕事を行う『何でも屋』を第29地区の端っこで営んでいた。
 セカンドアースの原住民か何かが太古の魔法を扱っていたらしく、その技術が今もビッグバンダーの『召喚魔法』などにも応用されていると聞くけど、ゴーレム兵もその手の人たちが遺したものだった、そうだ。
 おれたちは、と言うよりおれは、子どもの頃にたまたま目に触れたそれを生きる目的で使っていたからゴーレムの由来や歴史なんて気にしたことはなかったんだけど、ゴーレム兵を取り扱える人間はセカンドアースでも希少だったからという理由でおれたち何でも屋は第29地区内だとそれなりに重宝された。
 おれが操縦担当、『相棒』がゴーレムの整備、改良、依頼や報酬の管理担当、みたいな。
 ある日、おれたちの評判を聞きつけた第29地区の最高権力者さんが、おれたちの元にやってきて、おれと『相棒』をバトル・ロボイヤルに誘った。
 何でも、ゴーレム兵の操縦技術は、ビッグバンダーの操縦技術に通じるものがあるとかで。
 バトル・ロボイヤルでセカンドアースが良い意味で盛り上がるなら、争いがちょっとでもなくなるなら、食糧事情とかが解決されるなら、みんながより美味しいご飯をいっぱい食べられるなら。
 ――それも、いっかな。
 そんな軽いノリで、おれはファイター候補生の誘いを引き受けたのだ。





「は……!? ビッグバンダ―、だと……!?」

 公園を襲撃したファイター候補生、クエイク=ワイルダーの戸惑った声がスピーカー越しに聞こえる。
 完全に、裏をかけたのは自分だけだと思っていたのだろう。
 残念だったね、ざまーみろ、まだおれが残ってる。
 これもシュークリームとロマネスク、及びクラリスたんさまさまだ。
 ……なんて言ったら、『相棒』にぶっ飛ばされるんだろうなあ。
 結果オーライなんだからいいじゃん、っておれは言い訳したいけど、それを成立させる為にはまずこいつに勝たなきゃ。

 ビッグバンダーの移動は主に、片手側に位置したレバーと、足元のアクセルとブレーキで行われる。
 より細かい動きは、コックピットの中央部にあるパソコンのコンピュータに近いキーボードを操作する形で行う。
 攻撃、反射、回避、旋回――さらに細かい動きは、これはもう『感覚共有』だ。
 おれの首元の、ビッグバンダー召喚の基盤になった『ホイッスル』が鍵になってくる。
 このホイッスルはこう見えて超高性能コンピュータで、おれの生体データが丸ごと登録されている。
 これと繋がることで、ビッグバンダーをおれが生身を動かすように、自由に動かすことができるのだ。
 プログラミング次第では、『痛覚』もビッグバンダーと共有できる。
 痛覚を共有させればさせるほど、ビッグバンダーの動作の自由性は増すのだが――ファイターの精神的負担を考えて、強度の高い感覚共有はあまりお勧めされていない。
 おれは丈夫だし、そういう感覚に鈍感な方だからあんまり気にしてない方だけど、そこらへんの匙加減は『相棒』に管理してもらっている。
 あいつは頼りになるから、完璧完全安心。
 おれは右足で『トヨウケ』のアクセルを踏み、目の前の漆黒のビッグバンダ―に向かって脇目も振らずに突進する。
 はっとクエイクの息を呑む音が一瞬聞こえたが、すぐに切り替えたのかこちらにぱらぱらっと銃撃をお見舞いしてくる。
 おれはキーボードで回避動作を入力し、脳裏にも『回避』のイメージを刻むことで、ごつい装甲に反して身軽な動きも出来ちゃう『トヨウケ』の瞬発力を駆使してエネルギー弾の銃撃を上手く躱していく。
 だってこの回避の動きはさっき生身で味わったばかりだから、まだ身体が憶えているんだ。
 機体という強い鎧兼武器を手に入れた今は勿論突っ込むことも忘れずに、おれは相手さんの懐に入り込み、丁度胸部のコックピット辺りをがちがちに強化した拳で殴りつけた。
 クエイクの呻き声が響き、黒いビッグバンダ―が微かに振動する。
 少しは相手の『痛覚』に響いたらしい。
 それでもクエイクは結構しぶとくて、クエイクのビッグバンダーは『トヨウケ』の顔面に向かって弾丸を放った。

