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痕
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こそっと、様子を盗み見る。
「…っ、う、」
と、ぱちっと目があって、…瞬間、氷点下を一気に下るような視線が投げられた。
「…あの、オレ、何かしましたか…?」
「自覚ないんだ。へぇ、流石天然ジゴロはレベルが違う」
パイプ椅子に座り、優雅に長い足を組んだまま不機嫌そうに顔を背けられる
しかも嫌味っぽく言われた。それになんだか、怒っている。…というか拗ねている。
「貴方の言った通り、彼女と別れました」
従ったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだと困惑する。
「…頭撫でたり、友達になりましょうとか言ってたけどな」
機嫌が良くなるどころか、皮肉な口調で非難されて、それの何が悪かったのかとたじたじになった。
「それより前も言ったけど、敬語やめろ。嫌だ。ぞわぞわする」と、続けてじとっと睨みつけられて、曖昧に笑う。
あの後、体中の水分を吐き出しきる勢いで抱きついたまま泣く彼女が幼い子どものように見えて、
”悪いのは麻由里さんじゃなくて、オレなんだよ。だから、責めるのはオレにして”
って、できるだけ優しく声をかけながら、困って少しぎこちなく、よしよしと頭を撫でてていた。
……正直相手の年齢を考慮しても頭を撫でていいのかとも思ったけど、前のオレは慰めるときにそういうことをしてたって聞いたから、…多分、行動としては問題なかったと…思う。
結局どうしようか考えて、彼女としては接することができないけど、友達になれませんかという話をした。
けど、彼は『友達』ではなく、もっと別の対応を求めていたようだった。
……オレがその発言をした瞬間に一瞬で空気が凍り付いたのがわかった。
言葉には出さないのに、わかりやすく表情が冷め、機嫌が悪くなった。
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