「うおっ、とお!?」

 おれは慌ててひっくり返り、『トヨウケ』をブリッジさせる形に持ち込む。
 衝撃でコックピットが逆さまになり、ばばばば、と耳障りな銃撃音が宙を舞った。
 おれの膝の上に居たエレノアちゃんが小さく悲鳴を上げ、チャドくんもまた、慌てておれにしがみついてきた。
 コックピットに、『相棒』の通信が響く。

『馬鹿ス! 相手のビッグバンダーを解析しといたわ! 向こうの攻撃方法は完全に銃撃戦頼み! もうわかってると思うけど、アンタのトヨウケじゃ距離を取れば取るほど不利よ! 相手の銃撃は、アタシの方でいくらかシールドを設置しといたからそれで凌いで、何とかアンタのお得意の接近戦に持ち込んで!』

「さっすが! 頼りにしてるぜ、『相棒』!」

 さすが、おれの相棒は気が利くんだよなあ。
 超有能、おれの自慢の相棒で、親友だ。
 『トヨウケ』はどこまでも格闘術、肉弾戦が専門で、銃撃機能も飛行機能もない、完全に接近戦特化タイプのビッグバンダーだ。
 武器は己の拳のみ。
 それは、おれがぽっちゃりしている割にはそれなりに腕っ節が強いからでもあるし、元々使ってたゴーレム兵に『武器』がなかったせいもある。
 だから、『トヨウケ』はこういう飛び道具持ちのビッグバンダーとは多分相性が悪い。
 ――でも。
 でも、だからこそ――ゴリ押しすると、結構強いんだ。
 それにおれは、走るのは、駆けるのは、かなり好きだし。
 おれは『トヨウケ』を素早く起き上がらせ、クエイクのビッグバンダーにスライディングでもするかのように飛び込む。
クエイクがばらばらと派手に撃って来たが、おれの周りにあちこちに浮かぶ水色の透明な壁、みたいなものに上手いこと全ての銃弾は弾かれた。
 これは、『相棒』が張ってくれた『シールド』だ。
 相棒の、戦闘支援プログラミング能力が為せる技。
 シールドを一個踏み台にし、おれはぴょんと駆けて跳ねるように黒いビッグバンダーに接近し、『トヨウケ』に向けられていた銃口を、つまりはお相手さんの機体の片手部分を素早く掴む。
 相手がアクションを起こすより先に、ひっくり返すようにおれはそのままビッグバンダ―を『トヨウケ』の背面へと投げ飛ばした。
 がん、とひどく大きな音が公園に響き渡る。
 危うく地響きすら起きるんじゃないかってくらい。
 さっきとは逆に、クエイクのビッグバンダーがブリッジっぽい態勢になっている。
 エレノアちゃんは目をぎゅっと閉じて耳を塞いでいたけど、こんなの慣れっこなおれはこの勢いを、流れを殺さぬうちに漆黒のビッグバンダ―に圧し掛かり、マウントを取るような体勢に持ち込む。
 チャドくんの方はうっすら目を開けて、瞳を輝かせておれの戦いを見守ってくれているのが心強い。
 気がつけばおれはまた大好きな歌を口ずさんでいたらしく、ちょうど今は推しメインの曲のサビに差し掛かるところで、運命なんか感じちゃったりして。
 それからおれは、ホイッスルに全神経を集中させ、レバーを一瞬離し、右手に全身の力を込め――。

「この拳はごはんの為に! この想いはごはんの為に!! この未来もごはんの為に!!!! 腹が減っては戦は出来ぬ!!!!!! バーニィィィィング……焼き飯・フィスト!!!!!!!!」

 ――渾身の一撃を、漆黒のビッグバンダ―の胸部に、コックピットに叩き込んだ。
 ちなみにおれは、戦闘時に必殺技の名前を叫ぶのは大事だと思ってる。
 だってロマンじゃん?
 重たい音がして、ビッグバンダ―の胸部が盛大に凹む。
 その凹んだ隙間を利用して、がんっと力任せにコックピットを守る装甲を剥ぎ取ると、クエイクは目を回して気絶していて。
 ――よしよし、戦闘終了。
 おれはにっと笑い、ピースサインを誰に向けるわけでもなく掲げた。

「大勝利!! ……なんてねっ!!」

 いいね、我ながら瞬殺瞬殺。
 ――まあ、一件落着ってことで良いんでない?
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